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192話


 祠に異変があったと知らせてくれた里の住民と、里長、ついでに謹慎部屋からカプシを出して現場まで向かった。本来であればよそ者は入れないという神聖な場所ではあるが、非常事態故、里長から立ち入りを許可してもらえた。


 山々に囲まれた里の奥地、その一部から出来上がったであろう天然の横穴に祀られているという


 そして、現場に駆けつけ到着すると目の前には見るも無惨な祠の姿―


 「こ、これは…」


 「…」


 「ひ、ひでぇ」


 里長たちが絶句するのも無理もない。


 本来であれば神聖な場所に違わぬ、厳かな空間となっているはずだが、木製の祠には着色用の塗料か何かによって、大層出来の悪い落書きアートが施されており、大変ファンシーな空間へとビフォーアフターしているように見える。


 落書きの内容は無駄にレパートリー豊かで、ゴブリン二人組の絵や、格好良い感じの剣などのイラストが所狭しと描かれており、ここが祠でなければそこそこに評価されていたんじゃないかと思える。ゴブリンの苦悶に満ちた表情なんかはとても良くできている。


 「このような神をも恐れぬ所業…なぜ、誰が…」


 里長は崩れ落ち、リンドウが支える。カプシも、これには想定外だったのかオロオロするだけである


 「カプシさん、もしかしてこれが行商人の『秘術』とやらではないですか?」


 「そ、そんな馬鹿な!?あの商人は『秘術』によって精霊降ろしを阻害すると…魔法的な処置だとばかり…それが、このような原始的で―」


 「原始的であっても、直接的な方法であっても、今の結果としては精霊降ろしは出来なくなったのです。とんだ『秘術』もあったものですが……なるほどどうして、精霊の気持ちを蔑ろにすれば、リンドウさんとの繋がりを絶つなど造作もないこと…という話だったのですね」


 祠を汚せば、当然それに祀っている精霊の怒りを買うのは道理だ。精霊はリンドウ個人に対してではなく、自らを貶めた竜人ないし、人族全般に対しておおきな怒りを覚えたということだ。それであれば、リンドウさんが精霊降ろしができなくなるのも仕方がない。


 「俺は、俺はこんな…精霊を貶めることなど。だってあの商人は…」


 カプシは震えだす。…元々信仰深い性格が災いしているのだ。自身で招いたことだと分かれば無理もない


 「起きてしまったことは仕方がありません。これからどうすべか考えましょう」


 「サトル様…何か良い考えがありますの?」


 「まずは、祠をキレイにお掃除して、たくさんのお供物を置いてみましょう。里長、それでよろしいですか?」


 「あ、あぁ…。たしかに、対話を試みるのは行動に起こし、人事を尽くしてからのほうが良いかもしれぬな。サトル様…どうかご協力を。御使い様の仲介があれば、精霊も話を聞き入れてくれるやもしれませぬ」


 ということで、俺たちは里で手が空いている人と、俺のパーティー全員を集め、ベチャベチャに塗りたくられた落書きアートを、時間をかけて落としていくことにした。


新しい祠を作ることも視野に入れたが、こちらの都合で精霊の住居をこれ以上好き勝手すれば、流石に精霊がどう受け取るか分からない。精霊に対し、人族からの反省や誠意を見せるためにも、汚れを落とす作業を念入りにする。


 俺たちは当事者ではないが、ここまで足を突っ込んだし、できればリンドウの精霊降ろしを成功させ、後腐れなくドラグリリーの花を祝福してほしいと考えている。そのためにも協力は惜しまない


 「精霊さん…どうか機嫌をなおしてくださいね…」


 願いを込めつつ、汚れを少しずつ、少しずつ取り除いていく


 何故だろう。汚れが落ちる度に、俺の周囲が少し暖かくなるような感じがする




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