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189話


 「その問題なのですが…」


 里長はリンドウの様子を度々気にかけているようで、何やら言い出しづらそうにしている。すると、それに気がついたリンドウは話を進めるように促した


 「里長。私のことはどうかお気になさらず、話を続けて下さいまし」


 「そ、そうか……サトル様。この里では毎年、豊作を願い精霊へ捧げ物をするという行事がございます」


 「あぁ、その話なら知っています。案内がてら、概要程度は」


 「それでは、既にお聞き及びのことと存じますが、今年はそこのリンドウが巫女となり、精霊を降ろす大役を任されています。精霊降ろし…これは誰にでもできることではなく、生まれながらにして精霊との深い結び付きがあって、その上で、長き鍛錬を重ねてようやく叶うものです」


 リンドウは巫女を目指すために、たゆまぬ努力を重ねて来たということだろう。何かを続けるということは、それだけで難しく、だからこそ尊いものだ。


 俺は心の中でリンドウへ称賛を送った


 「そのリンドウの精霊降ろし…と言いましょうか。彼女が言うには、最近から精霊との繋がりが感じられなくなったというのです」


 それで、この里への案内途中に聞いた話につながるわけか。焦ったリンドウは藁にもすがる思いで、あるかも分からないオリジンの花とやらを探し出し、精霊降ろしを成功させるつもりだったんだ。


 「なるほど、このままでは」


 「そうです…精霊降ろしが上手くいく可能性は低いでしょう。来年の豊作を願えないとなると、不安感からも里のご意見番たちが黙っておりません。リンドウがどれほど頑張ったなど、気にもせず役目を放棄したとして糾弾し始めます。過去、そのような出来事があったとき、儀式を失敗した者は里を追い出されました。リンドウは一族でも珍しく蒼き鱗を持っています。それも、やっかみに拍車をかけてしまうでしょうな」


 「…」


 里全体のカラーとして、赤色を崇高するイメージは間違っていなかったか。これは炎の精霊を敬うことにもつながっているだろう。炎の精霊からすれば色なんてどうでも良いかもしれないが、古くから存在する部族というものは、往々にしてこのような文化を重視する傾向があるのだ。リンドウはその良いターゲットになってしまっている。


 精霊降ろしを成功させなければ、あのお坊ちゃんが助かる見込みも低くなる。それにリンドウのこともあるから、絶対に成功させたいが……


 「リンドウさん、精霊を感じられなくなった心当たりはあるのでしょうか」


 話を聞いていたリンドウは俯いていたが、俺からの質問には笑顔で答えてくれた


 「いいえ、全くございません…私としても、このような事態は経験がなく、どうすれば良いかも…」


 そうだよな…。そうじゃなきゃ、オリジンの花なんて胡散臭そうな眉唾物を…いや、待てよ。そもそも、なぜリンドウをタイミング良く山に行かせる必要があるのだ。偶然かもしれないが…


 「リンドウさん、その繋がりを感じられなくなったのはいつ頃ですか?」


 「サトル様がいらっしゃる数日前だったかと記憶しています」


 丁度、精霊祭が近づいてきているときだ。そして謀ったようにアイツがリンドウを山まで行くように仕向けたのであれば、何か関与している可能性がある。まるで『リンドウが困ることが事前にわかっている』ような違和感が拭いきれない


 「里長、オリジンの花というものはご存知ですか?ドラグリリーの花から稀に見つかるらしいのですが、実在するものでしょうか」


 「はて?そのようなものは聞いたこともありません。サトル様の故郷では有名な話でしょうか」


 それはおかしい。そもそも、この花はここ近辺でしか咲かない。だからこそ、アイリスはあの坊っちゃんの毒を特定できたのだ。里をまとめる年長者が、この近辺で知らない話を、里の若い衆が知っているというはあまりにも不自然だ。確認する必要があるな。


 「里長、カプシさんとお話をさせて下さい。確認したいことがあります」




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