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175話


 「今ここで見捨てないで良い理由を聞かせてもらおうか」


 アイリスは笑顔だ。俺が発言することを期待していたのか、すんなりと返す


 「はい…まず、フォマティクス側としては、ステロール子爵の親子双方を当て馬にすることで、シールドウェストを攻める正当性を主張できます。ステロールの領主共々、俺たちに討たせることで、他の有力な貴族の領土拡大に、手を貸す形で貢献してしまうでしょう。俺たちとしては、それを火蓋にシールドウェストが戦場になることを望みませんし、そんなことを目論む輩へステロール領土を渡すことも、将来的には良くないと考えます」


 「ほう……だから、私が被ったドロを我慢しろと?」


 「いえ、そうではありません。これにはアイリス様にも益があります。まず、ステロール子爵へ借りを作ることができます。ステロール子爵は今、フォマティクス側へのやり方に疑問を感じているはずです。そして、カルボン様の暗殺を目論んだ輩は、シールドウェスト領でカルボン様が死に、責任の所在が我々にあることを望んでいるはず。子爵が両国から不要となった今、息子の命を助けるという結果をもって、ステロール子爵が裏切らないことの裏付けができます。この状況下で作る借りは、形だけのものではなく、強固な相互関係の礎にできるはずです」


 俺はグリセリーへ目配せすると、はっとしたグリセリーは何度も頷く


 「そ…そうだ!フォマティクスのやり方にはついてはいけない。忠を尽くした結果、息子の命をこのような形で使われるのであれば、私はアイリス殿の利益ある味方であり続けることを誓おう!必要であれば、フォマティクスの情報も知っている限り話す!」


 「表向きには何も変わらないので、傀儡化の利点は最大限活かせます。ステロール領ごと傀儡化してしまえば、アイリス様には交易上の利点と、蛮族王討伐までの防波堤代わりにもなります。また当て馬にされた場合は、アイリス様とステロール子爵のお二方で示し合わせておけば、暗殺に対して、いくらでも対策はできますから。ステロール領土は表向きにはフォマティクス側ですので、有益な敵側の情報も継続して得られます。交易の契約では、アイリス様の有利になるよう締結し、それをもってけじめとする。どうでしょうか」


 アイリスはふ~んと考えるそぶりを見せる。…もうひとつか?


 「…確かに、利益にはなる。謝罪の形としても一応の筋は通しているか。しかし、サトル君?ステロール子爵は元々、敵国側の人間だ。それに、歴史的に見ても私達の領土とは犬猿の仲と言っても良い。息子の命ひとつで縛れるというのは、すこし甘いのではないか?リスクを負い続けるというのも、マイナス点だよ」


 領主様…それは話題の挿げ替えだ。いじわるだなぁ……それならこれでどうだ


 「そこで、この男が飲み込んだ石です」


 俺はカイオスが飲み込んだ石を尋問の際に、サリーにお願いして吐き出させていた。吐き気がくるほど苦いポーションは幾つも持っているので、切開させずに済んだのは良かったと思う。


 石は若干ネバネバしているが、飲み込む前にあった気味の悪い感じはなくなっている。色も抜けて、見た目はただの石ころにしか見えない。手掴みするのは嫌だが、我慢がまん……


 「それは、確か先程報告を受けた、この男を魔の者に変形させたという石か」


 「そうです。カイオスは土の壁を作り、その光景を見せないようにして飲み込んでいましたが…今彼の肌の色が、これが嘘ではないことの証明になるかと。…ステロール子爵、こちらをどこで入手されましたか」


 若干バツが悪そうにグリセリーは応えた


 「それは…フォマティクスの首都で開発しているという石だ。詳しくは知らん…名前すら教えてもらえなかったが、ここへ来る命令が下った際に、王家の押印と送付されていたものだ。……力が必要になったときに、戦闘能力の高いものへ飲ませろと」


 ……やはり、フォマティクスが関与していたか。しかし、詰めが甘いようで助かった。サリーの能力がなければ、カルボンは死んでしまい、暗殺を仕向けた者の思惑通りとなっただろう。石への対抗策として、クラスチェンジがなければ、俺も死んでいたに違いない。よほど、暗殺に自信があったと見える。しかし、これで動きやすくなるぞ―


 「過程や理由はあれど、人を魔の者に変えてしまう代物なんて、あってはならないものだと思います」


 グリセリーの顔が青くなる


 「ま、待ってくれ。お触れに出せば、今度こそ私の命は、我が息子の命が…」


 「そうです。ステロール子爵としても、それは困るはずです。それなら、この石はダンジョンから獲得したアーティファクトという名目で『人を魔の者に変える石』として幅広く情報を散布し、この調査を、双方の領主が意欲的に取り組むという構図を作り出せば良いのです。今回のステロール子爵の来訪も、協力者を幅広く募る一環であったと。この石が至る所で見つかっているというガセネタも含めて散布します」


 誰もが、混沌にして悪となる魔を忌むべき者とするのであれば、両国が因縁深いという建前だけで事を起こすのは難しくなるはずだ。それを邪魔するというのは、暗に『私は魔に加担する者である』と公表しているようなものなのだ。たとえ、フォマティクスであっても、こんな情報が流れれば、その問題解決に向けて勢力的に動く発起人を殺すことは難しくなるだろう。問題を起こしている張本人なのだから。さらに、その領土で生活している者だって、人を魔に変える石という大きな問題に直面するわけで、シールドウェストとステロール間の喧嘩をしている場合じゃないと、危機感を与えることもできる。ムード作りは、時に大きな力を生み出すのだ。


 「クク…面白い。お前はやっぱり面白い…それでこそ、私のサトル君だ。良いだろう、確かに…その子には生きていてもらったほうが、私の利益になることは分かった。その後の道筋も、保険のかけ方も、多少強引だが嫌いじゃない」


 ふぅ……どうにか、乗り切ったか


 さて、カルボンをどう治療するか…肝心の問題は未解決だ



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