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164話


 まず動いたのはライザだった。隠し持っていたナイフを何本かフォノスに投げつけ、接近する


 フォノスはそれを器用にキャッチした


 「このナイフ、毒入りだ。麻痺毒だね…君も、人に言えないほど悪道な戦い方をするじゃないか?」


 ナイフは汁気を帯びており、キャッチした指の感覚が、少しだけ抜けているのを感じ取るフォノス


 「口の減らぬ奴よ…血に塗れた混沌の者に向ける情けなど…無い!」


 ライザは上空へ飛び上がり、自身の体重を乗せた一撃をフォノスへ繰り出す。しかし、フォノスはそれを下がり回避、その後も休むこと無く繰り出される連撃を、含んだような笑みで避け続ける。


 「ククク…ひとつ、教えてあげるよ」


 「…」


 聞く耳を持たず攻撃を続けるライザへ、フォノスは一切反撃することなく、攻撃を躱し続けて口を動かす


 「僕が敬愛するお兄さんは、善悪に囚われず、人を助けるような人物だ。もちろん不利益を被る場合はその限りじゃないが、君のように、人物を道具の様に、キレイに仕切りを敷いてカテゴリーに分け、整理整頓するタイプじゃない。魔物だから殺すとか、混沌だから受け入れないとか、そういう人じゃあ、ないんだよ」


 ライザは攻撃が当たらないと判断すると、一度距離を取り、諭すように言葉を返す


 「…問題児は必ず問題を起こす。混沌と秩序は相容れないのだ。今日貴様が死ななければ、また誰かが死ぬだろう。俺の鼻は誤魔化せんぞ。今日、貴様を知ることができて良かった。同業として、放置しておけぬ」


 しかし、フォノスの耳には響かない


 「お兄さんは、魔物も人も、笑顔になれる世界を夢見ている」


 「…!?、そんなこと、不可能だ。貴様のような、年端も行かぬ者が描き夢見る、絵空事の妄言に過ぎない!いい加減、アサシンごっこを辞めて、罪を償え!」


 ライザは道具入れのポシェットから手の平より少し小さめの玉を取り出し、地面に投げる。すると、そこから煙幕が立ち上り、瞬く間に姿を隠した。


 「ここから反撃するつもりかい?…見えているよ」


 ライザはここしかないと、自身が持つ必殺の一撃を、煙幕に乗じて繰り出した


 「小僧、ここで死ぬことを悪く思うな……必殺[モータルブロー]!」


 モータルブローは、刃渡りの短い武器から繰り出すことができる技の一つだ。背後からの攻撃や、奇襲など、相手から有利を取っている場合、必ずクリティカルヒットになるのが特徴で、スカウト系は覚えている場合が多い。


 煙幕から突き抜けてくる短刀は、フォノスの首を真っ直ぐに狙い迫る。普通に受ければ首を掻っ切られて死んでしまう攻撃だが、煙幕が邪魔をして司会も状況を確認しかねている。


 勝利とフォノスの死を確信したライザ…しかし、そうはならなかった


 煙が徐々に薄れていき、状況が明らかになる


 煙幕から繰り出される完璧な奇襲の一撃。フォノスはそれを二つの短刀を十文字に交差させガードしていたのだ! 剣の合間から、怒りに燃えるフォノスの瞳色がより強く耀う


 「な…なぜ…!?これで死ななかった者は、今まで一人も…!?」


 「そうだね…所詮は綺麗事だ。絵空事でも、お花畑であっても…どこまでいっても」


 フォノスはクロスさせた活人剣と殺人刀で、相手の短刀を巻き上げて、武器が空中に浮いたところを足で場外まで弾き飛ばす


 「な…!?」


 「だからこそ現実にしたいんじゃないか!僕と、僕のお兄さんと、どんな手を使ってもだ。それが僕の描くディストピア。僕が僕である所以なんだ…そこには弱者や虐げられた者なんて、一人も居ない。そして、僕とお兄さんの世界に、君は居ないんだ。今、そうなった」


 「貴様は狂っている。壊れているぞ![モータルブロー][モータルブロー][モータルブロー]!」


 予備のナイフを取り出し、必殺の一撃をがむしゃらに連打するが、その全てはフォノスに届かない


 速度の地力が違いすぎたのだ。


 「ククク…アハハハハ!」


 両手を広げ、残像を残しながらライザの必殺を躱し、ゆっくりと近づいていく…


 絶対的な力を持った者の前に、為す術がないライザ。まるで死の宣告を待つ信徒のように、ライザは膝をついた。何をやっても、己の刃が届かないことを悟ったのだ


 「小僧…綺麗事だ。正しいはずがない」


 「選んだ答えを、正解にすることが、正しい努力なんだと、お兄さんは示してくれたよ」


 ライザは苦悶とも思える表情で感情を剥き出し、最後の力でフォノスへと襲いかかる


 「混沌風情のガキがああああ!!分かったような口をきくなあああぁ!」


 フォノスは殺人刀を仕舞い、活人剣を構えて突き出される拳を半身で避けると、背向き合う状況から、急所を外して斬りつける


 「ぐあああああ!」


 ライザは自身の勢いのまま、うつ伏せで倒れた。活人剣は強い痛みが出る武器だ。軽く叩くだけでも、しばらくは動けないだろう……これで、決着はついた


 フォノスは活人剣をクルクルと回して腰におさめる。そして、司会へと微笑んだ


 「峰打ちだから、安心してね」


 司会は、今日何度目かのハっとした顔を見せて、いそいそと拡声の魔法を再度発動させた


 「し、し、試合終了~~!次鋒戦においても、サトルパーティーは圧倒的!あまりにも圧倒的な戦力を見せつけたぁ~!」




Tips:

ライザ

スカウト系のクラス持ち。クラス名はローグ。ステロール領で数々の悪を法の裁きの元、葬ってきた。

しかし、法では裁けぬ悪に対して、どこか心に引っ掛かりのようなものを感じている


善悪の区別ができる特殊な『鼻』を持っており、相手がカタギかどうかは『臭い』で判別ができる


フォノスが殺めてきた人の数が普通のソレではないことをすぐに見抜き、依頼とは別に放置しておくことは危険と判断し、大会中の殺害を決行したが、フォノスの力量が圧倒的であったため、あえなく失敗した。




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