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168話


 毒々しい光の球体は、サリーを取り囲み、闇色の魔力で包んだ


 フィーブル・マインド……スターフィールドでは、知能低下状態になり、『知力』が10ポイント減少してしまう強力なデバフを相手に与える魔法だ。精神干渉系の魔法で、特に魔法を扱う冒険者のメタ技になっていることから、メイジマッシャーなんて呼ばれることもある。


 「うん…決まったわね。もうアナタはろくな思考もできないわ」


 セレは、スタッフを降ろし、自信に満ちた表情だ。しかし、闇が晴れるとそこには何の変化もないサリーが怒った顔をしている。


 「な、なんですって…なぜ、効いていないの。まさか、あなたも状態異常の対策を?」


 セレは、自身の魔法が何の効果もなかったかのような状態に激しく動揺した。この魔法の効力が発動すれば、喋ることはおろか、知性の欠片もないほどに知力が抜け落ちる。普通の魔法使いであれば、良くてトカゲのように這いつくばるような、知性がない行動で醜態を晒すはず。しかし、サリーの表情は相変わらずであり、二本足で立っているし、魔法まで唱えようとしている。


 「もォ~!封印してたけど、もう使っちゃうからねェ!サトル!」


 サリーは愛杖を構えて、セレとは比べ物にならないほどに膨大な魔力をその一点に集中させる


 「…ま、まずい!大きな魔力を感じるわ。安定していないけど、これは炎…かしら。何か、何かしないと…[プロテクション・フロム・エナジー]!」


 先程と同じように、耐火能力も高い防御魔法を展開するセレだが―


 「[イリュージョン・ストライク]!」


 サリーの唯一にして最大の攻撃魔法が発動した。集束点から熱が溢れ、まるで獲物を求めるように噴き出す。サリーの怒りに同調したかのような、灼熱の魔力が戦闘範囲全てを覆うほど大きくなり、無慈悲にセレを飲み込んだ。全てを喰らう灼熱は魔法というよりも、小さな自然災害に親しい類を感じる


 想定外の大規模攻撃に、会場の客席まで余波が及ぶのは時間の問題であった。


 すぐに危険と判断した会場のスタッフや、冒険者の皆は、攻撃の余波を受けないように、等間隔で並び数十人規模で防御魔法を展開し、被害を抑えた。その成果もあってか、どうにか会場には怪我人は出なかった。…一般的な冒険者が数十人規模でどうにか『余波』を抑える。この攻撃を一身に受けたはセレは…


 「…ぐ……うぅ……な、ぜ。効か…な、い」


 セレの容態は無事とは程遠い。服は至る所が破れており、防御に魔力を全て注いだのか顔色も青ざめている。急性魔力欠落による体の震えと意識の混濁が認められた。…むしろ、それで済んだとも見るべきかもしれない。正統なる血脈を引いた彼女でなければ、文字通り消滅していた可能性もあった訳で。


 彼女の中では必殺とも言える[フィーブル・マインド]が効かなかったことだけが疑問であった。サリーの装備はローブと杖だけの至ってシンプルなもので、アクセサリーは腕につけている手作りの腕輪くらいだが、そこからは何の魔力も感じない。ちなみにこの腕輪はサトルもカルミアも同じものを着用している。


 「?…アナタの魔法、アタシにきちんと効いたよォ?でも、思ったより効果が無かったみたいだネ♪」


 「そんな…ば…か、な」


 セレは驚愕の表情のまま倒れてしまった。そのまま戦闘不能と判断され、この勝負はサリーの勝利となる


 全く司会をしない司会は、毎度のことながら試合が終わるまで、会場の皆と同じように動揺し、セレの戦闘不能時に、ようやく再起動したように喋りだす。


 「ッハ!!また沈黙してしまった!えーっと……セレさん戦闘不能です!このような大規模魔法は見たことがありません!これを見れただけでも、私達はとても運が良かったでしょう!次はいよいよ、副将戦!リーダーの右腕を担う者同士の戦いとなるでしょう」


 会場の野次馬共は、酒を飲み交わしながらも、迫力満点の戦いと両者の健闘に大きな拍手と思い思いのエールを送る。


 …そんな中。ここに居る者で、サリーの発言内容の真実に気がついた者はセレくらいだろう。担架に乗せられ、救護室に運ばれているセレは、その間も驚愕の表情を崩せないでいた。気がついてしまったのだ。『自分の魔法が正しく機能した』ということに。


一般的な魔術師の知力は、精鋭クラスで『12~14』といったところだろう。[フィーブル・マインド]は知力を『10』程度下げる。だからこそのメイジマッシャーなのだ


…その上でこの規模の魔法が展開できたということは…サリーの魔力保有量と魔法の威力を決定づける『知力』が、人間のそれを超越しているということになる………


 「うん…あり…え…ない」


 セレは考えることをやめて、意識を手放した




Tips:


『蛇の血脈』


太古に蛇や蝙蝠といった異業種の魔物と契約し、信仰を条件に膨大な魔力を得た魔術師が源流の派閥

他の血脈と違い、毒や状態異常の搦手を得意とし、魔法のみならず有名な暗殺者やメイガスが生まれたこともある。血で血を洗うような歴史を積み重ねているため、他の血脈よりも喧嘩っ早い人が多い


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