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150話


 灰の世界は崩れ去り、光の奔流はオーパスへと流れ込む


 攻撃が通らないこと、目の前で起きたことに注目してしまい、誰もが動けずにいた


 その静寂は、オーパスの身に包まれた光が弾け飛ぶと、彼自身の口によって破られる


 「待たせたなってなぁ!作戦変更だぁ!」


 彼の顔つきは、先程とは別人なほど活発なものになり、手には見覚えのない笛が握られている。赤い紐のような装飾のついた笛は、見ているだけで不思議と勇気がわいてくるようだ。


 「ふ、ふん。その笛ひとつ増えたからって何だ!ウヒョ!シュッシュッシュ!」


 タルッコは動揺し、悪い癖のシャドーボクシングを披露する。彼がアレをやっているときはだいぶピンチな時なのだ。


 近くで剣を構えて警戒していたサザンカは、覚醒したオーパスに斬りかかる


 「ふん、サトルの力はたしかに驚異だが、お前が持っている笛で何ができる!その力はハズレだろう!見るからに戦えない力だ!」


 サザンカは剣を振り下ろし悪態をつくが、オーパスは冷静にこれを剣で受け流した。まるで歴戦の戦士のように、軽々と剣の向かう先を逸らすと、バックステップで距離を取った。


 「何ができるかってなぁ?そんなに知りたきゃ、その体で実感してみたらいい。俺はサトルを目指す。そのためにこの力を使うまで!」


 オーパスは剣をしまい、笛を口元に近づけてゆっくりとした動作でひとつの音を奏でる


 その音は、心から勇気がわきでてくるような不思議な音色


 そうか、これが勇気の学派の[戦音降ろし]!この学派でのみ使える音の魔導。効果は音が聞こえる範囲の味方全員に対し、攻撃能力と防御力を上げる効果を持っている。上昇量は、全クラスでもトップレベルで、一般人が中堅の冒険者に匹敵するほどの力を身につけるという。ただし、自身にその効果は乗らない。


 まるで質量を持ったかのような響きは、胸に直接響いて身体が軽くなった


 イエローアイのメンバー全員の目つきが変わった。


 「全員!攻撃開始ってなぁ!」


 「おう!」「おうさ!」「ううう!」


 弓矢をつがえた幾人かが矢を放つ。その矢の性質は全く異なっていた。


 上空からポタポタと落ちる矢ではなく、真っ直ぐに風を斬りながらサザンカへ迫る


 「なんだと!?」


 サザンカは矢を弾くが、一発弾くだけで剣が震えるほどの威力だ。何発も受けていては剣が持たなくなるだろう


 「ッチィ!?」


 一発を弾き、迫るニ発は全力で回避する


 反撃の機会を与えず、槍を持ち直したイエローアイの前衛が、間合いを数秒で縮めて鋭い突きを、数人で順序よく畳み掛けるように仕掛ける


 肩をかすってサザンカは出血するが、これもヘイストのお陰で致命傷を避ける


 更に数人がスローイングダガーで合間から追い打ちをかけた。


 怒涛の攻撃に違和感を感じたサザンカは、攻撃をやめて全力回避にシフトする。致命傷のみを避け、体に生傷を作り続ける


 強い…かなり強いぞ。オーパスが攻撃に参加できないデメリットを打ち消すほどに、バードの『全体に与える効果』はとてつもなく大きい。彼が演奏を続ける限り、バフは効力を発揮する。邪魔をしようにも接近ができないだろう。できたとしてもファイターの恩恵を受けるオーパスが、簡単にやられたりはしない。近づいても無駄、遠くてもジリ貧。彼は凶悪なマルチクラスになった!


 サザンカに有効打は与えられていないが、それは彼女が致命傷を全力で避けているだけであって、イエローアイが優勢なのは明らか。状況と立場は逆転。


イエローアイの全員が、オーパスの音によって、数段階も強化されているのだ。一人ひとりはサザンカに少し劣るかもしれないが、一度に相手をするとなると話は変わる。数の有利が顕著に出る結果となった。


 …相変わらず、特別なクラスチェンジは恐ろしい力だ。たった一人、ただひとつ変えるだけでこうなのだ。NPC枠を使ったとはいえ、間違いなく、オーパスはクラスを得て多大な恩恵を受けているように見える。


 サザンカは一旦、タルッコが居る位置まで下がると横目で救援を求めた


 「ハァ…ハァ…おい、小人!いつまで遊んでいる!私ひとりでは抑えきれない!どうにかしろ!!」


 サザンカの顔に余裕はない。肩を手で抑えて、激しく体で息をしている


 「ウヒョ!?いつのまに負けているのです!?仕方がない…こうなったら!」


 タルッコは懐からビンのような入れ物を取り出す。強烈な刺激臭が漏れ出ている


 「ぐ…小人、お前はそれ、もう一個持っていたのか!」


 「ウヒョヒョヒョ!善人は100%の要心。悪人は200%の要心。おわかりですかな?万一の事や、不測の事が起こらないように、備える。そして!そうなっても慌ててはいけないのですぞ!!」


 先程、一心不乱にシャドーボクシングしていた者とは思えない口ぶりで饒舌をサザンカに叩き込み、タルッコはビンを天に掲げる。


 「おおお!それを投げて、魔物をやつらにぶつけるのか!さすがだな、早くしろ!小人野郎!」


 サザンカは両手で握りこぶしをつくって胸の上に持っていき、期待の眼差しポーズをタルッコに向けた。ポーズは乙女だが、口が悪すぎて色々と台無しである。


 しかし、タルッコの思い通りにはことは運ばない


 「今だ!ビンを射れってなぁ!!」


 イエローアイの弓取が、タルッコが大げさに天へと掲げたビンに向けて矢を放った。


 距離からして点の様なマトだが、強化された彼らなら命中も容易いだろう


 耳に響くような高い風切り音を伴って、矢はタルッコが持つビンをみごと貫通!


 タルッコはビンに入った液をシャワーのように頭から被った


 「ブヒョオオオ~!?」


 あまりの臭さ故か、タルッコは近くにいたサザンカの衣服に顔をこすりつけて液を拭い取る


 「うわ!くさいぞ小人!近づくな!というか私の服で拭くな!!」


 一息つく間もなく、ダンジョンの下階層からドドドという地鳴りが…


 「ウヒョヒョヒョ…まずい予感」「お、おい小人。これって」


 タルッコの予感は的中した。数匹のレッサードラゴンが、俺たちに目もくれずにタルッコとサザンカへ突進してきたのだ!


 「やっぱりこうなった~!!!」「ウヒョ~~~!!」


 間抜けすぎるニ名と、それを追いかけるレッサードラゴンの群れは、俺たちの横を抜けて、ダンジョンの下階層へと走り去っていった。


 要心200%というよりは、アホ200%なタルッコたちだったが、俺たちは今度こそ乗り切ったのだ!



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