185話
「オリジンの花というのは、儀式にどうしても必要なのかい?そんなに貴重なものなら、定期的に必要になったりする場合、大変じゃないのか」
万あるドラグリリーの花のうち、一本だけ黄金に輝く花なんて希少性が高すぎて、安定的に採取できるとは考えにくい。
「サトル様の疑問は最もですの。この花自体は儀式に使用する訳ではありません。この花は、精霊降ろしの力を高めてくれる薬草になるのだと、お聞きしました」
「さっきから話題に上がっている『精霊降ろし』とは?」
「失礼いたしましたの。精霊降ろしは我が里の祭事に行う儀式で、言葉通り、精霊を呼び起こし現世にその姿見を表す…魔術の一種だとお考え下さいまし。我が里では、年に一度『精霊祭』といって、一年の終わりに豊作と健康を感謝し、精霊へ果物や貴重品を奉納する祭りがありますの。丁度、今がその時期ですのよ」
精霊…スターフィールドにおいては物質や事象に宿る、神聖の高い生物の総称だ。その格式はピンキリで、日常的な精霊から、超常的なものまで…実に様々。万物を司る『オリジン』を頂点に、地水火風を中心とした四大属性が有名だな。基本的に精霊とは、その物質や事象についての繋がりが深いか、その事象そのものを操ることができる…と言われている。水の精霊であれば水を自在に操り、地の精霊であれば、大地を割くなどお手の物だろう。
スターフィールドの世界設定をよりどころにして考えるのであれば、エルフや魔力に優れている者であれば、その存在を感じ取ることができたりするらしいが、精霊は本来、視ることや対話すること自体が叶わないはず。
「その…精霊降ろしをすると、俺たちでも精霊を感じ取ることはできるのかい?」
せっかくだから、その祭りには参加してみたい。精霊を感じ取ることができれば、里の者との交友も上手くいくはずだ。
「ご安心ください。私が儀式を成功できれば、どのような方でも精霊を目にすることができますのよ。我が里では代々火の精霊に祈りを捧げます」
これは驚いた。リンドウの話す内容が事実であれば、誰でも精霊を視ることができるらしい。しかもそれが、メジャー的な存在である火の精霊となると嬉しさも倍増というもの。しかし…
「その、気を悪くしたらごめん。儀式って失敗もするのかい?その場合はどうなる?」
リンドウは十分に間をとってから話し始める
「…儀式に失敗すれば、当然火の精霊はその尊容を拝することは叶わないでしょう。精霊祭は我が里で最も重要な行事ですから、精霊降ろしの巫女としては…我が里に身を置くこともできなくなるかと」
「う~ん、儀式に失敗したら精霊は見れないし、責任を追求されてしまって、里にもいられなくなっちゃうってことかな」
「そうなりますの…」
この話を切り出したあたりから、リンドウの顔色が悪い。成功する可能性が高い儀式であれば、楽しみにしてて程度のやり取りになるはずだ。実在するかどうかも分からない『オリジンの花』とやらの胡散臭い話に乗ってしまうほど、彼女は追い詰められている。とすれば、今のところの『精霊降ろし』とやらの儀式の成功率は芳しくないと考えるのが妥当だろう
「なるほど、それでリンドウさんはオリジンの花というものを探していたと…でも、それって実在するのかな?なんだか―」
「き、きっと実在します!今回は偶然、たくさんの偶然が重なってしまっただけです…。私は絶対に儀式を成功させなければなりませんの」
言葉を被せるように、そして自身に言い聞かせるようにリンドウは言う。
…精霊を降ろす……か。その技術について深くは知らないが、付け焼き刃でどうにかなるものとは思えないんだよな。きっと成功率が低いのは、もっと根本的な問題な気がする
「フロスト・トロールもこれ以上出ないとは限らない。その花の採取については、教えてくれた人に、もう一度確認するべきだ。安全を考えて、一度里まで戻ろう」
「…分かりましたの」
どうにか納得してくれた。リンドウの体調も少しずつ回復してきたが、無理をさせてはいけないので、今日はゆっくり休んでもらうことにした。
俺たちも休んで、夜が明けたら出発しよう。