149話
「この光は、いったい…」
オーパスは自身の手を見つめて、溢れる光に目を丸くした。自分の体が突然光りだしたらそりゃあビックリするだろうな。しかし、次第に状況を飲み込んだのか、俺を見て強く頷いた。彼は、本能的に何かが変わるのを理解したのだ。
状況がサトル側に好転したのは一目瞭然だ。タルッコは焦り、サザンカに命令する
「ウヒョ~!?こ、これはいつものやつ!まずい、まずいですぞ~!サザンカさん、とめなさい!とめるのです!」
「あれが、我が欲してる力か!?…どれ、試してみようか!」
サザンカは躊躇することなく、魔法剣でオーパスを斬りつける。しかし、謎の光が剣を阻み全く攻撃を受け付けない。
「っな…!?我が攻撃が、全く効か――」
サザンカの言葉を最後に時間が停止し、全てが灰の世界と変化する。これは、特別なクラスチェンジの時だけ発生する現象で間違いない。
*対象 オーパスのクラスチェンジを実行*
*一定条件を満たしています。ただし、キャラクターシート記載限界を超過のため最適化不可。通常のクラスチェンジに移行しますか*
灰の世界が崩れかける
「なんだって!?…ちょ、ちょっと待ってくれ」
…どういうことだ?特別なクラスチェンジができない?
オーパスのクラスチェンジは、今までと同じようにはいかないみたいだ。
情報を整理すると、キャラクターシートというものが足りていないのだろう。これはTRPにおいて、自身のキャラクターを作成する際に、ステータスを始めとした様々な情報を記載するシートだ。
元々、ルールブックについているキャラクターシートは、オマケとして存在するもので、そのまま使う人は少ない。本来はそれを原本とし、コピーして使用してもらうよう想定されている。原本さえあれば、幾らでもキャラクターシートは作れるからだ。
スターフィールドのルールブックもその例に漏れず、最初の数回はキャラクターを自由に作れるよう、最後のページに数枚、専用のキャラクターシートが親切心故の付録としてついている。
それをコピーして使用し、納得できるまで試行錯誤し、あなただけのオリジナルキャラクターを作り、楽しくも未知に溢れる冒険の旅に出てみよう!といった趣旨なのだろうが、この世界にコピー機なんてものがある訳もなく、あったとしても、こんなブラックボックスの塊のような魔本に作用するのか怪しいものである。
俺が持っているこの本にもキャラクターシートが幾つかあった。ということは…
キャラクターシートの記載限界を超過と言っていたよな…
ルールブックの最後のページにあるキャラクターシート一覧を見ると、たしかに、全てのシートを使い切ってしまっていた。
シートには、これに今まで仲間となったカルミアたちのステータス情報等が詳細に記されている。現時点ではその全てを専有してしまっている。今の俺では、この人数分の枚数が限界なのだろう。レベルが上がればシートが増える可能性も考えられるが、今はどうしようもない。
ここにきて、この本がもたらすチカラが無尽蔵ではなく、制限があるものだと気がついた。
『特別なクラス』にするためには、専用のキャラシートに空きが必要なのだ。
…いや、それでも……。きっかけは何でもいい、関わった以上は救ってあげたい。傲慢であっても、甘々な考えであっても、俺は自分にできることをやりたいんだ。どうにかならないか?
本に強く願うと、ブランクページの一部が輝き、1ページ内で幾つものキャラを作れるシートが浮かび上がった。
これは…これは、NPCを設定するための簡易的なキャラクターシートだ。これを使うのか?
本来は、物語に登場するお助けキャラや敵対キャラなどのステータスやクラス、特徴などを書いておくものだが……
…そうか!そこにオーパスの情報を書いて、クラスを書き込めば良いのだ。専用のシートではないから、簡易的な分、今までのようにはいかないかもしれないが、普通のクラスチェンジよりはずっと強力なハズだ。
俺は恐る恐る、NPC設定用の項目にオーパスの名を書き記す
頼む、上手くいってくれ…
*パーティーの恩恵不可。スタンドアロン化を実行しクラスチェンジを続行*
*スタンドアロン化完了 サトル派閥として承認 ただし、編成パーティーからは除外されています*
灰の世界の崩壊が止まった…上手くいった…か?
しばらく待っても灰の世界のままだ。どうやら、これでどうにかなったようだ。
よし…これで、彼はクラスチェンジできるぞ!
デメリットもあるようだが、こればかりは仕方がない。切り替えていこう
次は彼が成り得る可能性の全て…クラスの一覧を見るんだ。
*オーパスがチェンジ可能なクラスは下記の通りです*
*
ファイター
トレジャー ハンター
バード→全学派可能
ブローラー
バトル・マスター
スカウト
スワッシュバックラー
*
オーパスは全体からして、前衛かスカウト系に才能がある。ただ、俺が最も注目したのはバードの全学派に派生可能と書かれた項目だ
バードは、チャンターとよく似ている。どちらも『音』を主軸に戦うクラスだ。チャンターは声に、そしてバードは楽器に、それぞれ魔力を込めて事象改変を引き起こす。
チャンターと違い、バードは楽器を使うため武器が使えないデメリットが目立つが、それを補って余りある強力なバフを味方全体に付与できるのだ。
学派とは、バードが奏でる曲の考え方や捉え方によって変化し、演奏される曲も学派によって全く異なったものになる。
攻撃的な学派もあれば、回復が得意な学派もある。一括りにバードといっても、音に対しての捉え方はまるで違うのだ。
全ての学派にチェンジ可能とは、バードにおいては無類の才を持つことを意味する。
まさかオーパスが、実は楽器が得意だったとはな…
バードはクラスの特徴上、俺と同じく、パーティーにおいては指揮命令を行う者が多い。意外といえば意外だが、イエローアイを今後も引っ張っていく彼にはピッタリだろう。
そして、彼自身が前に出ても、メンバーの皆が心配しないように、前衛もできるクラスを選ぼう
「よし、決めたよ。オーパスさん、貴方は今日から本当の、イエローアイのリーダーだ」
俺は黄金のペンを手に取り、オーパスの名を書いたキャラクターシートへクラスを書き込んだ
*オーパスのメインクラスは『バード/勇気の学派』となりました*
*サブクラスに『ファイター』が選択されました*
*クラスが統合され『ブレイブバード』に名称が変更されました*
*特典として、勇気の笛が付与されます*
*クラスチェンジ 完了*
「…さぁ、君の可能性を魅せてくれ!!」
灰の世界が崩壊し、可能性の輝きが満ち溢れる