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179話


 アイリスとグリセリーの演説の場には、大勢の町民が集まったが、その中でも、『アイリス様最高』と書かれた布を身に纏う、一際怪しい格好をしたノーム。そして、それを一歩離れた位置から白けて眺める女性の姿があった。


 そのノームは、アイリスの一挙手一投足に全力で羨望の眼差しと耳を傾けては、演説が終わると誰よりも大きく、そして力強く拍手を送った。陶酔しているともとれるほどに、領主へ入れ込んだ姿は、見方を変えればアイリスの狂信者とも。周りから奇怪な目で見られようとも、決して称賛の手を止めることはなかった。ついでに『うひょー』という奇声を定期的に発しておりうるさいのだ。


そんな変わり者のノームは、シールドウェストにはたった一人だけだろう……そう、タルッコである。付き添いのサザンカは、一歩離れた位置から残念そうな表情で彼を見ている。


 ウツセミでは華麗なる退場を決め込んだが、なんとか命からがらダンジョンからの脱出に成功していたのだ。ダンジョンを埋め尽くすほどの魔物に追い回されたときは、さすがに死を悟った二人であったが、生命力としぶとさだけは一級品といえる。こうして万全な状態で、シールドウェストに帰ってきているだけでも奇跡と言えよう。


 領主の演説が無事終わり、人集りもはけているが、タルッコはその場に留まって、ステキな絵画でも見終わった後に感想を話し合う貴族たちのように、自らが仕える偉大なる領主への称賛を惜しみなく話し続ける。


 「う~っん、やはりアイリス様の演説は素晴らしい。人は誰しも一人では生きてはいけないものです。絶対的な力を持ちながらも、町民一人ひとりを決して軽んじたりしない姿勢。私のアイリス様だからこそだと思いますよ。えぇ本当に。どう思いますか?」


 サザンカは心底どうでもよさそうに、話を流す


 「…で、今後はどうするのだ?私は今よりも強くなるために、お前と行動を共にしているのだぞ。それを忘れられては困るのだが…」


 「まったく…少し位はアイリス様の素晴らしさを分かって頂きたいものです。そんなこともあろうかと、サトルめの行く先は既に調査済みなのです!…たしかここに」


 タルッコはポケットからしわくちゃになった紙を取り出し、雑に広げるとひとつ咳払いをして紙にかかれているであろう内容を自慢気に話す


 「コホン!え~、むむ…サトルめは竜人の里と呼ばれる集落に…向かった?数日前に?ふむ、なるほど。この町にはもう居ないようですな!ウヒョヒョ!」


 サザンカはタルッコの首根っこを掴んで体を激しく揺らす


 「な、なんだと!?今はサトルだけが私を強くする手がかりだと言うのに!もう発っていたのを知っているなら、何故悠長に演説など聞いているんだ!」


 「う、ウヒョヒョ~!離してくれ~!」


 サザンカはタルッコを激しく揺らしていたことにハっとして、冷静さを取り戻す。しかし、内心では早く追いかけたいという焦りに襲われる。


 「おっと、す、すまない…しかし、何故だ。すぐに追わなくて良いのか?なぜ留まる」


 タルッコは伸びきった首元のヨレをどうにかただして、胸を張った


 「すぐに追っては、アイリス様の演説を見ることができないじゃ~ありませんか!まったく、これだから素人は……」


 サザンカは無言でタルッコの頭に追撃を加えた


 「ぐへ!?ウヒョヒョ…顔に似合わずとんだ馬鹿力です!暴力反対!シールドウェストに平和を!」


 「ったく、愚痴をこぼす暇があるならサトルの後を追うぞ!近くにいることで何か分かるかもしれないだろう」


 「そんなことよりも、手っ取り早くあの本を奪ってしまったほうが良いと思うのですよ。わたくしめとしましては!引っ張らないでいただきたい!」


 「それで前回、死ぬほどの思いをしただろう。作戦資金も底をついたと言っていただろう。上手くいく保証はあるのか?」


 抵抗をやめて、引きずられる体勢を維持しつつも、タルッコの顔は冴えきった凛々しい表情だ


 「ウヒョヒョ…ふ~む、竜人の里でこの時期といえば……閃いた!」


 「本当か!?」


 「えぇ、この方法であれば、混乱に乗じて本を奪い取ることもできるでしょう!ウヒョヒョ!我ながら最高の作戦ですぞ~!」


 サザンカは満面の笑みで、タルッコを引きずる速度を上げていく


 「よし、そうと決まれば行動だ」


 「ウヒョヒョ!分かった、分かりました!まずは、引きずるのを止めていただきたい!暴力反対!シュ!シュ!シュ!」


 得意のシャドーボクシングで必死の抵抗をしてみるが、サザンカには効果がないようだ…


 「これで私達は最強へ一歩近づくのだ!ははははは!」


 「聞いてない~!ウヒョ~!!」


 

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