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16話


サリー視点


* * *


サトルと別れたあと、魔法具店に戻ったアタシはすぐに調合に取り掛かったわ。しかし何時もとは全く違う結果が起きたのよ。いつもの材料、いつもの方法で作ったのにも関わらず、出来上がった薬は今までとは一線を画すほどの効果が高い上級治療薬が完成したわ。


「これは…!?」


何かの間違いかと思い、何度も何度も慣れ親しんだ方法で様々なポーションを作る。するとどうだろうか、全てにおいて効果が段違いのポーションが出来上がっていくではないか。傷を癒やすポーションを育成中の薬草に与えれば今までの萎れ方が嘘だと言うように瑞々しくその姿勢を戻す。汚れを落とす生活用品系のポーションを雑巾にかければ新品同様の布に戻ってしまうのよ。


「これが、サトルの力… これがアタシの作ったポーション…!?うそでしょウ」


趣味程度とは言え腐っても魔法をかじっている身として、こんなことはあり得ないことをアタシは知っている。そもそもクラスというものは選ばれた者が長い時間修行をして得るものなのよ。そう簡単には天と地はひっくり返らないし、そのような魔法など聞いたことも見たこともない。


「サトルはクラスチェンジと言っていたわネ…クラスを変える魔法…?そんなハズはないわヨ…何かの強化魔法を、たいそう仰々しくネーミングしていたのだと、でも強化魔法の性質上、こんなにも長期間かけることはそれこそ絶対にできなィ…それにあの戦闘のときの輝きハ…」


 偶然とはいえ、世界の摂理を覆すような神の如き魔法、もっと知りたい。もっと近くで見ていたい。そしてアタシの夢を叶えてくれたサトルには感謝しかない。割られた水晶は一日一回少量の水が出てくる滑りやすい魔道具…ただそれだけのシロモノ。サトルがアタシをかばってくれたこと、何らかの方法で夢を叶えてくれたことのお礼もまだ全然できていないわ。


「アタシが抱えている患者様、今なら全員完全に治療できる気がするわネ… 今日は忙しくなるわヨ!」


里から出て共通語もまだあやふや。肩身が狭いハーフエルフだったアタシを受け入れてくれたこのシールドウェスト。ここの皆には少なからず恩がある。こうして店を構えることができたのも商業ギルドの人たちのおかげ。仕事を回してくれた人の期待に応え、アタシを頼ってくれた患者様をこの機会に全員治療してやるのよ!そして…


「決めた! やることやったら、サトルについていク!」


患者様の治療が終わったら、魔法具店として商いを続けることはできるかもね。でも、サトルはすぐに行ってしまう気がするの。英雄の素質を持つヒューマンは一箇所に長くは留まらない傾向があるわ。アタシはこの出来事で魔法も使えるようになって強くなった。錬金魔術士として活躍ができるならもっと広い世界を見て知見を広げ、旅をしてみたい!そして可能であればサトルのそばでそれを叶えたい…


 考えがまとまると後の行動は早かった。アタシはすぐに抱えている患者様全員の薬を完成させて、実際にポーションを飲んでもらっていったわ。結果はやはり目に見えてハッキリと出たの。


「こ…これは凄い!今までの鼻詰まりも嘘のようだ!これでまた冒険者のスカウト役として活躍できる! サリーちゃん、この薬は本当にタダで貰っちゃって良かったのかい?」


犬耳の大きな体格をした獣人ワイルドヒューマン。アタシのお抱え患者様の一人で、今日に至るまで辛抱強く持病に耐えてアタシの薬を信じて飲み続けてくれていた方だわ。


「えぇ…今まで対した結果も出せずごめんなさィ。でもご覧の通り、完全に治療できる薬ができたので、いち早く受け取って貰いたくテ!」


「そんなそんな…いつも良くしてもらってたから、全然気にしなくていいんだぞ!それに…なんだか今日のサリーちゃんは今までで一番楽しそうに見える。俺の鼻がそう言ってるんだ。きっと何かやりたいことを見つけたんだろう?頑張れよ!」


自慢の鼻をヒクつかせてアタシの頭をぽんぽんと叩いてくれた。嬉しくなって次の患者様へポーションを届ける。


「あらー!サリーちゃん?こんばんは~!…今日はどうしたの?」


「実は…」


 ずっと腰痛に悩んでいた患者様。腰に矢を受けてしまったので今は冒険者を引退しているらしいわ。身体を痛める病気は治療系の魔法をかけ続けると完治できるというけど、大抵は料金が高すぎて現実的じゃないので、この場合は諦めるか沈静化させるポーションを使うの。今回はこの治療ポーションを使って、鎮静系の常用を克服できないか試しに来た。結果は…


「あら!あらあらあら! まったく痛くないわー!! なんて凄いのサリーちゃ~ん!」


あまりに嬉しかったのか、アタシの手を取ってジャンプしてみせる。嬉しくなって一緒にジャンプしてみちゃう。


「あら…? サリーちゃんアナタ…」


「どうかしましたかァ…?」


「うふん! 何でも無いわ!ただ…困った事があったら相談しにきなさいね!いつでも大丈夫よ」


「はァ…そうですかァ…ありがとうございまス?」


獣人の患者様といい、ヒューマンの患者様といい、何か変よ。きっと治療できたから気分が良いだけだわ。だってアタシは何時も通りよ、少し違うのは…サトルに会うのが、これから先、自分にできることがどんなことなのか、楽しみなだけなのだから。


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