152話
ギルドでの話し合いから数日後、ガルダインがウツセミに到着した。
「おぅ!嬢ちゃんたち。元気そうじゃな」
必需品はこちらで備えてはいるものの、ガルダインの背には、鍛冶師に必要だと思われる道具がギッチリ詰まった袋。そして、護身用なのか製作用なのかは分からないが、でかいハンマーを持っている。
「…ガルダイン、待ってたよ。愛刀が壊れた」
カルミアは悲しそうな表情で、持ち手だけになった残骸を手渡す。ガルダインは刀の持ち手を顔の上にかかげて、感心したように話す。
「ほお~…あの刀がこんな壊れ方をするとはな。正直驚いた。お主たち、一体何を狩ったんじゃ」
「…ドラゴンよ」
「ほっほう~、ドラゴンな!それであれば全壊も納得じゃ。ドラゴン…ドラゴン!?」
ドラゴンの骸は今だにギルドの前で、見世物のように配置されている。ガルダインが来るまでは、素材に手を出す訳にもいかず、どうしようもなかったので放置していた。バレリスも、もう隠せないと開き直り、それならいっそとギルドの権威をアピールするためにも倉庫などに入れずに外に置いておくよう指示しているようだ。
もちろん、見張りの冒険者も交代制で対応を続けている。もはや、ドラゴングッズなどを売り出す者が付近に現れる始末で、もはや観光スポット化しつつある気がする。しかし、あれは俺たちの武器や防具にする予定だ。鳴き声以外は使い道があると言われるドラゴンだから、余り物をギルドに納品しても、骨すら残らないだろう。
結構な時間が経過しているが、今だドラゴンは狩ったばかりの新鮮さを残している。魔力が強すぎるためか、一切の劣化が起きないのだ。
ガルダインの疑いの目が強くなっているため、それなら見るが早いとドラゴンの前まで連れ出す
「こっこれは…!」
人をかき分けて、分解されたドラゴンの素材に近づくガルダイン。時代の変わり目、英雄の登場、歴史の変化の際に現れると言われる伝説の竜の骸が、これは現実ですよと言わんばかりに姿を晒す。ドワーフは、自身がよりよい武具を作ることを、己の格を上げることと同義としている。
国で囲い込むような重要素材をふんだんに使って、自分が武器防具を作れる。ガルダインは年甲斐も無く目を輝かせ、伝説に手を伸ばす
「あーちょっとちょっと、困りますよー!今日で何件目だよったく」
「30~…から数えてないな。素材を勝手に触らないでねー!これはサトルさんたちのものですよ~」
ガルダインの行く手を冒険者が阻む。ドラゴンの素材が勝手に持ち去られないように守ってくれているんだろう。
俺は一人で走っていったガルダインに追いつき、見張りに事情を説明する
「ご苦労さまです。この方が俺たちの専属鍛冶師です」
見張りは俺の姿を見ると、姿勢を正してガルダインを通してくれた。ガルダインは、10年ぶりに親しい方と再開を果たした者のような勢いで素材へ向かって行った。
「サトルさん!?お疲れ様です。それでは、あの…ドワーフの方が?」
「えぇ、ガルダインさんです。カルミアさんの刀も彼が作ったんですよ」
紹介されたガルダインは、俺たちのやり取りは眼中になく、素材に頬ずりしているところだ。う~ん、腕は良いのだがな…。
…あれ?そういえばサリーがいないな。
サリーを探すと、人混みに紛れて露店を覗いている。
「安いよ安いよ~!可愛い魔法使い風のお嬢さん、ドラゴンのぬいぐるみはいらんかね?10階層踏破記念で、今だけ安いよ~」
…また怪しい商人に捕まっているし。
「エ~!どうしようかナ…これなんかとっても可愛いけド」
サリーは、ドラゴンのぬいぐるみを手に取るが、ドラゴンは急ごしらえで作られたためか、お世辞にも可愛いとは言い難い。目なんか片方違う方向を向いていて、若干飛び出している。足と手をつけ間違えたのか、逆についているのが色々と致命的だった。…サリーのセンスはどうなっているんだ。
「可愛いでしょう!今なら金貨5枚でいいよ!ついでに息を吹きかけると竜の顔が飛び出る魔道具もプレゼントしちゃうよ。先着5名だよ」
商人は魔道具を取り出し、息を吹きかける。するとマヌケな顔のドラゴンのような何かが飛び出し、申し訳程度のビープ音が鳴った。
「す、スゴイ!」
いやすごくねーよ!?魔道具とか言ってるけど、ただ音が鳴るだけのオモチャじゃねぇか!しかも金貨5枚って高いよ…どうしてその値段で売れると思ったんだよ。ぬいぐるみに至っては売る気ないだろ
サリーは金貨を取り出してニコニコ顔で購入していた
…やっぱり買うのかよ。