188話
里長の家まで招待を受けた俺たちは、客間にそのまま通された。
「大したもてなしもできませんが…我が里伝統の飲み物です」
里長は、独特な香り漂う紅茶のような飲み物を淹れてくれた
前世でよく飲んでいた紅茶の存在を思い出し、少しだけ懐かしい気持ちに浸りつつ、ありがたく味わった。
口当たりがまろやかで、少しだけ苦味がある。すぐに鼻を抜けるような感覚が心地よく、気持ちが落ち着いた
「これ、とても落ち着きます。それに味も好みです」
「フォッフォ…口に合うようで安心しました。何分、我々竜人が好む味付けかもしれませんので」
俺の仲間たちは皆、あまり好まない味付けだったようで、一口、二口飲んだらもう手をつけなくなってしまった。こんな美味しいのに
里長は対面に座ると、改まったように頭を下げた
「サトル様…とお呼びしてもよろしいでしょうか。この度は里の者が無礼をはたらいたこと、改めて里長として謝罪いたします。何分、外の世界を知らぬ者でして、どうかご容赦をいただきたい」
「いやいや…サトルで大丈夫です。頭を上げてください。俺たちとしても竜人の方たちと、事を構えるつもりはありません。それに彼は既に里から適切な処罰を受けております。これ以上何かを求めることはないので、ご安心ください。俺たちは元々、竜人と友好を結び、お願いをする立場でお伺いしておりますので」
里長は、俺が想定している10倍ほど大きいオーバーリアクションで感謝の意を表した
「おぉ……サトル様のお慈悲に、感謝をぉおお!」
「ちょ、ちょっと…本当に大丈夫ですから…」
どうにか里長と話ができる状態に落ち着かせて、話を続ける
「失礼しました。サトル様、ところで…先程お話に上がっていたお願いというのは?」
「はい。実は―」
俺はシールドウェストであった一連の事件を話し、解毒方法がないか探している旨を伝える
「そのようなことが…うむむ」
「はい、里長であれば何かご存知ないでしょうか」
「ふむ…人族がこの辺りで暮らすというのも稀でして…。元々あの花は、我々の薬に使用しているもので、人族の体内に入ったときの対処法は何とも…いや、もしかしたら手があるかもしれません」
「本当ですか!」
「えぇ、今はいたしておりませんが、一昔前はドラグリリーも、果物と一緒にして精霊への捧げ物に使っておりました。捧げ物は、精霊の祝福を得て一部は我々の元に返ってきます。祝福を得たドラグリリーは、通常のそれに強い反作用のような効果が出ることが分かっています。里の者が、祝福された花を使った際に確認しただけのもので、それが人族に効果があるものかどうかの確証はありませんが…」
…ということは、精霊へドラグリリーを奉納して、それを祝福してもらい、返してもらった花を解毒に使えば良い…ということだな。これ以外に手がかりがないのだから、試してみる価値は十分にありそうだ。
「…それでは、今年の奉納にひとつ、ドラグリリーを加えていただくことは可能でしょうか」
「サトル様の願いであれば、それはもう、ひとつと言わず10本でも20本でも目録に入れましょう」
「本当ですか!ありがとうございます」
これで、あの困ったちゃんを救える目処がたったか
「…なのですが、それをするに一つの問題がございまして……」
「問題…ですか」