162話
「第一試合…先鋒を務めますは、サトルパーティーのディフェンダー!イミスさんです。…対して、土壌の手の先鋒は、同じディフェンダーのガウスさんだ~!」
会場が盛り上がりを見せるなか、それぞれ、案内されたメンバーが前に出る。イミスは周りに手を振るような余裕を見せるが、対するガウスと呼ばれた男は、イミスに一歩一歩近づくにつれ、嫌な汗が吹き出してくるような感覚に襲われている。
ガウスの容姿は、チームの守りの要というだけあって、体格が大きく頼もしい。背には何かの魔物の骨で作ったと思われる大盾、そして小ぶりなメイスを腰に提げている。お互い並びあえば、親子にも見えなくはない差がある。素人目からすれば、大男が勝つのは明らかとも。
しかしながら、ガウスはイミスと相対したときから、冷や汗が止まらなかった。
少女の見た目は、気さくな酒場の看板娘といった風体で、笑顔が爽やかな美少女だ。どうにも害を成す存在には見えはしない。それなのに、一刻でも目を離せば、狩り殺されてしまうような、そんな危うさを、ガウスは経験則から感じ取っていたのだ。
そしてガウスが最も警戒しているのは、イミスの横にいるゴーレムと思われる人形だ。ゴーレム使いは、通常であれば自分よりも大きく力の強いものを用意する。少女の横に立っているゴーレムも、また少女に負けず劣らずスマートで、華奢な印象を感じさせる。
「お、お前は…一体何なんだ」
ガウスは、イミスへ向けた言葉なのか、自分自身が感じているナニカを確かめるためなのか、自然とそう言葉を紡ぐ。
その言葉を聞いたイミスは、両手を後ろにまわして、微笑むだけ。幼なじみの想い人を待つようなあどけなさを残した笑顔は、今から戦いますねという表情とは対極にある。
ガウスは顔を何度も横にふって、自分の感じている違和感を無理やり振り払った。
「先鋒のお二人とも、合意と見てよろしいですね!?」
「ふぅ…俺はいつでもいい」
「ウチも、いつでも!」
ガウスは大盾とメイスを構え、イミスもスカーレットと手をつなぐ
それを見たガウスは、少しでも相手の注意を逸らそうとヘイトを稼ぐ
「お嬢さん、お人形遊びなら家で…へ?」
見間違いでなければ、イミスの周りに赤いオーラが漂っている。クラス持ちでなければ、このような特殊能力は発現しない。ガウスは今初めて、イミスがクラス持ちであることを知ったのだ。
「それでは試合始め!」
司会の合図と同時にイミスが動き出す
「シンティクシィ・オフェンシブフォームチェンジ…ッスカーレット!」
「はい、マスター」
「ゴ、ゴーレムが喋りやがった!?ダンジョン産のアーティファクトか!?」
ガウスの質疑に答えることもなく、イミスはスカーレットと合体を始める
華奢な美少女の腕に、次々とゴーレムのパーツが分解、変形、装着されていき、スカーレットというゴーレムは自身の等倍はある篭手に形を変えた
もちろん、ガウスを含めてこのような戦術を使う人を知っている者もいない
「な、な、なんだ。それは…」
「オプショナル・アタックフェーズ[勇気のオーラ]!」
モヤがかかった赤きオーラはハッキリと視認できるまで色濃く発現し、その力を全て篭手に集約する
ガウスは本能的な危機を感じ取って、回答される余地のない問答を止め、大盾を構えた
「[メイジ・アーマー]!」
大盾だけでは心配になったのか、ガウスは更にサリーが覚えている魔法のひとつ、メイジ・アーマーを唱えて衝撃に備えた
イミスはギリギリ攻撃があたる所まで接近すると、左足を陥没するほど強く踏み込んで、十分に力を溜めたあとに、大盾めがけて思い切り腕を振り抜いた!
「てええええぃ!」
拳と大盾が接触した瞬間、大盾の大部分である鉄と骨が砕け散る
勢いは止まらず、そのままガウスに拳が触れた
バァン!と大きく耳障りな音が届くと同時、衝撃波は互いの立見席まで広がり、ガウスは会場から姿を消した
そう、姿を消した。どこか遠くまで飛んでいったのである
イミスはあちゃ~といった表情でサトルへ振り向き、小さな拳で頭にポコっと叩きつつ、おちゃめに舌を出した。
「ごめん、やりすぎちゃった!…えへ」
「えへじゃねぇえええ!」
サトルは祈る。相手の命が無事であることを、ただひたすらに……