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173話


 その頃、ステロール親子の来賓席では、グリセリーの息子、カルボンが乱心を極めて荒ぶっていた


 「フゴオオオ!ぼくちゃんのかんがえたさいきょうの冒険者パーティーが、やられるなんてぇ!?」


 カルボンは、用意された贅沢な食事を鷲掴みにして口の中に放り込みつつ、丸い体をバウンドさせて部屋中を暴れまわる。グリセリーはカルボンをなだめつつ、Aランクのリーダーに渡したアイテムの効力について思案する。


 「おお、我が息子よ…そのように暴れまわっては、怪我をしてしまうぞ。しかし、ううむぅ…まさか、あの石を使っても勝てぬとは……アイテムの戦力測量どころの話では無くなってきたな…予備の石も無くなってしまった。状況報告のためにも、一度領地へ戻るべきか」


 カルボンは、余程ショックだったのか、何度も来賓席から身を乗り出して、己が賭けたAランク冒険者の悲惨な状況を確認しては転げ回る


 「フゴオオオ!何度見ても奴らが勝っているぞおお!?」


 「お、落ち着きなさい我が息子よ。まだ慌てる時間じゃない……」


 カルボンはグリセリーの手を払って来賓席から身を乗り出す


 「フゴ!こうなったらぼくちゃんが、奴らを倒してやる!ぼくちゃんに恥をかかせたことを後悔させるのだ!」


 来賓席から闘技場までの高低差は、そこそこの高さになるため、何のステータスの取り柄もないカルボンが飛び降りてしまったら、ただの自殺になりかねない。冷静な判断力を失った息子の両脇を後ろから羽交い締めにして、グリセリーとカルボンは激しい取っ組み合いになる


 「よ、よせ!我が息子よ…!そんなところから飛び降りたらバウンドするだけじゃ済まないんだぞ!」


 「フゴ!離せ!このぉ…」


 グリセリーの拘束をといて、来賓席から闘技場へカルボンが飛び降りようとした。丁度その時―


 プシュっと何かが刺さる音がした。


 闘牛のように暴れまわっていたカルボンはピタリと動きを止めて、力なく倒れる


 「か、カルボン!我が息子!」


 グリセリーはカルボンに近づき、容態を確かめる。膝に頭を乗せるように仰向けにすると、右腕に大きめの針のような鋭い物体がカルボンに刺さっていた。カルボンは呼吸しているため、まだ生きているようだが、顔は青ざめていて、放置しておけばまずいことになるのは、素人目でもハッキリと分かった。


 「フ…フゴ…ここは誰…ぼくちゃんはどこ…」


 「こ、これは…もしや毒!?おのれ…一体誰が……いや、今はそれどこれではない。助けを呼ばねば。誰か!誰かおらぬか!?」


 誰も返事をしない…グリセリーは、ここまで連れてきていた使用人も、入り口に立たせていた衛兵も居ないことに気がついた


 「計画的な犯行か…?一体何故…誰が…ううむうう!癪だが奴らに頼むしか方法はないか。頼むぞ、耐えてくれよ、我が息子」


 グリセリーはカルボンに刺さっていた針を、傷が深くならないように抜いて、怪しい石をしまっていた箱に入れる。そして、カルボンを担ぎ、念のために通常用の出入口を塞ぎ、非常用の勝手口から会場の控室に向かって走った



 * * *



 最近ではこれといった見世物も大型イベントもなかったシールドウェストでは、皆楽しいことに飢えていた。そのため、突発的に行った闘技イベントは、十分な見応えと相まって、収容人数を超える規模の集客となった。


これはアイリスがステロール子爵来訪による影響で、数々の嫌がらせ含む、散々な目にあったため、意趣返しが本音なイベントであったが、結果的にはアイリス側の領土の盛り上がりに加え、自身の抱える戦力による自衛力の高さを世間にアピールする結果につながった。ついでに、ちょっかいをかけてきたステロール子爵の求心力もズタボロにすることもできたのだ。アイリスとしてはこれ以上にない成果だろう。


 しかし、今アイリスは満足とは程遠い表情であった。俺たちの控室で、腕を組んで不機嫌そうな様子だ。原因は簡単で、カイオスが魔族のような姿に変身し、俺を殺そうとしたことにある。


 イベントも一通り終了し、会場からは人がはけて、ぼちぼち会場撤去作業が始まろうというところ、俺たちは控室で壌土の手のリーダー、カイオスを囲んで尋問をしていた。この場にはアイリスはもちろん、壌土の手のメンバーも呼んである。


 「それで…私の大事な戦力。今シールドウェストで最も将来性のあるパーティーのリーダーを始末しようとは、どういう了見か聞かせてもらおうか。それと、サトルから聞いた石についても話してもらう。お前の肌が変色している今、言い訳できる状況にあると思うなよ」


 アイリスは、カイオスに詰め寄る。椅子に座った状態で、ロープで縛られたカイオスは、震え上がった。


 カルミアを見た瞬間に感じたような、心臓を鷲掴みにされたような恐怖感。自身が狩られる獲物のような立場となった、この女からはそんな錯覚さえ覚える。


 「お、おれは…詳しいことは知らない!殺そうという気持ちが無かった訳では無い!ただ、それは戦っていれば気持ちが昂ぶってしまって、よくあることだろう!?」


 「ほう…それじゃあ、私の可愛い可愛いサトルが、殺されようとした状況で、私の気持ちが昂ぶってしまっている今、お前を殺してしまっても、問題はないのだな…?」


 アイリスから重く鋭い殺気が、部屋中に溢れる。一人ひとりが精鋭の壌土の手のメンバーも、アイリスの殺気にあてられてしまって、リーダーがやられてしまうんじゃないかという、そんな状況でも誰一人、動くことはおろか、発言さえままならない。


 ここは助け舟を出さねば、本当にカイオスが処断されかねない。俺が動こう


 「ええっと…アイリス様。発言をお許し下さい。俺はこうして無事です。身を案じて下さるのはとても嬉しく思うのですが、どうか、怒りをお沈め下さい。殺してしまっては、例の石の話も引き出せません」


 アイリスの殺気がピタっと止まり、振り向くと俺をそのまま抱きしめた。そしていつものように、乱暴に頭を撫でる


 「よしよし、お前がそこまで言うなら殺るのはやめておこう。だが理解してほしい、私は可愛い可愛いサトル君が傷ついたと思ったら、いても立ってもいられないほどに心配だったのだよ?」


 …うん、その気持ちはとても嬉しいが、カルミアの前でそれはやめてくれー!


 案の定、それを見ていたカルミアはイライラを募らせ、アイリスに噛みつくように発言する


 「サトルから離れてって言っているでしょう!」


 「おっと、怖い怖い」


 アイリスは俺を抱き寄せたまま、殴りかかるカルミアの攻撃を紙一重で躱す


 彼女たちはじゃれ合いのつもりかもしれないが、互いの力が尋常ではないので、この狭い部屋で殺意溢れる攻防をするのはやめていただきたい


 俺たちのパーティーは、また始まったと言わんばかりに俺の作ったカードゲームで遊び始める始末


 おい、誰か助けろよ!


 壌土の手のメンバーは、誰一人この問答に関わらず、嵐が過ぎ去ることを待つ兎のように、隅で震えているだけだ


 収集がつかなくなり始めたとき、控室の扉が開かれた


 扉の前には、ステロール子爵と、その腕に抱えられたカルボン


 カルボンは今にも死にそうなほど、衰弱しているように見える


 グリセリーは大声で訴えた


 「だ、誰でもいい。我が息子、カルボンを助けてくれ」



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