153話
ガルダインがいつまでもドラゴンの素材から離れそうにないので、ギルドマスターが用意してくれた鍛冶場まで素材と彼をそのまま運び出すことになった。
見世物と化したドラゴンの素材を移動させるとのことで、野次馬や怪しい商人、見張りの冒険者もそれに追従するように移動を開始した…君たち、物珍しいのは分かるけど、お神輿じゃないんだぞお~。
ドワーフのサガなのだろうか、貴重な素材を目の前にしたガルダインの顔はヘラヘラとニヤついていたが、炉の前に来ると、一瞬にして表情がキリっとした逞しいものになった。仕事モードというやつか!?
「ふむ…立派な炉じゃ。土と火の精が喜びそうな形状、取り出し口もわしの高さに調節してある」
ガルダインは背荷物を降ろして、鍛冶場の細部までチェックを入れていく
「これなら、お主たちの望む物を作ってやれるだろう。それで…何がほしい」
俺は予め皆と話し合っていた内容を伝える
「はい。まずカルミアさんですが、前と同じように片刃の剣…刀でお願いします。サリーさんは杖を…、イミスさんは自身でゴーレムを改変するらしいので、魔石だけ頂きたいそうです。この場にはまだ居ませんが、フォノスは…」
「お兄さん、呼んだ?」
聞き覚えのある、透き通っていて落ち着いた声の主が、俺の肩をつんつんと突いた。
「ひえええ!?」
振り返ると、見覚えのある少年がいた。フォノスだ
「フォノス!?いつのまに?」
フォノスはイタズラが成功した少年のように、無邪気な笑みを見せた。脇には元気に舌を出したクリュを抱えている。
「フフ…朝からだよ。お兄さんの観察が面白くて」
朝からかよ!声かけようよ。観察ってなんだ!?フォノスくん、俺は観葉植物じゃないぞ。本当に変わった子だなぁ…
「へ、へぇ~…そうなんだ。声、かけてくれたら良かったのに」
「お兄さんが誰かに狙われていないか確認していたんだ。僕はそういうのが得意だからね」
…フォノスは『スレイヤー』と『アサシン』のマルチクラスだったよな…。そして、特別なクラスチェンジとしてクラス名を『ディストピア』と改めた。確かにアサシンは斥候と暗殺に特化したクラスだが、そんなことはさせられない。
俺は、フォノスの頭を優しくなでる
「フォノス。君が危ない目にあったら大変だろ。学び舎のドメーヌ先生も心配するし、クリュだってフォノスが大好きなんだから。何かあれば俺たちが守るから、無理をせずに、一緒にいてくれればそれだけで良いんだよ。でも、気持ちはとっても嬉しい。ありがとうな」
フォノスは若干顔を赤くして俯く。嫌がっているわけではなさそうだ
「…僕はお兄さんが好きだよ。だから、僕は僕のやり方で守ってみせる」
赤い顔のまま、何やら決意表明をしたが…俺は弟のような君が心配で仕方がないよ
ガルダインがジト目で見てくるので、本題に戻す
「ゴホン…え~っと、フォノスの装備は…」
フォノスはクラスチェンジ時に強い武器を所持していた。フォノスのクラスとのシナジーも高いため、この装備を強化する方針が良いだろう
「フォノスの装備は元の装備を強化する方向で検討してください」
「うむ…あいわかった。しかし、魔石が使えぬとなると、素材そのものから作る杖はわしの専門外になる。そこの魔導士には、もっと魔導についての造詣が深い者に担当させたほうが良いじゃろう…」
カルミアの刀、フォノスの双剣、そして全員分の防具についてはガルダインで問題がないだろう。イミスは、ゴーレムクリエイトがあるからスカーレットを勝手に強化していくだろうし。…杖はまた分野が違うのか…
「アタシの杖…作れないノ?」
サリーは悲しげな目で訴えかけてくる。上目遣いをしても、無理なものは無理なんだ。可愛いけど。はぁ…そんな都合よく職人が見つかるわけないよなぁ…?
諦めかけたその時…!
「話は聞かせてもらったぁ!」
いつだったか。そこには、ドワーフの村でサリーの独特すぎる前衛的デザインの杖を制作した男がいた。頭はガッチリとモヒカンスタイルできめており、体の至る所に竜っぽいデザインの装飾をジャラジャラ身につけている。
「あ!アタシの杖作ってくれた人!どうしてここにいるノ?」
「どうしてってそりゃあ…」
モヒカン男は両腕を腰に当て、ふんぞり返る
「そこに竜があるからだ!」
…いや、そこに山がとかいうノリで言われても……
「俺は、本物のドラゴンが現れたと聞いて、一番高い馬を使ってまできたのだ!!」
さらに指を天に指す
サリーだけが、わーすごい!と大きな拍手でその登場を盛り上げる。モヒカン男本人の脳内では、拍手喝采されているに違いない。…しかし、見た目はアレだが、サリーの魔力に耐えられるだけの杖を作れる腕はあるだろう…。任せてみても、良い…のか?