154話
結局…宛がなかったので、杖の制作に関しては謎のモヒカン男に依頼することに。一人ひとり、装備の種類と細かなオーダーをして、完成まで待つ。
カルミアは引き続き刀。ドラゴンの骨と鱗をベースに一から作り直す予定。サリーの杖は、素材自体の魔力が強い角を集束媒体に使うらしい。イミスは魔石を使って、スカーレットの強化。フォノスの双剣はドラゴンの爪を使って強化できないか、ガルダインに試行錯誤をしてもらっている。
防具はパーティーで統一感を出したかったので、全員分をドラゴンの素材で新調だ。サリーは鎧がつけられないので、ローブのワンポイントに素材を使って補強してもらう予定だ。
オーパスとイエローアイのメンバーへ、ドラゴンの素材の分配を申し出たが、丁重に断られた。俺は気にしなかったが…彼らとしては、命を救ってもらって、更に素材まで頂くことはできない。とのことで、仕方がないので、今回は俺のパーティー内だけで装備の新調をする。
パーティーの装備が完成するまでは、依頼を受けることもできないので、大人しく待機だ。
メンバーには全員、装備の完成までの間、自由時間を与えている。フォノスを除いて、皆離れて自由行動中だ。フォノスはクリュを抱えて、休暇の間もずっと俺と行動を共にしている。…フォノスは満足そうだから良いけど、広場でボーっとする日課ができないのは、ちょっとだけ辛い。
おサボりを見られるわけにもいかないので、休暇の時間も、己を強くするための努力に使うことにした。…ダラダラできないのは誠に残念ではあるが、フォノスの前でカッコつけていたい自分がいるのだ。
「お兄さん、どこへ行くの?」
「今日は、ダンジョンの浅い階層で、技の練習をする予定だよ」
先のドラゴン討伐の件で、俺は一日に一度、ファイアブレスと同質の炎魔力放出が可能になった。しかし、怖くてぶっつけ本番では試すことができなかった。休暇の間はこの能力の解明と、実用レベルまで使いこなす練習だ。
「心配だから、僕も一緒にいくよ。ゴブリンでも油断はできないし」
「あぁ、そうだな。…クリュはどうする?」
「宿でお留守番させてくるよ。…クリュ、いつもお留守番ばかりでごめんね」
「バフバフ!」
ふわふわ毛玉のクリュは、自分の尻尾が気になって仕方がないようだ。フォノスが体をなでている間も、激しく動き回る。
「はは、それだけ元気なら大丈夫そうかな?」
宿にふわふわ毛玉を預け、お留守番という任務を命じて、いざ…ダンジョンへ。本来は一人で行く予定だったので、ちょっとだけ気が楽だ。
いつものように、ギルドを通って、受付を終えてから転送装置を使い、ダンジョンへ向かう。階層は2階層だ。1階層だと人が多いから、危険だと判断した。
フォノスは斥候能力が高く、カルミアが罠を踏み潰し、進行するような強引な手段を取る必要がない。彼は次々に罠や魔物の位置を暴き、安全に検証ができそうなポイントまで先導してくれた。…フォノスくんは優秀。俺は覚えた!
「…お兄さん、そこの箱は魔物の臭いがする」
「おや?魔物か…。ということはミミックだな」
一見普通の宝箱に見えるが、フォノスの言うことを信じよう
「どうするの?お兄さん」
「あぁ、奴は開けようとするまでは動かないからな。新しい能力の試し相手には丁度良い」
ファイアブレス…やはり口を開けてするのか…?でも口を開けてファイアブレスって発音できないな…絶対に『ふぁいあふえす』ってなるし…。特技なので詠唱の必要はないのか…?まぁやってみるか
俺は、口元から灼熱の炎が湧き出るイメージをしっかり頭の中に作って、魔力を高めていく…。
「ふぁいあふえす!!」
赤く眩しい魔力が口元に集束。
次の瞬間、口元からあのドラゴンを彷彿させる全てを焦がす息吹が指向性なく放出された
「!?…お兄さん!」
フォノスは俺を素早く持ち上げ、広い検証部屋の中心から外に逃げるように俺を運ぶ。
俺は、飲み屋街で完璧に出来上がったような酔っぱらいの如く、口から炎を吐き続けて止まらない。フォノスはさしずめ、グロッキーになった俺を担いで家まで送る同僚か何かだろうか。…このままでは俺が吐いた炎で俺が死ぬと判断したんだろう。フォノスくんは優秀。俺は覚えた!
「おぼぼぼっぼおぼぼ!!」
「お、お兄さん!それ、止められないの!?」
「おぼべばべばい!(とめられない)」
フォノスが俺を担ぎ、俺の顔を背に移動を続けているため、炎はかろうじて指向性を持ったファイアブレスのような感じになっている。…ドラゴンがやっていたブレスとは似ても似つかない。…どうしてこうなった!?
ファイアブレスは無駄に長く、俺の魔力が底をつく数分間続き、2階層の検証部屋とそこにいるミミック。そしてフォノスが俺を抱えて運んだ移動ルート全てを焼き尽くした。
ちなみにミミック討伐の戦利品は、ポーションとミミックの牙、焼け焦げた宝箱だった