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195話


 皆が頑張ってくれたおかげで、塗料でベチャベチャになっていた祠はすっきりキレイに片付いた。


 その間、俺はフォティアの相手をしていたのだが、何か物語を聞かせろというので、前世で好きだった昔ばなしの、木こりと天女が時を超えて結ばれるという話をアレンジして話してあげたところ、とても気に入ってくれた。


 「素晴らしい物語であった。もっとないのか?もっと聞かせろ!」


 精霊は娯楽が好きなようで、こういった話は好きなのかも。俺の横にちょこんと座って、足を無邪気にバタつかせる様子がかわいい。うん、かわいいかよ


 「う~ん、もっと話してあげたいのだけれども、祠の掃除が終わったようだね」


 見れば里の者が大勢、フォティアがいる方角に頭を下げている。…いつの間にかこんな大所帯で掃除をしていたようだ。それだけ里にとって彼女の存在は大きいのだろう


 代表し、巫女が最前列へ。そして膝をついた


 「我らが精霊様、祠の修繕が完了しました」


 「うむ!ご苦労」


 フォティアは祠のその周辺を飛び回り、満足そうに何度か頷く


 「ふむ…良いぞ。サトルとこの修繕に免じ、此度の精霊に対する行いは厳しく咎めたりはしない。今は気分が良いのでな!ほほほ」


 「精霊様の寛大な処置に感謝致します」


 巫女の言葉により、精霊の赦しが出たことを察した里の人々は皆安堵し、互いの顔を見合わせたり喜んだりしている…ひとまず大事に至ることが無くなってよかった。これで、精霊祭は例年通りに行われるだろう


 「む……そろそろ時間切れか。サトル、お菓子と楽しい物語、また聞かせてほしい。定命の者たちよ…精霊祭で待っている。くれぐれも、失態のないように!ではな」


 フォティアの姿が薄っすらと、少しずつ透明になっていく。やがて火の粉のような輝きを残し、姿を完全に消してしまった。…言葉からして、現世にあの姿でいられる時間は限られているようだな。本来は精霊降ろしという手順を踏む必要があるだろうに、そんな順序を全てをすっ飛ばして降りてくるなんて、おてんば娘というか何というか…


 「リンドウさん、フォ…精霊様は話し合いに応じてくれたよ。これで一安心かな?」


 「はい……。あの、サトル様は、見ず知らずの私達のため、なぜそこまでして下さるのでしょうか?花へ加護を授けるだけなら、さきほどのタイミングで、精霊様に直接お伝えすれば目標は達成できたはずです…それなのに、なぜ?」


 「う~ん。ここまで関わってしまった以上、リンドウさんには笑顔でいてもらいたい」


 「……え?それだけ…なのでしょうか?」


 「うん。それだけじゃ、だめなの?目的って自分で作るものでしょう?」


 リンドウは驚き、そして覚悟めいた表情になった


 「…私も、変わるべきかもしれませんね。…すぐに貴方のようには成れないかもしれない。でも…少なくとも、鱗の色など関係なく、人を人として見れる。そんな貴方のように」


 リンドウは里の衆に向かい両手を広げて堂々たる声を響かせる。声は少しだけ震えており、緊張と恐怖が入り混じっているのも感じた。


 「巫女リンドウが、精霊様の声をお伝えします。精霊様は、我らの恩人であるサトル様と我々の献身によって、此度の失態をお許しになりました!」


 「おおぉ!」「それはまことか」「これで来年も豊作じゃ…」「巫女様のここまでハッキリとした意志表明は初めて聞いたぞ!」


 里の者は、それぞれ好き勝手に言うが、リンドウは声の震えを押し殺して、話を続ける


 「ただし、精霊様は失態がないようにと念押しをされました。万一失敗すれば、我々が加護を受けることも叶わなくなるでしょう。そのため、此度の精霊祭は絶対に失敗できませんの。……私の鱗の色によって、精霊祭の巫女に相応しくないと思われる方もいるかもしれません。今まで、精霊様のお話をお聞きできる者は、赤き鱗の者であると慣例がありました。そして、そのしきたりから私自信、心もとない気持ちで巫女という仕事に向き合っていました。でも、それは違うと気がついたのです。今重要なのは、精霊祭を成功させること。その目的のために、一丸となることですの。どうか、今は里のため、その目的のためだけの一時的なものでも良いですの。皆の力を貸してほしいですの!そのために私は、巫女という立場を全うします!」


 初めて出会った頃のリンドウの、自信のない姿はもうどこにもなかった。


 彼女に対して、一番最初に拍手を送ったのは俺だ。そして里長、そして里の年長者と続き次第に彼女を称える声は大きくなっていく


 湖に投げられた石は波及しやがて大きな波紋となるように、彼女の変化が、成長が、この里全体にも影響して広がるように、少しづつ変化の時を迎え始めたのだ



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