187話
「事情は知らないけど、女の子を寄ってたかっていじめるんじゃない。それでも誇り高き竜人か」
彼女を庇うことが気に入らなかったのか、赤い鱗の竜人は体中を更に赤くして怒りを露わにする。
「お前、よそ者だろう。里には里のオキテってのがあるんだよ。引っ込んでろ」
竜人は俺が掴んでいた肩を無理やり解き、俺を突き飛ばそうと手を伸ばす
俺は反射的にその手をとった。
「オキテか何か知らないけど、それがあれば、相手をいじめて良い理由になるのかい?」
俺の気持ち的には、やめろよ!っていう気持ちで、竜人の手をとったつもりだったのだが、度重なるレベルアップのせいか、自分が思っていた以上に、自分の体はハイスペックに進化していたらしい。竜人の手をとる際に、ちょっと力を込めすぎた
竜人の腕からボキっと鈍い音が響く―
竜人の手があらぬ方向に曲がってしまっていたのだ
「あ、やべ」
焦って手を離すが、一度折れてしまった箇所が元に戻ることもなく…。竜人は痛みで叫び散らしながら、腕を抱えてうずくまる
「ぐぁあああああ!?」
「あ、兄貴~!?」
まさか丈夫な鱗を貫通して腕を折ってしまうとは思わなかった
「ご、ごめん。ちょっと強く手を掴んだだけなんだ。大丈夫かい」
早々の謝罪が煽りに感じたのか、竜人の男はさらに激怒する
「そんなこと、あるわけないだろう!いてぇ…くっそ。……そうか、そんなに戦いたいか…それなら、買ってやるよ!その喧嘩!この赤き鱗に売った喧嘩は安いと思うなよ!」
竜人の男は折れた腕を庇いつつ立ち上がり、口に灼熱の息を溜め込んだ
…まさか。ブレスを使うつもりか?種族上できるとは思っていたが、こんな奴まで使えるなんてな
「グオオオオ!」
男は胸いっぱいに空気を吸い込むようにして、ブレスを浴びせるつもりだ
カルミアが刀を抜く姿勢を取るが、それを手で止めた。彼女が出ては命まで奪ってしまうだろう
さて…どうしたものか。ここで倒してしまっては友好的な関係を築くなど到底できないし、かと言って放置して俺が痛い目にあうのもちょっとな…
「―そこまでじゃ」
奥から野次馬をかきわけ、一人のおじいさんが静止の声をかける
おじいさんは、この男竜人同様に赤い鱗に全身を覆っており、男のものより立派な角が頭から生えている。杖はついているが、どこか威厳があり、存在感の密度が桁違いだ。初めましてだが、一目見ただけで、ここの長であることは分かった
その存在を目に入れたリンドウ、そして問題の男までも戦闘態勢を解いて膝をつき、おじいさんへ頭を下げる
おじいさんは俺を一瞥すると、たいそう驚いた表情をしたが、すぐに表情を戻し、リンドウとカプシと呼ばれた男へ厳しい言葉をかける
「リンドウ、そしてカプシよ。これは一体何事じゃ。それに、そこな客人は到着したばかりと見える。おもてなしもせず、一体何をしている」
それに対し、被せ気味にカプシが情けない声で、言い訳を始めた
「長!違うのです。俺たちは青…リンドウが戻ってきたので、挨拶をしてたら、このよそ者が。それに腕をこんなになるまで!」
カプシは折れた腕を里長に見せつける。しかし、カプシの望んだ結果にはならなかった
「馬鹿者が!客人の素性も知らずに喧嘩でも売ったのだろうが、そこの客人は、本来はお前が地に頭をつけるべき存在なのじゃぞ!」
里長はカプシに喝を入れると、オロオロするカプシを放置し、俺たちの元へゆっくり歩いてきた。そして、深く頭を下げる
「何とお呼びすれば良いか分かりませんが、里の者がご無礼をいたしました…きっと遠くからいらしたのでしょうから、まずは私の家でよければ、お寛ぎくだされ」
「あぁ、いえ…俺たちは…」
里長は矢継ぎ早に指示を出す
「リンドウ!客人のご案内とお世話をしなさい。そしてカプシは暫くの間、謹慎じゃ!精霊祭の参加も不許可とする」
「そ、そんな…」
「はい、お父様」
リンドウはお辞儀をして、俺の手をとった
「サトル様!里長の家までご案内いたしますの」