183話
フロスト・トロールに捕まっていた少女を救出し、残りのトロールを圧倒的な火力をもって残滅。天気も良かったことと、少女を放っておくこともできなかったので、今日はそのまま野営することになった。
眠ったままの少女を抱えて、テントの中に運んで寝かせる。戦いの中では余裕がなかったが、少女の姿を確認すると、俺が知っているスターフィールド上の竜人そのものだった。
藍色の長い髪は美しく、顔が整っているのは目が閉じている状態でも分かる。角は二本生えているが、それ以外は女性ヒューマンの特徴に一致する。男の竜人には体を守る頑丈な鱗が体全体を覆うが、この女の子には腕周りや関節部を除いて、鱗らしい鱗は生えていない。その鱗の色が青く鮮やかな色をしているところが印象的だ。先祖返りしている個体であれば、竜人の中でも高貴な血筋に違いない。
「…この子、竜人の里の子?」
カルミアの考えが最も可能性が高い。しかし、まだ十代後半位に見える。装備品も、登山者とは思えないほど心許ないものだ。何故こんな危険な場所に…
「そうだね。ここが里に近い点と、この子の身体的特徴からして、その可能性が高いと思う。丁度里に向かう途中だったから、目を覚ましたら事情を話してみよう」
「う、ううん……」
竜人の女の子が緋色の目を開ける。横になった姿勢のまま首を動かし、その燃える様な色をしたふたつの目でカルミアを見つめ、俺に注視して動きがピタっと止まった。…ん?俺、何かへんなものでもついているかな?
「ここは?」
「ここは、まだ山麓の地点だと思う。君はフロスト・トロールという魔物に捕まっていて、俺たちが救出したんだ。気を失っていたようだから、ここに寝かせて、そこのカルミアさんが看病してくれていたんだよ」
「そうでしたか…カルミアさん。どうもありがとうございます」
竜人の女の子は体を起こして、ペコっとお辞儀した
「いいのよ…助けたいと言い出したのは、サトルなんだから」
カルミアはチラっと俺を見た
「そうでしたか…やはり」
「やはり…?」
竜人の女の子はこちらに体を向け、キリっとした真剣な表情になる
「サトル様…とお呼びしてよろしいでしょうか。この度は危ないところ助けていただき、ありがとうございます」
「い、いや、そんな改まらなくても大丈夫だよ。竜人の里に向かう予定があって、それで偶然だったからね。それにしても大きな怪我が無くて何よりだ」
女の子は驚いた表情で口に手をあてた
「我が里に…!?やはり言い伝えは本当でしたか」
「え…?い、言い伝え?」
「サトル様…ご無礼を承知でお伺い致します。『貴方様の』竜の鱗や角は、どうされたのでしょうか?」
んん?この子は何を言っているんだろうか…?会話に条理が立ってない気がする。きっと頭でもうって混乱しているんだろうな。
…あぁ、分かったぞ。俺たちはドラゴンの装備を身に着けているから、竜人にとっては信仰対象になるドラゴンに仇をなす者として、警戒されているのかもしれない。
仮に、それでお怒りなのではあれば、順を追って説明し、ドラゴンを倒すにあたり、こちらも必死だったことと、正当防衛だったこと。今後の冒険者生活では武器や防具が必要で、使っていることをしっかり誠意をもって説明せねばなるまい?うん、俺たちの装備から事情を鑑みて、ドラゴンを討伐したことは明確に分かるだろう。きっとそのあたりが聞きたいのかな。
「あぁ…そうですね。竜の鱗は必要分は俺と仲間の装備にまわして、角は仲間の…サリーの武器にしました。…必要なことだったんです。ご理解いただきたく」
女の子は悲壮感溢れる表情になり、顔を伏せてプルプルと震えだす
…そうなるよな。う~ん、これはまずいか。そこまで考えが至らなかったぞ。現地人の協力を得るためには、一度装備を変えてから来るべきか?いや、この子に知られてしまった以上、もう遅いか…。
「…そう、ですか。サトル様、さぞお辛い思いをされたでしょうね。その…お体は問題ないでしょうか?」
「うん…?まぁ、そうでしょうね?命のやり取りですから。体は平気です」
あのダンジョンに現れた竜とは、正真正銘命のやり取りだった。相手も辛かっただろうが、俺たちも命がけだったんだ。どうにか分かってくれるように説得し、里で薬の調合方法を聞かなくてはならない。