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174話


 扉の前では子爵が肩で息をしている。ここまで来るのに全力で走ってきたのであろう。そして、腕には息子のカルボンを抱えている。状況からみて、息子さんに何か問題が発生したのは明確だ。


 「貴方は、グリセリー・ステロール子爵…そして、カルボン様…しかし、何故カルボン様は疲弊しているのでしょうか」


 グリセリーは質問に対して食い気味で応える


 「襲撃を受けたのだ!何者かは知らん!しかし、気がついたときにはもう、やられていた。我が息子は…」


 「すぐに診てみましょう。サリーさん、フォノス、手を貸してほしい」


 カルボンをベンチに寝かせて、サリーとフォノスが傷口と容態のチェックを行う。フォノスは傷口を見ると、暗器によって攻撃されたことを見破った。


 「おじさん、これ…吹き矢か何かで攻撃されなかった?」


 「おじ…まぁ良い。その通りだ…我が息子の腕に、このようなものが刺さっていた。何か分かるかもしれないと、箱に入れてあるが……」


 グリセリーはカルボンから抜き取った針を箱から取り出して、フォノスに手渡した。フォノスはそれを手にとって調べ始める


 「この針…ただの武器じゃない。針に毒、しかも強力な麻痺毒が付着していたようだね。少しだけ毒が付着して残っている。死に至るまでの即効性は無いと思うけど、こんなタイプの調合は見たことがない。少なくとも、この町近辺でよく使われるものではないよ」


 ……ひとまず、即効性のある毒ではないということが分かった。カルボンがすぐに死んでしまうといった事態にはならないだろう。ただ、放っておけば結局死に至るってことか。


 「フォノス、ありがとう。サリーさん…カルボン様は治療できそうかい?」


 サリーは横になったカルボンを事細かく診ているが、表情は曇っていて、芳しくないことは明確


 「ウ~ン、アタシが調合できる薬では、完全な完治は難しいかモ…でモ、体力を回復してあげて、延命させることはできるよォ!」


 「そうか…ありがとう。完治させるための手がかりは無いかな?」


 俺はカルボンを詳しく診てみるが…辛そうなこと以外は分からなかった。


 カルボンはウンウン唸っており、意識の混濁がある。身体全体が痺れているのか、自身で身動きをとることが難しいように見えた。…正直、この子にはだいぶ困らせられたが、まだ子供だ。お遊び程度のあやまちの一つや二つで苦しんで死ぬなど、あってはならない。他の者による陰謀であるなら、尚更だ。しっかり元気になってもらって、反省してもらうまでは……。しかし、そうなるとアイリスの説得が難しい。


 少なくとも、当て馬にされたシールドウェストと、その領主であるアイリスとしては、自業自得という言葉が第一に当然来るってもんで、戦力が失われる可能性が十分にあった先の戦いにおいては、まだ腹を立てているだろうし、子爵側としては嫌がらせに対して、何のけじめもつけていない。当然、この子爵を助ける義理は生まれないわけで。


 グリセリーとしては、今頼れるのは俺たちしか居ない。町一番と言ってもいい程のアルケミストであるサリーで完治が無理なら、町の医療ではどうしようもないからだ。国に帰るまでに時間と体力を消耗すれば、カルボンはあっという間に昇天するだろう。帰れたとしても、そこで最適な処置がされる保証もない。戦火を灯す当て馬にされるくらいならば、国からの手厚い保護など期待できないはずだ。今は場所を変えて、サリーの回復薬に頼っている間に、治療法を探すのが最適解と踏むだろう。


 焦ったグリセリーはアイリスに泣きついた


 「た、頼む!もう頼れるのはアイリス殿しかおらん!助けてくれ!」


 フォノスとサリーの申告を黙って聞いていたアイリスは、グリセリーに対して首をふった


 「はぁ…よくもまぁ、手のひらを返してそのような……。第一、貴方がしでかしたことを胸に手をあてて聞いて欲しいものだよ。私の顔にドロを塗って喧嘩を売ったことをもうお忘れか?それ以外で、何か町に対し有益なことをしてくれたか?貴方を助ける義理など、私には無いのだよ。今、私のサトルたちを子供の治療のために動かしてあげているだけでも感謝するべきだ。このまま放置しても良かったのだぞ。出迎えから下手に出ていればつけあがって…。私は舐められるのが一番嫌いなんだ」


 アイリスは鋭い殺気をグリセリーに送って、反抗の余地を与えない凄みを出している!


 「ぐ…それは、そうかもしれぬが…!それは、謝罪する!私としてもこのような真似はしたくは無かった!だが、貴国への挑発は、フォマティクスの意向であって、私の本意ではない!逆らえなかったのだ。確かに、上手く行きそうだったときは、ちょっと調子には乗ってしまったが!…そのけじめが必要とあらば、私の首でも差し出そう!だから…頼む。我が息子を助けてやってくれ」


 グリセリーは地面に伏せる形で、最大限の謝罪をした。…グリセリーがしたことは、双方の領土に戦火を持ち込むような挑発だったが、フォマティクス国による体の良い当て馬に仕立て上げられたということであれば、一考の余地はあるだろう。当然、切り捨てても良い貴族を送るはずだ。その場合、フォマティクスとしての最善は、無能な味方を相手方に処分させ、攻め入るスキを与える一石二鳥になること。…であれば


 「アイリス様、意見を申し述べることをお許し頂けますでしょうか」


 アイリスは俺に目線だけを送る


 「…ふむ、良いだろう」


 「俺は、ここでカルボン様を助けることは、後々の利になると考えています」


 アイリスはニヤリと、口端をつりあげる


 アイリスがここまで読んでいない訳がない。恐らくこれは、ここまではきっと、アイリスがお膳立てしたプロセスなんだ。それなら俺がやるべきことは、もう決まっている



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