161話
「ご来場の皆様、お待たせいたしました。これより、ステロール子爵主催…シールドウェスト親善試合を行います!」
突貫工事で出来上がった闘技場には、冒険者や一般客が押し寄せ、立見席までいっぱいになってしまっている。見世物としての注目度も高いが、アイリスが手を回して客寄せを行っているのもそれを手伝っていた。
わざわざプロの司会まで用意したのか、ご丁寧にも口元に拡声の魔法を展開し、来場者へアナウンスをしている。戦いのルールを一通り説明した司会は、進行を進めた。
「試合には、我らシールドウェストの英雄…サトルパーティーだぁ~!」
「うぉおおお!」「やっちまええ!」「この肉うまいんだな」
会場は盛り上がり俺たちへの声援が響く。司会はそれを慣れたハンドサインで鎮め、話を続ける
「皆様、ありがとうございます…えぇ、ありがとうございます。サトルのパーティー自体の結成は驚くことに今年になってからという情報が寄せられています。しか~し、依頼の達成率はなんと驚異の100%、そして、その全てが高難易度…!最新の情報では、ウツセミにてドラゴンを打倒したという情報が入っております!」
司会の発表によりどよめく会場
「おいおい、嘘だろう」「本当なら偉業だぞ!」「この野菜もうまいんだな」
司会の情報に驚いたのは客だけではない。ひときわ豪華な来賓席にいるグリセリー・ステロール子爵と、その息子のカルボンは、顔を歪める。
「フゴ…父上、ドラゴンを倒したとかなんとか、そう聞こえたフゴ」
「うむ…そうだな、我が息子よ。しかし、こういった催しでは会場を盛り上げるために、あえて大げさな表現をするものだ。仮に事実であったとしても、ドラゴンの討伐は、たった1パーティーで成し遂げるものではない。嘘ではないがうまく誇張しているのだろう」
「フゴ!では、ぼくちゃんが選んだ冒険者は勝てそうフゴ!?」
「うむ!絶対に勝てるぞ!我が息子よ。何と言っても我が国のAランクでも、特に優秀な者を集めたのだ。敵国へ、武力の差をもってして恥をかかせることができれば、我が国王もお喜びになるに違いない。フォッフォッフォ…それに、いや何でも無い。とにかく、我が息子の勝利は揺るがぬよ!」
都合の良い解釈で現実逃避を始めたステロール子爵だが、別段そこまで飛躍した考えとは言えないのが気の毒である。普通であれば、大型魔物の討伐は、たくさんの人と協力し、時間をかけておこなうものなのだ。サトルたちが規格外なだけであって……。
司会はサトルパーティーの簡単な紹介を終えて、ステロール側の紹介に入る。
「対してはフォマティクス国、ステロール領の主が率いるAランク冒険者パーティー。『壌土の手』だぁ!」
…相手方は当然、アウェイなのでブーイングの嵐。しかし、そんな雰囲気を一刀両断するように、リーダーらしき人物が前に出てきて、いつの間にか出現した剣を地面に突き刺す。…あれ?剣なんて持っていたか?
「はっはぁ!、外野は黙って見てなー」
男は啖呵を切ると、地面に突き刺さった土色一色の剣に向けて指を鳴らす。
すると、剣は砕け散り、突き刺した地面から数メートルはある巨大な壁画が生まれた
そこには『黙って見てな』と共通語でしっかり書かれている
目まぐるしく変わる状況と、見たこともない能力を前に、ブーイングは止み、会場は静まり返った
「はっはぁ!これでよし。司会、続けなー」
男は右手をさっと上げて、進行を司会に返す。…あの能力はなんだ。魔法なのは間違いないが、スターフィールドのルールブックに、巨大壁画を出すなんて技は存在しない……。
司会は、ハっと意識を正して、進行を続けた
「…は!?、し、失礼しました。え~…壌土の手は、フォマティクスのステロール領でも、最も実力のあるメンバーを集めたパーティーです。依頼達成率は80%、結成してからが長いので、大型討伐数だけで言えば、サトルのパーティーよりも上です!経験の差がどう試合運びに影響するのか、注目だぁ!」
お互いの紹介が終わり、さっそく第一試合が開催される。向こうはどんな手で来るのかな…?