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166話


 控室。次の戦いの前に、両陣営は小休憩を取っている。この間の時間を使って、会場では飲食やグッズの販売などをしているはずだ。俺としてもお祭りは大好きなので、ぜひお客さん側で美味しいものを食べまわりつつ、グッズのひやかしを行いたい気持ちではあるが、残念ながら出場者にそんな暇は与えられそうにない。


 今のところ、Aランク相手に圧倒的な力を見せつけつつ、全勝している。最初の一戦は誰が相手でも不得意がないイミスに出てもらったが、運良く相手側も似たようなクラスを出してきた。一敗した相手は必ず次で巻き返しをはかるとみて、単体戦に強いフォノスを選定。これも上手くいった……とは言っても、ここまで上手くハマってくれるとは思わなかったが。


 「よし、次はサリーさんに出てもらおう」


 「アタシ!?がんばル!」


 「今のところ負けは無いけど、相手は何をしてくるか分からない。油断せずに行こう」


 「フッフッフ…今のアタシは絶対に負けないよォ?新、特製レッドフェイスポーションも―」


 サリーは自慢気に、骨まで溶けるようなポーションを素手でホレホレと見せつける。…おいおい、それは相手が死ぬやつだからやめるんだ。


 「さ、サリーさん…それ、いつぞやの盗賊にぶっかけた時、相手をスケルトンにしちゃったポーションだよね…竜の外皮も腫れ上がるほどの威力のある薬……。それを使ったら相手が死んじゃうから、封印しよう。何度も言うけど、殺しは無しだよ」


 「は~ィ♪…フンフンフン、ゴブリンのフン~♪」


 牛乳を冷蔵庫にしまい直すくらいの軽いノリで、危険な新薬をシリンダー入れに戻す。そこには幾つかのポーションがあり、どれもコポコポと泡を立てていた。とてもとても危険な感じがするぞ。アルケミストと変性魔術に特化したサリーは、相変わらず何をするかよく分からないんだよね。


 ヒヤヒヤしながらも、ニコニコ顔の彼女がポーションを作る様子を横で眺めていると、控室の扉が数回ノックされる。


 「はい?」


 反射的に返事をすると、すぐに扉は開かれた。


 「失礼します。ステロール子爵から、労いの品が届いております。そちらの戦いには感動したので、ぜひお近づきの印にとのことです」


 獣人スタッフさんの手元には、可愛らしいバスケットに布が被せてあり、中からは香ばしい焼き菓子の香りがする。


 「ありがとうございます。そちらに置いてて下さい」


 要件を伝えると、スタッフさんは戻っていった。バスケットを開けると、クッキーのような菓子らしきものが入っていた。


 「うわぁ!美味しそうだな。ステロール子爵も良い人だね、こんな気を使ってくれるなんて、なんだか申し訳ない気持ちになってきたよ」


 俺はクッキーに手を伸ばして食べようとすると、ニコニコ顔だったサリーの表情が真顔になり、俺の手から焼き立てのクッキーをはたき落とす。


 「ダメ!」


 …サリーはそんなにクッキーが好きだったのだろうか?


 俺は、手の甲をさすりながらも、バスケットごと彼女に手渡す


 するとサリーはバスケットごと壁に投げ、叩きつけてしまった。バラバラになった焼き菓子は地面に散らばってしまい、食べられそうにない。


 …サリーはそんなにクッキーが嫌いだったのだろうか?


 そんなことをボケーっと考えていると


 「サトル、このお菓子…毒が入っていル!人が死ぬくらいノ!エルフでは有名な毒の匂いがしたんだヨ!」


 フォノスは、ゆっくりとした動きでクッキーを広い上げ、臭いを嗅ぐ。本当に毒があるのかを調べ始めた。


 「ヘビ毒…?いや、でも殆ど臭いがしない。だけど、お兄さん……これ、たしかに危険な感じがするよ。香ばしい香りで打ち消されている。ターゲットは決めず、誰でもいいから毒殺しようとしたのか…?」


 「バフバフ!バフバフ!」


 クリュがクッキーを食べようと突進するが、フォノスに抱えられた。…拾い食いはいけません


 …どうやら、サリーはクッキーを食べたくて不機嫌になった訳でも、クッキーが嫌いすぎて壁に投げつけた訳でも無いようだ。俺を守ってくれた。


 「じゃあ、サリーさんは俺を守ってくれたんだね…でも、どうしてフォノスでも気が付かなかった臭いが分かったの?毒の臭いって言ってたけど、フォノスはそういった臭いには敏感なはずだし」


 「毒のにおイ…魔力がこもってたヨ。エルフが作る毒ハ、魔法と植物を混ぜ合わせるかラ『魔力の臭い』がすぐに分かるノ!」


 どうやら彼女には、魔法に『香り』のようなものを感じる、独特の感受性があるようだ。きっと、感覚的なもので、俺たちには分からなかったのかもしれない。


 「そっか…サリーさん、ありがとう」


 サリーの頭をなでると、彼女は喜んで、いつも通りのニコニコした顔を見せてくれた


 「でモ、サトルを毒で攻撃するなんテ、許せないヨ。アタシ、本気で怒ったヨ!」


 握りこぶしを2つ作って怒ってみせるサリーの姿は、本当に怒っているか疑いたくなるほどに可愛らしいが、やっぱり何をするか分からないので釘をさしておく


 「し、親善試合だからね…?」







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