157話
どうなるかとは思ったが、サリーの杖は、試行錯誤を繰り返すことで耐久性を並程度まで引き上げることに成功した。サリーとモヒカン男の汗と涙による検証の結果、集束具部分にはドラゴンの装飾をつけないという結果にたどり着いたのだ。これにより、魔法を詠唱しても尖端の装飾が破裂することも無くなる。…あまりにも当然な結果なので、最初からそうするべきだと思ったのだが、それを言ってはいけない気がしてしまい、俺はこの件では大人しく黙ることを決めた。
杖も無事に完成したので、全員分の防具もドラゴンの素材で強化し、準備が揃った翌日から、早速フルパーティーで11階層からダンジョンアタックを再開。ダンジョンには、オーパスたちも同行したいとのことで、数人のイエローアイへサポートをお願いしている。
11階層からの主な敵は、レッサードラゴンとトロールだ。なお、ダンジョンの構造に大きな変化はない。その代わりなのか、段々と迷路のように入り組んでいて、上の階層に比べると一筋縄では進めない。
ここからは完全に未知の領域だが、フォノスの活躍でほぼ全ての罠とエンカウントによる奇襲を防止しているため、簡単に感じてしまう。
「お兄さん、階層主のエリアまで到着したよ」
「もう着いたのか?早いな」
「お兄さん、急ぐんでしょう?最短ルートで進んだよ」
「あぁ、ちょっと踏破の速度を上げたくてね。というのも…今朝、シールドウェストの連絡用の鳥…『ルチルちゃん』が宿の窓を叩いてね。俺宛の手紙を持っていた。読んだら、指名依頼が入ったという内容が書いてあった」
「指名依頼…誰から?」
「そこまでは書いていなかった。ただ、切り上げて戻ってきてほしいってね」
できることなら、もう少しレベルを上げつつ、階層を全て突破したかったが…仕方がない。ただ、折角なので、15階層まではクリアしたい。終わり次第シールドウェストに帰還するつもりだ。予定通り…装備も一新できたし、ガルダインの出張作業場も用意できた。仲間のレベルも上がったし、ここでの実入りは十分にあったと思う。
オーパスが寂しそうに俺の顔色を伺ってくる。
「サトルの兄貴。ウツセミから出るんですかい…?」
「15階層を突破したタイミングで、一度、依頼を受けに戻ろうと思っているよ。さすがに、指名を無視する訳にもいかないからね」
「そうですか………わかりやした。留守の間、ガルダインさんの鍛冶場の管理と、ダンジョンに異変がないかのチェックは俺たちイエローアイがやっておきやす!この力で、サトル兄貴のダンジョンを荒らす奴を片っ端から叩き潰してやりやす!ってなぁ!」
オーパスはググっと力こぶを作って、気合の入り具合をアピールする。…気持ちは嬉しいけど、俺は君の兄貴じゃないし、あのダンジョンはみんなのダンジョンだからね!俺だけのダンジョンじゃないからね!言っても聞かないから、聞き流すけど。
…オーパスは俺と同じ、パーティーを管理する人間だ。イエローアイのメンバーを放置して俺のパーティーにオーパスを入れる訳にもいかないし、イエローアイ全員とパーティーを組んで俺たちと同じ冒険者に勤しむのは色々と不都合が多い。
レベル差もあるため、今回のようにサポートしかさせられないのでは、彼らの成長はできないだろう。
彼らは最早、大切な同志ではあるが、これ以降、普段はオーパスをリーダーとして、ウツセミでレベルを上げつつ頑張ってもらい、1パーティーで解決できない有事の際には共闘をお願いする形にする。クラスチェンジもできたし、俺が居ない間もダンジョンの些細な問題はイエローアイで解決できるだろうし、問題はないと思う。オーパスは寂しがるかもしれないが…。
「ありがとう。オーパスさん、俺が居ない間はウツセミを守っていてほしい。そして、何かあったときは、イエローアイのリーダーとして、俺たちに力を貸してくれ」
手を差し伸べると、オーパスはガッチリとつかんでブンブン振り回す
「当然ってなぁ!俺たちは、サトルの兄貴のもんでさぁ。自由に使ってくれ!!」
…そんな、物じゃないんだから
「あ、ありがとう。オーパスさん…。よろしく頼むよ」
今後について、話をしていると、フォノスが階層主に動きがあったことを知らせる
「お兄さんたち、奴が気づいたみたいだよ」
階層主の大型トロールは、手元に置いてあった大きな棍棒を持ち、肩で担いでこちらまでのっそのっそと歩を進める。
「カルミアさん、新しくなった武器の使い具合を教えてよ」
「…丁度良い相手ね。分かったわ」
カルミアは刀を鞘から抜き去ると、辺りに火花が散る。
刀の尖端を相手に向け、徐々に歩の進みが速くなるトロールへにじり寄る。
トロールが攻撃可能範囲に入り、棍棒を振り上げた瞬間―
「はぁっ!」
交差する僅かな間で一刀両断。トロールは斬られた部分から炎と雷の両属性による追撃によって、再生もできず真っ二つになった。