191話
よく分からないが、カプシが瞑想のような動きをした。と思えば突然、土下座をダイナミックにした様なポーズをとりはじめた
話を聞かないポーズをしていた彼が、里長の一声で態度を急変させるカプシ
そもそも里長が言った『真竜様の御使い』って何だ?使いも何も、むしろドラゴン倒しちゃった系の人間なんだが…。何なら今身につけている素材は、竜人の崇拝対象か何かだと思われるけど、それは良いんですかね…。
竜の力を感じるとか何とか言っているが、心当たりがある部分といえば、ダンジョンで正真正銘のドラゴン戦ったとき、討伐時に鮮血を浴びたくらいか。
それで何らかの竜の力を得たことは確かだが、それで『真竜様の御使い』になれるとも思えない。
御使いなどという神々しくも指名を帯びたものではなく、どちらかと言えばドラゴンキラーあたりが適切な命名だろう。リンドウや里長の勘違いが先行している気がしてならないぞ。
…そもそも、俺は角も鱗も元々生えてない。けどなんか五体投地している人が居る前で言い出しにくい。それで良いのか竜人
「あ~…その、カプシさ~ん?もしも~し」
「はい!御使い様!」
カプシの五体投地はもはや地面にピッタリ。むしろそれは失礼なのでは
まぁ良いか。リンドウの件を聞くことができれば、この状況を利用することもやぶさかでない
「あ~、えっと。コホン。では、俺の質問に答えてくれますか?」
「はい!御使い様!」
「オリジンの花は―」
「はい!俺、いや私が撒いた嘘です!」
いや白状早えな!?すごいよ御使いの信頼度。どんだけリスペクトされているんだよ
「……なるほど、なぜそのような嘘を?」
「はい!元々、リンドウが気に入らなかったのです。我々竜人にとって、鱗の色は重要です。古くからのしきたりを無視した結果、精霊がお怒りになり、豊作に影響があってはいけないと、ずっと悩んでおりました」
「…ふむ」
「そんな時、里に行商人を名乗る者がやってきて、私に知恵を授けて下さいました」
「行商人?」
「はい…二人組で、一人は身長が低い、独特な話し方をするノームだったかと思います。もう一人は屈強そうな女性でした」
…すごく聞き覚えがある
「はぁ、で…どんなことを聞いたのですか?」
「巫女は代々、男竜人が務めてきました。その辺りの事情を伝えると、ノームらしき男が、リンドウを何らかの方法で巫女の座から降ろせば良いと提案したのです。その手段として、ごく弱い魔物を呼び寄せるというお香を買ったのです」
「なるほど、それを置いた場所にリンドウさんを誘導し、魔物に襲わせる。リンドウさんが怪我のひとつでもすれば、儀式は代役が務まると考えていたということですね。オリジンの花の話まででっち上げて…」
「その通りです…」
里長の顔が険しくなる。当然だ…フロスト・トロールなんて、弱い魔物な訳がない。想定していなかったにしても、彼女を危険に晒したのだ。
「一歩間違えば、リンドウさんは怪我じゃ済みませんでしたよ。その話は後でキッチリしますが。しかし、分かりませんね。それだけでは、リンドウさんが精霊との結び付きを感じられなくなる理由がありません。それ以外で妨害行為はしませんでしたか」
「それについては…行商人が『秘術』を使用し、リンドウと精霊の繋がりを不安定にすると、言っていました。サービス料はとても高かったので、里長のヘソクリを全て使いました!」
里長の顔が更に険しくなる
しかし、カプシ…こいつは外道にも程がある。ご丁寧にもリンドウを間接的に害する方法と、失敗したときのために、彼女と精霊との繋がりまでも崩す二段構えの徹底ぶりで排するつもりだったのか。正直に話してくれたが、彼が謹慎程度で済むかは疑問が残るな
「であれば、行商人が行った『秘術』のせいで、リンドウさんが精霊との繋がりを感じられなくなったということで、間違いなさそうですね」
「はい、リンドウが精霊降ろしができないのであれば『秘術』とやらは成功したのでしょう…」
「その『秘術』とは一体なにをしたのです」
「それが…行商人は教えてくれませんでした」
核心で詰まってしまったか…?
その時、謹慎部屋の扉が開かれる。そこには里の住民が数名、息を切らし顔を青くしていた
「里長!祠が…祠が汚されています!」
「なんじゃと!?」