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163話


 ステロール子爵の心情は、冬の荒波のようにメチャクチャだ。何が起きたのかという現状把握と、敵の使った見たことも聞いたこともない戦術。極めつけは一撃で場外へ吹き飛ばすという人間とは思えない膂力。どれをとっても想定外で、始まったばかりなのに、こんなはずではなかったという言葉が頭を過ぎりかける。


 「いや…何かの間違いだ。そうだ、ガウスとやらが、弱かった。そうに違いない。仮にもAランクだ。こんな馬鹿な事態になってよいはずがない」


 「フゴ…父上、試合、まだ始まらないのか?ガウスはトイレか?フゴ?」


 グリセリー・ステロール子爵の息子、カルボンは、試合相手が突然トイレにでも行くために消えたとでも考えているようだ。まさか、ご自慢の守り手が一撃でやられたとは夢にも考えていない。目では見えているが、脳がそれを拒否しているのだろう。


 「おお…我が息子よ……。うむ…そうだな、きっと空を飛んで…その、トイレに向かったのだ」


 「フゴ!それは良かったフゴ。さすがAランクとなると、トイレに向かうのも一味違うフゴ」


 実際はイミスに殴り飛ばされただけだが…


 カルボンは満足気に頷き、手元にある肉料理に手をつけ始める。


 ちなみに今は、試合を一時中断し、会場スタッフがガウスの捜索に当たっている。


 しばらくして、ようやく司会が現状を伝えた


 「え~……会場の皆様。大変長らくお待たせしました。ガウスさんの行方が判明しました。会場から離れた道具屋の屋根に刺さっていたとのことです。医療班が回収したので、命に別状はありません。気絶していたため、ルールに則り、イミスさんの一本勝ちとします」


 わっと会場が盛り上がり、イミスへ大きな拍手が向けられた


 「フゴ…道具屋のトイレかフゴ?」


 「……」


 グリセリーはカルボンに対し、沈黙を守ることに決め込んだ。…そして、懐から怪しい小箱を取り出す。


 「この戦い…一本でも良い。奴らに一泡吹かせてやろう。あの御方からいただいたコレさえあれば…サトルとか言ったか…そこそこに切り上げる予定だったが、気が変わった。打ちのめしてやろう。フォフォフォ…」


 小箱からは手のひらにすっぽり収まるほどの怪しくも赤黒く燦めく宝石が入っていた。


 ―グリセリーが何かを企む中、会場ではガウスも見つかったこともあり、しばしの休憩を挟んで次鋒戦が開始されようとしていた


 同時に、フォマティクスのチーム内でも、動揺が伝染していた


 壌土の手。リーダーの男は名をカイオスという。派手な登場でアウェイな空気を吹き飛ばしたのも、この男だ。注目を全て集め、気持ちよくなっていたところを、イミスの一撃で目を覚まされた思いである。


 「…はっはぁ?一体どういうことだ?仮にとはいえ、うちでも守りを張っていたやつが場外へ飛ばされるなんて、聞いていた話と違うぜ」


 「うん…魔法ね」


 カイオスへ相槌したのは、ローブ姿の女性、しかし素顔の半分は包帯で隠し、魔法使い用の帽子を深くかぶっているため、片目がかろうじて見える程度。


 「はっはぁん…セレ、魔法が使われた感覚があったのか?」


 「うん…あった。でも何か、何か違う。根本的に見逃しているような、勘違いしているような、そんな感じがするの」


 「つぅことは、次も似たようなので打って出る可能性もあるな。であれば速攻でケリをつけるべきだな。先手必勝といえば、ライザ。出番だ。相手がその気だったんだ。間違って殺しちゃっても文句は言わねえだろう。殺ってこい」


 「…承知した」


 __



 「さぁ!開幕からシールドウェストの英雄は英雄らしく一発で相手を熨してくれました!次鋒戦では、どのような活躍を魅せてくれるのか。個人的には、サトルさんたちのファンでございまして、いやぁ楽しみでございます…とと、失礼しました!」


 司会が饒舌にもサトルパーティーを応援するなか、二番目に戦う選手が両者前へと出てくる


 サトルが送り出したのは、フォノスだ


 司会は両者に目を配ると解説に入る


 「次鋒戦では両者…どうやらどちらも斥候のようです!サトルパーティーは、最近パーティーに入ったと噂される、フォノスさん!全身黒い軽鎧に身を包んだ姿は正にアサシン…2つの短刀を持っていることから、二刀流で戦うものと想定されます!対するは壌土の手も全身軽装の短刀使い…ライザさん。パーティーではアタッカーと斥候を同時に受け持つ万能なアサシンのようです。また、クラス持ちとしても有名で、カイオスさんの右腕として活躍しています」


 両者向き合うが、互いに話をせず、相手の出方を伺うのみ


 フォノスは優しい笑顔、ライザはフォノスに嫌悪感を隠さずといったところ


 しびれを切らし、先に口を開いたのはライザだった


 「…小僧、貴様からは血の匂いがこびり付いている。経緯は知らぬが、暗殺の真似事なら止しておけ。帰る場所が無くなるぞ」


 「クク…帰る場所?それなら、これから創り上げるんだ。…僕のお兄さんと、一緒にね」


 「…戯言を。狂いきっているのか、貴様。俺の鼻は誤魔化せないぞ。貴様は血なまぐさい混沌の者だろう…秩序や善なる存在と共になど、不可能だ」


 ここで、初めてフォノスの顔が怒りに歪む


 「それを決めるのはお前じゃない」


 両者獲物を抜き、戦闘態勢に入った


 「両者合意とみてよろしいですね!?それでは…試合開始!」



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