158話
階層主にエンカウントするとカルミアが一撃で斬り伏せる。更に階層を降りて新しい階層主にエンカウントすると、次はサリーの魔法によって、一撃で木端微塵。次はイミスが…というように、出てくる魔物を片っ端から叩きのめす俺の仲間たち。遠慮を知らぬようで、壁や地面ごと粉砕されるダンジョンの方が心配になってくる。…急に崩れたりしないだろうか。
そして今は…サリーの番か。
「イリュージョン・ストライク!」
竜杖からサリーの膨大な魔力が充填され放出。魔力は水属性となって竜の形をとった。15階層の主であるジャイアント・センチピードというムカデ型の魔物を襲う。
水竜が魔物を包み込むと、急激に沸騰し爆発を起こした。…サリーの魔力もレベルアップにより上昇しているが、やはり竜の力を宿した杖は強い。追加効果として炎の力も引き出せることも嬉しい。
*サトルを含む、パーティーメンバーが全員レベルアップしました*
*オーパスはスタンドアロン化されているため、経験値分配は除外されています*
そしてボスを討伐したことで、レベルも上がった!あとひとつ上がれば、いよいよ10になる。オーパスは正式にはパーティーメンバーという括りではないため、レベルは上がらなかった。…彼らは彼らとして頑張って稼いでもらう他ないだろう。
「これで、おわリ?」
「あぁ…10階層のドラゴンが出たときは、次に進むのを躊躇ったが、意外とサクサクだったな…う~ん。物足りない…いや、これで良いのだろうけど」
11階層から14階層まではレッサードラゴンとトロール…たまにオーク。と大きな変化は無かったが、どれも数が多いのが厄介だった。15階層から出てくる魔物はガラっと変わり、虫系の魔物ばかりになっている。宝箱からは武器や高そうなアクセサリーが出てきたが、どれもガルダインが打ったものを超えるほどの武器ではないため、売却予定。てっきりトゥルードラゴンの成体でもゾロゾロ出てくるとちょっとだけ思ったのだが…
「サトル…そう簡単に、強くて素材としても優秀な魔物は現れないわよ」
カルミアに心を読まれた…。あれは一体どれほどの深層からやってきたのだろうか…?
「う、うん。分かっているよ…。レベルも上がったし、この辺りで切り上げてシールドウェストに帰ろう。依頼もあることだし…」
それにしても…領主からお暇をもらったばかりなのに、すぐに依頼とは…。アイリス様の気でも変わったのかな?
* * *
その日、シールドウェストはちょっとした騒ぎになっていた。
隣国フォマティクスという国から遥々、貴族様がお見えになったということで、町中が緊張に包まれていたのだ。
というのも、フォマティクスとは昔から仲が悪く、歴史的に見ても争いが絶えないという事情がある。そんな隣国から突然、旗を掲げた馬車から『こんにちは』とでも貴族が無防備でやって来れば、どうなるかは明確だ。暴動にならなかっただけ、運が良かったとも言える。
しかし、ここで他国との争いの火種を生んでは、蛮族王の討伐や未開の地で大きな力を持つ魔物の征伐はこなせなくなる。せめて、蛮族王討伐を完遂してから動き出すべきなのだ。
そんな考えもあり、どんな非常識極まりない奴であっても、他国のお偉方に違いはないので、アイリスは迅速丁寧に、フォマティクスからやってきた貴族を客人として迎え入れ、領主の間へと案内するように取り計らった。
そして、アイリスは今、目の前に座って好き勝手やっている貴族へ改めて目を向けた
客室は豪華に飾り付けて、食事もできる限りの物を出している
その貴族は名乗りもせずに、食事に手をつけて、肉や魚を食い散らかしている
「ゴホン…食事は気に入って頂けたかな?私はアイリス・ジャーマンだ。シールドウェストを統治している―」
アイリスは、いい加減何のようだと言いたい気持ちをぐっと抑えて発言するが…
「知っているフゴ。今食っているから邪魔しないでくれたまえ」
口を開いたと思えば非常識極まりない発言だった。見た目はまんまるに太った男で、ソファーに足がつかないほど極端に短い。
「ううむ…済まないね。うちの息子は食べ始めるといつもこうなのだよ。私から自己紹介させてもらおうか。知っていると思うが、私はフォマティクス国のステロールという領地を統治しているグリセリー・ステロール。子爵だ」
アイリスは眉間にシワをよせつつ、何とか笑顔で頷く
「…えぇ。それで?」
「そして、今食べているこの子が我が愛しの息子。カルボンだ。我妻のエステルとの愛の結晶…ただ一人の大切な大切な」
「えぇ!そうでしょうねぇ…それで、要件は?」
カルボンは口をくちゃくちゃさせながら、アイリスを見据えると、持っている肉の骨をアイリスへ向けて言う
「おばさん、怒ったらシワ増えるぞ…フゴ」
アイリスは歯が削れて無くなるんじゃないかというほどギリギリと歯音を立てた。顔は笑顔である
「…お気遣いなく?」
話が前に進まないので、カルボンの父、グリセリーが要件を伝える
「実は、我が息子が最近この町で生まれたという強い冒険者をひと目見たいということで…こうして遥々やってきたのだ。そうだよな?カルボン」
「フゴ…そうだ。お前たちの冒険者と、俺の冒険者、どっちが強いか勝負しろ」
「突然、そう申されましても…ねぇ?」
それを聞いたカルボンは激しく取り乱し、駄々をこねはじめる。食い散らかしている食べ物を更に散らかして、手足をばたつかせた
「フゴ!イヤダイヤダ!冒険者戦わせる!どっちが強いか見たい見たい!!おばさん、なんで分かってくれないの!フゴオオオ!」
「おお~!そうだよな、我がカルボン。この者は我が国との不仲を望んでおられるのかもしれない。これは国王にお伝えせねば!!全く、遠路の末ここまでにどれほどの時間をかけたか…」
グリセリーはカルボンを両手で抑えつつ、アイリスをチラ見する。…受けろという脅迫だろう。アイリスは今、戦力を裂けないことを知っていて、このような手に出ているのだ
「っく…少々、お待ち下さい。遠方へ出ているので、連絡が取れるか確認してみましょう」
アイリスはお付きの騎士を連れて、客室から大股で退席した
扉を閉めて、アイリスは歩きながら騎士に指示を出す
「ったく…何度か我慢できずに焼き殺すところだったよ。ククク」
騎士は慌ててなだめる
「お、おやめください。そんなことをすれば…」
「分かっている…こちらに非はないが、向こうとしてはそれこそ望む展開だ」
「…では?」
「あぁ、サトルを呼び戻す。ギルドの鳥で連絡してくれ」
「はっ!」
「あぁ、あと…手紙に詳細は伝えなくて良いぞ。来なくなるからな」
「承知いたしました!」
お付きの騎士は急ぎ足でギルドへと向かって行った
アイリスはその背を見届けると、眉間のシワを手で抑えて、大きくため息をついた
「はぁ…すまないが、シールドウェストのためだ。巻き込まれてもらうぞ……サトル」
* * *
TIPS:
シールドウェスト含め、サトルが所属している領土の国名は、スターリムといいます。
現スターリム国王が王都を持ち、君主に仕える臣下へ領土を任せています。
フォマティクスとは昔から領土を奪い合っていて、国仲がとても悪いです。
足の引っ張りあいは日常茶飯事で、今回もその例に漏れず…
以下 レベルアップ情報
*サトル*
レベル:9
ヒットポイント:150(+20)
筋力:16(+1)
敏捷力:16(+1)
耐久力:17(+1)
知力:18(+1)
判断力:20(+1)
魅力:26(+1)
*カルミア*
レベル:9
ヒットポイント:250(+35)
筋力:28(+2)
敏捷力:40(+3)
耐久力:31(+2)
知力:9
判断力:10
魅力:13
*サリー*
レベル:9
ヒットポイント:155(+20)
筋力:12(+1)
敏捷力:18
耐久力:18
知力:41(+4)
判断力:15
魅力:13
*イミス*
レベル:7
ヒットポイント:265(+55)
筋力:18
敏捷力:9
耐久力:36(+4)
知力:15
判断力:8
魅力:13
*フォノス*
レベル:7
ヒットポイント:90(+15)
筋力:16(+1)
敏捷力:40(+4)
耐久力:12
知力:10
判断力:10
魅力:13
オーパスはサトルのクラスチェンジを受けましたが経験値共有化できないため、対象外です