167話
休憩時間も終わり、試合が再開される。次に戦う両者代表は舞台に上がって、会場の皆からの注目と大きな歓声一身に受ける。盛り上がりを手伝うように、司会もあおりを入れた。
「試合も中盤に差し掛かりました!圧倒的な戦いで全てに勝利し続けるサトルパーティーに、壌土の手の次なる一手は起死回生の策となるでしょうか。サトルパーティーからは、唯一の魔術師…サリエル・ジロスキエント…元、町のお薬屋としての名が有名か、サリーさんの登場だー!」
サリーはちょっとご立腹な様子で、舞台に上がった。手にはもちろん、新生の愛杖が握られている。
「これまた偶然なのか、狙ってなのか~!壌土の手からも魔術師だ。『蛇の血脈』を持つ、セレさんの入場だー!セレさんは、直接的な魔法攻撃よりも、状態異常や罠を使った戦いが得意とのお話がありました。何もないこの闘技場ではちょっとアウェイか~?」
サリーに続き、既に勝ち誇った表情のセレが舞台に上がる。
「うん…大丈夫。戦いは、戦う前に終わるものだから」
サリーがビシッと指をさした
「セレ!あの毒はアナタの仕業だよネ。同じ匂いがするもン!あのお菓子、サトルが食べちゃうところだったのよォ!」
セレの勝ち誇った顔は、そのままにとぼけて見せる
「うん…?何のことかしら。確かに私は毒を使った戦いは得意だけれど…?フフフ」
まともに答える気がない回答に対して、珍しくサリーはご立腹
「もー!許さないんだかラ!懲らしめちゃうヨ!」
「うん…?貴方からは、血脈の波動を感じない。なんの血脈も持たない貴方に、何ができるの?」
ウィザードやソーサラーは、クラスのパワーと血脈によって、大きな魔力を得ることができる。しかし、血脈を持たない者は、魔法に適性があっても上手く扱えないことが多い。これはクラスチェンジする前のサリーに該当するような状態だ。一般的な考えであれば、セレの言う『対して何もできない』のが妥当なところだ。ポーションを装備しているサリーを見て、魔法の扱いが二流と判断したセレは、啖呵を切る。
「血脈を持たない貴方は、サトルとかいう男の所で、ずーっとポーション作りでもしてなさいな」
「……ムムム!サトルまで馬鹿にしないデ!アタシ怒ったヨ!」
ヒートアップしてしまい、今にも戦いが始まりそうだったので、一度司会が進行を割り込んで、試合開始の合図を告げる。
「お互いに気力は十分のようですね!では、さっそく始めましょう。それでは試合開始!」
セレは、手に持ったワンドをサリーに向ける
「なぜ、私が貴方の相手に選ばれたか知っているかしら」
「[グレーター・ポリモーフ]!」
サリーは問答を無視し、ポリモーフ系の上位魔法を発動する。しかし…
「うん…効かないわよ」
セレは、スタッフを振ると、サリーの変身妨害魔法をレジストしてしまった
「な…なんデ!?」
「うん…答えてあげる。私はこれでもAランク冒険者よ。状態異常の対策は万全にしているわ。貴方が状態異常系統に特化しているのは、装備を見れば明らかなのよ。事前にある程度知っていれば、精神干渉系、変身妨害系、状態異常に関してはアクセサリーで完封できるのよ」
セレは手の指に光る、それぞれの指輪を見せる。各指に最低1つは指輪があり、そのどれもが状態異常を防止するものと思われた。―アクセサリーには少しだけヒビが入った。
「…っそれなラ!」
サリーは腰にセットされた小型の爆発ポーションをセレに向かって投げる。そしてダメ押しの魔法を詠唱した
「[エンラージ・マテリアル]!」
物質巨大化の魔法だ。サリーの投げた小さなポーションは、人一人分の大きさまで増大し、セレの足元に着弾する。
「[プロテクション・フロム・エナジー]」
大きな爆発が発生する。しかし、セレは赤いシールドのような魔力に覆われており、大きなダメージを受けずに済んだようだ。サリーが持つ、プロテクション魔法の一種だろう。爆発をもろともしない耐久性は、目を見張る。しかし、無傷とはいかなかったのか、服のあちこちが破けている。
「うそ!アタシの特製爆弾ちゃン…これで決まらないなんテ!」
「うん…さっきの答えだけど、私は対魔法使いにおいて、最も優れた能力を持つ血脈なのよ。たとえ、貴方がアルケミストの力を持っていても、私には勝てないわ。メイジマッシャーと呼ばれたこの魔法、受けてみなさい」
セレのスタッフが毒々しい光りを帯びて、集束していく。毒系統の攻撃魔法だろうか、これを使わせちゃマズイ気がするぞ
これは…俺の判断ミスかもしれない。サリーは律儀に、相手を確殺できるほどの殺傷能力を持つポーションや、魔法の使用を避けている。魔物相手に遠慮する必要はないが、親善試合の人相手となると、また勝手が違ってしまう。
「サリーさん!」
俺の声をかき消すように、セレは魔法を発動した
「[メイジマッシャー・フィーブル・マインド]!」
幾つもの毒々しい光の球体が、サリーを追尾するように発射された