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193話


 「何だか体が火照っている感じがするぞ…」


 精霊を祀る祠の落書きを落としていくと、体中が熱くなってくる。運動して体が火照っている感じとは違う。もっと暑い…まるで火のそばにいるような…


 ちょっと休憩するかな


 祠を拭く手を止めてふと横に目をやると、誰かがいることに気づいた


 「何故手を止めるのだ。ほれ、まだ汚れは残っておるぞ!」


 なんかいるー!


 …いつの間にか俺の横には女の子が腕を腰に当て、俺の動きを不機嫌そうな顔で逐一観察している


 リンドウの目の色に酷似した緋色の目と緋色の髪は輝いており、腰まで無造作に伸びている。服装も赤で統一されており、ワンピースを思わせるシンプルなものだ。小麦色の肌が健康的な印象を感じさせるが、身長は俺より低いので、年下っぽさがある。体の周りからは圧倒的な熱を帯びた魔力を漂わせている。


 「あっはい」


 俺は止めていた手を動かし作業を続行しつつ考える


 まず誰だよとか、どこから出てきたよとか、色々とツッコミたいところではある。しかし、誰もこの子を見ようともしていないところからすると、里で何らかの理由があって無視されたり冷遇されている子かもしれない。まだカプシのような奴がいるとは思いたくないが…そう思うと何だか痛ましい気持ちになってきた。里の子であれば、祠の掃除を手伝ってほしいところではあるが…うん、皆が無視するなら、せめて俺からは優しく接しよう


 「お菓子食べる…?」


 休憩中食べようと思っていたお菓子を取り出した。サリーがコッソリ隠していた秘密のお菓子だ。彼女はいつも食べているし、少しくらい良いよね…?


 「な…お菓子!?…あ。ふ、ふん!そんなもの要らないよ!我は怒っているのだぞ!」


 女の子は一瞬だけ動揺したが、ワイロに動じず…もう少しか?


 「みずみずしくて…甘くて…とっても美味しいよ!」


 蜜のような甘味と果物を漬けただけのものだが、こんなのでも貴重なお菓子だ。これに動じない子などいないだろう…ふふふ


 「……」


 「ほーれ、ほーれ」


 女の子の前でお菓子を入れたビンを動かすと、女の子の顔もビンの方向にホーミングするので面白い


 「ど、どうしてもって言うなら受け取るけど!」


 そんなことを言いつつ、女の子はビンを奪いとった。野生の猫のように俺から若干の距離をとり、ビンのフタを恐る恐る開けて食べ始める。


 「あ…あまーーい!」


 ほっぺを両腕でおさえて、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。かわいいかよ


 「喜んでもらえたようで良かった」

 

 女の子は恐るべき速度でお菓子を食べ終わり、ふと我に返る


 「っは!?……ふ、ふん。お供物としては合格だ。大義であったぞ…もっとない?」


 もう一つあるが、さすがに全部あげちゃうとサリーが泣きそうなので、それは断っておく


 「ごめん、あとは仲間で食べるものなんだ。さぁ、今は精霊のために祠を掃除しているから、そろそろ良いかな?満足したらお家に戻るんだよ」


 「そうか…それなら仕方ないな。またくれるのなら許してやろう」


 何だか偉そうな子だ。もしかしたらこれが災いして皆から無視されているのかな?それでも俺は優しくしちゃうぞ。かわいい一面が見れたからね!


 「わかった。滞在中に時間があればまた作るよ。一人でお家に帰れるかい?」


 「うむ、すぐそこだからな。家に戻るとしよう」


 …良かった。大人しく帰ってくれるようだ。これで掃除を再開できるぞ


 と思ったのも束の間。少女は何を思ったのか、俺が掃除する予定の祠まで歩いていき、その屋根に座って、足をぶらぶらさせ始めた。


 「あのー、君?そこは神聖な場所らしいから、あまりそういうことをするもんじゃないよ。あと、キチンと家まで帰りなさい」


 「何を言っておる!此処が我の家だ!お主が帰れと言ったから帰ったんじゃろうが!まったく…」


 どうやら少女は祠が家という。…家出にしても、もっとマシな言い訳があるだろうに…


 仕方ない…気が済むまで作業の邪魔にならない程度に構ってあげよう。あと邪魔だから退かそう


 俺は少女を祠から、ゆっくり降ろして頭をなでる。扱いは、まんまフォノス相手のような気分だが


 「少し大人しくしているんだよ。良い子にしてたらお菓子もあるから」


 「まことか!?あいわかった」


 …ちょろいぜ!


 勝ち誇った気分でいると、カルミアに肩を叩かれた


 「サトル…、独り言で盛り上がるのは構わないけど、しっかり仕事して」


 え…?独り言?


 俺は少女を見る。少女も俺を見て首をかしげる。


 「何よ…?」


 俺には何故か見える…でもカルミアには見えない?


 彼女の周りは熱を帯びており、何故か温かい。そして彼女はどことなく炎を連想させるような格好をしている


 点と点が線でつながっていく気がする…


 確認するため、リンドウや里長の方を見ると、二人は掃除用具を投げ捨ててこちらに五体投地していた


 うん…巫女と、里長が今その姿勢をとっているということは、しっかりと『少女』を認識しているのが確定した


 つまり、俺が今相手にしている子が、炎の精霊だったということだ


 精霊降ろしもしていないのに、降りてきちゃった?そして俺が何故視えるのか?いや、そんなことより全力でツッコミを入れたい


 「君が精霊かよー!?」



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