151話
イエローアイの全面的な協力により、ドラゴンを分割しつつ地上まで持っていくことができた。もちろん、ギルド入り口から、そのような魔物が出てくるのだから、噂が噂を呼び、一目ドラゴンを見ようといった人たちがごった返し、都市規模でちょっとしたお祭り騒ぎに。
今はギルドの外に、見張りの冒険者を数名つけてもらい、バラバラに分解したドラゴンの死骸を置いてある。後ほど武器や防具にする素材を検分して貰う予定だ。
見張りの冒険者は皆、いっぱしの者だが、住民や事情を知らぬ者から、あれだこれだと質疑を畳み掛けられ、対応に追われている。
もちろん、一連の騒ぎのトリガーであった俺たちは、イエローアイを含めてギルドマスターから事情聴取されることになったのだが、こうして執務室にお邪魔している間も、噂を聞きつけた野次馬たちの賑わい溢れる声が外から聴こえてくるのが分かる。…これは、やっちまったな!
「まさか…ドラゴンがスタンピードを誘発していたとは。それだけじゃないぞ…サトル君。きみは自分がしでかしたことを、分かっておいででしょうね?」
スタンピードの依頼をした張本人のギルドマスター、バレリスの目は…若干座っている。
「…い、いやぁ…ど、どうでしょうね?」
俺は頭をかいて明後日の方向を向いて見るものの、現実という事実からは目を背けることはできない
バレリスは眉間にシワを寄せて、片手で眉をなでる…だいぶ参っているようだ
「はぁ…わしの気疲れが上限突破しそうだ…。シールドウェストのアイリスめは、一体どんな虎の子を寄越したというのか…。やつのニヤつきが頭をかすめるわい…。サトル君、きみたちがしたことは間違いなく偉業だ。若く小さいとはいえ…真なるドラゴンであることに変わりはない。手に負えない個体が出た場合、本来であれば、各領地や王都から兵や、凄腕の冒険者を何人も派遣し、討伐するのが慣例というもの。見つけた段階で、報告に帰ってきても良かったのだよ」
「えぇ、まぁそうですよね。ははは、えっと…色々とトラブルがあって抜け出せなかったというか」
「そうです!サトルの兄貴を悪く言わねぇでくれってなぁ!俺たちを守ってくれたんだ!」
オーパス…援護射撃は嬉しいが、俺はいつからお前の兄貴になったんだ。
「……人の声にシールドはたてられない。この噂は都市から都市へ…そして、王都まで一直線だろう。ある程度の事態は覚悟しておくように。わしがお前たちを匿うことができる範囲にも限界があるでな…あぁ、依頼の報酬だが…控えめにも都市のスタンピードを事前に抑えた功績は大きいと判断する。金貨もそうじゃが、他に欲しいものは?」
若干投げやり気味になったバレリス。今後の事後処理や王都からの調査依頼、ドラゴンの素材についてなど、考えるだけで大変そうだ。しかし、俺たちは命を張って都市を救ったのだから、これくらいは我慢してもらいたいものである。やり方は色々あっただろうが…そう開き直るしかない。
「はは…申し訳ない。ゴホン…実は、俺たちはもっと強くなるために、強い魔物からとれる素材で武器を作れないかと思い、ダンジョンアタックをしています。ですが、この都市では鍛冶師の数が需要に対して少なすぎて、素材があっても予約が取れません。さらに、希少な素材で武器を打ってくれる鍛冶師は、輪を掛けて少ない。結果、なかなか希望通りに武器や防具を作ってもらえないことがわかりました」
「ふむ、それで?」
「この街で、一流の鍛冶師が十分な仕事をこなせるスペースが欲しいのです」
「ほう…スペースだけでよいのですかな?てっきり、鍛冶師の用意までと思っておったが…」
「そちらは問題ありませんよ。俺たちはシールドウェストではBランクの冒険者です。ガルダイン・アイアンフォージというドワーフの男が、俺たちの武器や防具を作ってくれる専属となっています。連絡用の鳥を飛ばしてあるので、こちらに到着するでしょう」
「貴重なドワーフ…しかもアイアンフォージの者を…。やつはそこまでしてガッチリ囲い込むつもりか……」
バレリスはブツブツと呟き始める
「えっと、何か?」
「あぁ、いや。何でも無いんじゃ…。では、ドワーフが使える特別な炉を備えた設備を用意させよう。無論、君たちしか使えないように手配するから安心してくれ。ドラゴンの素材で、余ったものがあれば『我ら』のギルドが、どこよりも高く買い取ろう。ふはは、アイリスめ。これでおあいこじゃ」
我らと強調しつつも、笑顔で手を差し出してくる。もしかして、シールドウェストの領主、アイリスとウツセミのギルドマスターのバレリスは、犬猿の仲なのかもしれない。
「えぇ、よろしくお願いします」
俺はガッチリと握手を交わしてギルドを出る。ドラゴンの素材で何を創ろうか!