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186話


 リンドウとの話を終えて自分の寝床に戻った。毛皮を何枚も重ねた寝具で暖を取り瞼を閉じる。


 …リンドウは十中八九、誰かに騙されていると思う。オリジンの花とやらが本当に実在するとしても、それを一人で取りに行かせるような仕向け方は、悪意しか感じられない。里についたら彼女をしっかり見ておかなきゃ…。


 …


 次に目が覚めたときにはもう外は明るかった。毛皮から少しも出たくない気持ちをどうにか押し込めて、外へ出る。陽は既に出始めていて、雲は少ない…。気温は低いが天気が安定しているので、今日で超えられるだろう。


 冷えきった空気が体の中を循環する…こんなにも温度が変わるなんて、傾斜が浅いとはいえ、やっぱり山は怖いな…


 その後、俺たちは簡単に朝食を済ませて出発した。


 リンドウの道案内もあり、里までの最短ルートで移動できたので、俺のペースでも日が落ちる前までに山道を登りきり、頂上地点を通過することができた。


 傾斜が緩やかな下りが続き、やがて民家のような建物がポツポツと見え隠れしたあたりでリンドウが指を指す。その先には簡素な住宅が並ぶ集落を発見


 「サトル様。我が里に到着いたしましたの」


 集落は屋根が独特で、ほぼ全ての住宅屋根が赤く染め上げられていた。家の壁は自然と一体化するように、所々で植物がつたっており、近くを流れる小川がその成長を手伝っているようにも見える。そして、燃え上がる炎のように一際目立つ紅き祭壇が、里の中央にあった。白銀の山々に守られるように囲まれたこの場所こそが、竜人が住まうとされる里なのだろう。


 「や、やっとついた…ここが―」


 長時間歩いたためか、足が棒のようだ。ステータスも高くなっているというのに、こういった部分でちゃっかり疲れが溜まるのはどうにかしてほしい。カルミアたちの手をつないで、移動を手伝ってもらえたのはちょっとだけ嬉しかったが。


 「休める所はないかな…?ちょっとだけ休憩させてほしい」


 「かしこまりましたの。宿屋はありませんが、知り合いのおばあさんが集会場を管理していたはずなので、そこを貸してもらえないか聞いてみます」


 リンドウに続き、里に入って歩く。道はボコボコしていて、あまり人の手は入っていないようだ。当然かもしれないが、町のように、里の入り口を見張る者など居ない。皆がそれぞれ自分の生活をしているといった具合なのだろう。


 住民の姿は、予想通りだった。男性と思わしき者は、全身を鱗で覆うリザードマンのような逞しい風貌。女性はリンドウのように見目麗しい者が多い。


 どの者も、俺たちのようなよそ者が珍しいのか、通りを歩くだけで手をとめて、俺たちの同行を凝視している。…俺の顔に何かついているのか?と聞きたいくらいには、そりゃもうずっと凝視してくる者だらけだ。種族が違うから、互いに珍しいと感じているのだろうか。


 カルミアが俺の袖をひっぱり、顔を近づけて小声で警告した


 「…サトル、気をつけて。私達に対してではないけど、嫌な感じがする」


 「…分かった。奇襲があったら頼む」


 「心得ているわ」


 カルミアが感じ取る殺気や嫌な気配といったものはとても敏感で、フォノスに次ぐ高い索敵能力を持つ。やっぱりドラゴン装備がまずかっただろうか。外すのも、それはそれでリスキーだから止しておきたいところだが。


 周りからの視線に耐えつつも、警戒を強めてリンドウについていく。すると、行く手を阻む二人組が現れた


 「よぉ、青色!」


 「青色!青色!」


 青色と呼ばれたリンドウは、少しだけ狼狽えるが、気丈に振る舞う


 「う…。コホン、何かご用ですか」


 それを聞いた男の竜人たちは、互いに顔を見合わせてゲラゲラと笑う。この者たちの鱗は全身が鮮やかな赤い鱗で覆われており、リンドウの蒼き鱗とは真逆だ。よくよく周囲の者を見ても、赤いに近い鱗の色が多い印象で、他は茶色や黒に近い者ばかりで、青系の者は一人もいない。スターフィールドの世界設定と同じであれば、明るい色ほど強い力と実権を持つ可能性が高いから、もしかして色同士で対立しているのかも。


 「俺たちが教えてやった場所には行かなかったのか?やっぱり精霊もろくに降ろせない奴は、お花の一本も見つけられないのか~?その後ろにいる冒険者のような奴も、道中怖くて雇ったとか、そんなところだろう?とんだ臆病者だ」


 「臆病者!臆病者!」


 二人組は出会い頭に、リンドウへ苛烈な言葉を浴びせるが、誰も止めに入らずにリンドウをあざ笑う二人組を放置しているだけだ。


どんな理由があるかは知らないが、見過ごせないよな。…それにこいつは『俺たちが教えてやった場所』と言った。リンドウを危険地帯に連れ込もうとした者か、それに関与する者の可能性が高い。


 俺は、リンドウを臆病者呼ばわりした男の肩を掴んで注意をひいた


 「事情は知らないけど、女の子を寄ってたかっていじめるんじゃない。それでも誇り高き竜人か」


 その言葉を聞いた竜人の男は、ただでさえ赤い鱗の肌を、更に赤く燃え上がらせる。…なるほど、竜人は怒ると鱗の色が、より鮮やかになるようだ。


 

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