182話
カルミアは手元に刀を引き寄せると、素早く抜刀し、まだ誰もいない場所を一点に見つめる
「カルミアさん、敵がいるのか?」
…俺にはまだ何も見えないが
「…えぇ、食事の匂いにつられてしまったのかしら。でも、なんだかおかしいわ」
それを聞いたサリー、イミスも食事を中断して武器を構える
「おかしいとは…?」
「…人?の気配もするのよ」
こんな山に人…しかも魔物と一緒にいるのか?確かに山賊にしては妙な話だ。野生の魔物は人とは相容れない場合が多い。クリュのような人に危害を加えない大人しいタイプの魔物もいるが…。蛮族王は魔物を従える力を身につけたというが、もしかしたらその手先?さすがにそれは飛躍しすぎか
様々な考察が頭をよぎるが考えがまとまらない
「カルミアさん、敵が出てくるまで少し待ってほしい」
「…分かったわ。でも、サトルが危ないと判断したら勝手に動くから」
「うん、ありがとう」
敵が目視可能な範囲まで近づいてきた。
白い毛皮…四つん這いで歩く魔物だ。ヒューマンよりも頭一つ大きい体躯、背中にはゴツゴツした突起物がついている。これはスターフィールド上に出てくるトロールの亜種…フロスト・トロールで間違いないだろう。雪原地帯や高山地帯に出現する魔物だ。知性が高く、力がとても強い。並の冒険者であればやり合うのは避けるべき敵だ。性格は至って凶暴で、人や草食動物を捕獲しては巣に持ち帰って、計画的に食べてしまうという恐ろしさを持っている。
そのフロスト・トロールが、5匹も現れたのだ!群れを先頭に歩くのはボスだろう。大きさが一回り大きい。他の4匹は、雑に作られた木製の大きなカゴを運んでいる。カゴの中には、女性がひとり倒れているではないか
カルミアさんはどうやってこんな長距離から敵と人を分けた上で感知できているのか、不思議であるが、今はその察知能力に感謝だな。
「カルミアさん!先手をお願い!女の子の回収を第一に」
「分かっているわ」
カルミアは構えはせず、高速でトロールに接近
トロールは俺たちを敵と認めると数回ジャンプし、近くにある倒木の端材を掴んで地面に叩きつけた。端材は木端微塵になり、大きな音が出る。恐ろしい膂力での威嚇だろうか。しかし、そんなことをしてもカルミアは何とも思わない。なぜなら彼女は同じことができるのだ!いや、むしろ…
「…力くらべがしたいのかしら」
カルミアは近くの大木を斬り落とし、それを掴んだ。そしてそのままリーダーっぽいトロールに叩きつける
倒木の端材程度で威嚇していたトロールとしては、『大木そのもの』で同じことをされるとは到底思わなかっただろう。
大木の重さとカルミアの圧倒的パワーで凶器となった大木は、激しい衝突音と共にトロールをちっぽけな虫のように潰した
高い再生力を持つトロールとしても、体そのものが潰れてしまっては意味をなさないだろう
残り4匹のトロールは、予想外の展開で浮足立っている。その隙をついて、カルミアはカゴを一閃し中で倒れていた女の子を回収。こちらに戻ってきた
「よし、これで女の子は無事だな」
「サリーさん!」
「まかせテ!」
サリーは女の子に外傷がないか確認し、ポーションを振りかけるように使う
これで一安心だ
「イミスさん!残りを頼めるかい」
「やっとウチの出番ね!」
既にオフェンシブフォームになったイミスはスカーレットとの合体を完了させていた。
イミスは両手のガントレットをかちあわせると、スカーレットの魔石から膨大な魔力が噴き出してくる
破れかぶれとなったトロールたちは、前に出てきたイミスに向かって身を投げながら攻撃を繰り出すが、その全てを一撃で粉砕…文字通り粉砕した。