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190話


 「ちくしょう…なんだって俺がこんな目に」


 俺にこんな薄暗い部屋は似合わない。里の中でも特に先祖返りが強く、ブレスを使うことができる。それだけでずっと俺は特別だったんだ。緋色の鱗は全てを黙らせる便利なツールだったのだ。なのに、サトルとか言う冒険者が現れた途端、全てがおかしくなった


 謹慎にしても、何もすることが無ければ退屈さで頭がどうにかなってしまいそうな空間だ。精霊祭にも参加できず、一人で暫く大人しくする必要がある。唯一の救いは、この部屋に入れられる前に折られた腕を里の治癒術師に治してもらえたことくらいか。


 備え付けの簡易的な椅子に腰掛け、天井のシミでも数えていると入り口の扉が空き、光が差し込んでくる。すると、里長と見覚えある冒険者が入ってきた。喧嘩で腕を折ってきたやつだ。また何か文句を言うつもりなのか。だからよそ者は気に食わねぇんだ


 「里長。もう謹慎はおしまいですか」


 冗談混じりに尋ねるが、表情ひとつ崩さず里長は首を横に振る


 「いいや、カプシ。お前に確認したいことがある」


 「確認?」


 すると、喧嘩した冒険者が前に出てきて俺に尋ねる


 「…オリジンの花。その言葉に覚えは?」


 ッチ…もう気がついたか。そんな花は存在しないことに。大方、里長に話でもしてバレたんだろう。万咲き誇るドラグリリーの中から、ひとつだけ咲く黄金の花などは俺が創作しただけの嘘だ。リンドウとか言う巫女が気に入らなかった。


色も真逆の青だ。青は赤をかき消す不吉な色だ。それに、代々巫女は男の竜人が担ってきた役割だ。実力があるからといって、昔からのならわしに背くなどあってはならない。


 「…知らねぇな」


 里長が杖で地面をゴンっとならす。お怒りのサインだ


 「カプシ。嘘は止めなさい」


 なんだって里長もリンドウもこのサトルとか言う奴の言う事は信じるんだ!?俺は赤き鱗を身に宿しているんだぞ!


 「知っていても、俺の腕をへし折った奴に何かを協力したり、教えたりすると思うのか?」


 「カプシ!!」


 こんな奴らの顔など見たくもないね!俺はそっぽをむいて寝そべった


 里長はわなわなと震えるが、一旦深呼吸してサトルと話をしだした


 「ふぅ…サトル様。申し訳ございません。ご無礼を承知でお願いを申し上げたく」


 「いえいえ、どうされました?」


 「いえ、サトル様の『真のお姿』について、この出来損ないの赤鱗にお伝えする許可を頂きたいのです。本来であれば、自ら気づくべきことかもしれませんが、この者はこの通りの愚か者ですので……」


 「…?よく分かりませんが、何か手がかりがつかめるのであれば、手法は何でも問題ありません」


 「有難き幸せ」


 そっぽを向いていても、反省部屋が小さいせいで話の内容は嫌でも耳に入ってくる。


 里長がこんなによそ者に畏まるなんて、今まで生きてきて一度も見たことがない。むしろ、よそ者に対しては冷たいお人だ。それなのに、サトルとか言う奴にはこの通りだ。挙句の果てには赤き鱗である俺を愚か者呼ばわり。意味がわからない


 「カプシ、よく聞きなさい。そしてその曇ったまなこで真実をしっかりと視なさい。この御方、サトル様は『真竜様の御使い』であらせられるぞ」


 「え?」


 「はぁ…?里長、こんなことを言うのも何ですがね。とうとう目が見えなくなってしまわれたのですか。真竜様は我々の原点です。我々のルーツなのですよ。こんな冒険者風情が。第一に、この者には立派な角も鱗も無いじゃないですか」


 真竜様は遥か昔、人族に自らの血を分け与え、我々竜人という種族を作り上げた御方だ。その血に竜の力を宿した人は、男は全身に鎧のように頑丈な鱗を纏い、貧弱な剣は真っ二つにできるほどの角を祝福として宿すのだ。


それが、こいつはどうなんだ。角も無い。鱗に至っては、腕周り程度しか生えない女竜人の方が生えているといえるほど皆無。見た目はまんま人族のままで、竜の片鱗などひとつもない。到底、真竜様の祝福を授かるに値しないではないか


 「カプシ。だからお前は愚か者なのだ。この御方は間違いなく真竜様のお力を宿している。恐らくだが、角はお仲間の杖に、鱗は率いる部下を守るため鎧にされたのだ。痛みに耐え、その身削ってお仲間を守る姿勢は、正に誇り高き竜人そのもの。真竜様は『分け与えること』こそが美徳との教えを我々に諭してきた。心身ともに、サトル様はその教えを身をもって説き、相応しき力と血を宿す者なのだ。少し観察すればわかること」


 「な、な、何だって……」


 角も鱗も竜人にとっては命の次に大切なものだ。100歩譲って角は良い。鱗は無理だ。この際、誇りを捨て置いても皮膚の一部を一枚ずつ剥がし、その痛みに耐えて仲間に提供するなど無理に決まっている。拷問のほうがマシに思えてくる。


 「そんな…こと―」


 「無いと思うか?…我らが日常的に行っている瞑想をして視なさい」


 「ま、まさか」


 「うむ…いくらお前でも、瞑想し集中すれば見えてくるであろう」


 俺は寝そべった姿勢から体を起こし、足を組んで体内の魔力を練り上げ意識を集中させる


 すると、サトルの体から確かに強い竜の力…視ているだけで心が落ち着いていくような輝きを感じる。それも、そんじょそこらの先祖返りでは説明できないほどの強大な力だ


 これが表す事実は一つだけだ


 俺は瞑想の構えを解いて、流れるような動きで五体投地した



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