１４７話
喉はカラカラ、体もボロボロ…カルミアの刀なんか持ち手以外全壊している。でも、俺たちはドラゴンを倒すことに成功した。
全員、おおきな怪我をすることもなく、レベルも上がった！これ以上無い成果だと言える
レベルアップの成果を軽く見る限り、相変わらず全員が化け物じみた成長をしている。注目すべきはカルミアの新技と、サリーの進化した魔法。そして俺は…なぜだろう。人間を辞めたような技能を獲得していた！…なんかちょっと嫌だな。ブレスってやっぱり口からだろうか？あんなもの顔から出したら、俺の顔が先に吹き飛んで無くなる自信があるぞ。取り扱いと実験は改めて、慎重に行わなくてはならない。
それにしても…なんだってこんなに一箇所にまとまって強い魔物がいたのだろうか…。今回はどうにかなったが、意図的に引き起こされた事態だと思ったほうが、ずっと納得できる程の危険なエンカウントだった。…しかも、この空間は何だかニンニク臭い。
「しかし…お前らがこんなに強えとはな、命まで助けてもらった。感謝するってなぁ！」
イエローアイのオーパスが手を差し伸べてくるので、それに応える。
「お前らすげええよ！」「俺の目標ができた」「かっこいい！」「おおおん！」
オーパスに付き従う面々は、無事に生き残れたという安堵と、俺たちがドラゴンと戦う姿を間近で見ていたこともあってか、言葉にならない声をあげながら、俺たちをそれぞれ称えてくれる。
オーパスは確信したように、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「…俺は、ちぃっとばかし勘違いしていたかもしれねぇ。上には上がいる。見上げ始めたらそれこそ、キリがねぇ。今、目の前で偉業を成し遂げる猛者もいれば、そうじゃねぇ奴もいる。人の命かけて、ココの英雄を気取ってはいたが、実際には、俺たちゃ、ただの向こう見ずだったてなぁ。…今回、サトルたちがいなかったら、間違いなく全員死んでいた。何を成し遂げることもなくな。…悔しいが、それが現実だ」
「…オーパスさん」
「勘違いすんじゃねえぞ。俺は強くなることを諦めた訳じゃねぇ…。ただ、命をかけることと、命を捨てることを間違えないようにするってことに気がついただけだ」
「リーダー！俺たちゃ命を捨ててでも、あんたについていくって決めているんだ！」
「そうだそうだ！そんなこと言わないでくれ！」
イエローアイのメンバーは、あたふたするが、オーパスはそれを手で静止する
「だからこそ！ってなぁ…。まぁ聞けや、俺は目の前にいる男を目標にする。そう決めたんだ。それが、最も強くなる近道になるって思ってんだ。竜を殺しえる強さを持つ男だ。ただ、それは一人で成し遂げたものじゃねぇ…そうだろう？」
オーパスはサトルを見据える
「その通りです。俺は、カルミアさん、サリーさん、イミスさんと、そのゴーレムであるスカーレットさん。ここにはいないけど、フォノス。みんなのおかげでここに立っています」
「…カルロが死んだとき、俺は何もできなかった。ただお前らを道具のように使っただけで…。そうして最期に俺だけが立っていて、俺はお前らにとって誇れる人間であれるか？サトルのように強くいられるのか？一緒に笑って酒場で馬鹿できるお前らがいなきゃ、意味がない！死の淵に立たされて、初めて気がついた。俺がブレスを受けそうになる寸前に、考えたのはお前らの顔だった」
「リーダー…」「おやぶん…！」「おおおん！」
「だから、もう名誉とかいう目に見えないナニカとお友達ごっこ遊びするのは辞めにする。俺の相棒は名誉じゃねぇ。お前らだ。お前らと成し遂げることに意味がある。どんな小さなことでもだ。だからもう、犠牲ありきの強さなんて求めねぇ。それがお前の強さなんだろう？サトル……」
オーパスの目に、もはや迷いなどは無かった。その時―
「ウヒョヒョヒョ！！ずいぶんと感動的なお話ですねぇ！涙がちょちょぎれます！」
どこからともなく声が…
「誰だ！？」
ドラゴンの骸の上がステージのようにスポットライトされる！
聞き覚えのあるノームの声がする
「奇策縦横 悪の頭脳 小さな体！」
どこからともなく現れたノームは、謎のスポットライト（魔法？）を一身に受けて両手を広げてポーズした
「一力当先 荒野に咲く 銀色の一輪花！」
銀髪きらめく見目麗しき女性が付き従うように、ノームの後ろで腕を組んだ。…カルミアの姉だよな？…カルミアは全力で他人のフリしているけど
小さなノームは構わず、人差し指を天へ突き出し、決めポーズ
「弱きを助け、強きを全力で邪魔する！」
何度も練習したのだろうか…最後は一緒に決め台詞
「呼ばれて参上 呼ばれなくても参上 タルッコ団！」
スポットライトのような魔法が無くなり、場に静寂が包まれた…
…これは何か言わないとダメなやつなのだろうか。いや、無視しよう
「よし、みんな！ドラゴンの解体を手伝ってくれ。今日は撤収だ」
「おう！おめぇら！命を救ってくれた恩人に報いるぞってなぁ！！」
「おう！」「おうさ！」
小さなノーム…もとい、タルッコは魔法の杖を俺へと向けて[ファイア・ボール]をうちだす
「あぶねぇ！！」
オーパスは俺をかばって飛び出し、どうにか二人共無事だ
「なにすんだ！あぶねぇだろう！」
「ウヒョヒョヒョ…！どうやら、君たちは自身が置かれた立場をわかっていない様子。激しい戦いで弱りきったサトルめたち、使い物にならないイエローアイの諸君。分かりやすく伝えましょう！今すぐドラゴンの素材と、サトルめが持っている本をよこしなさい！ウヒョヒョヒョ～！！」
「はっはっは！我が妹よ！悪く思うなよ！私は負けっぱなしは嫌なのだ！たとえ卑怯な手を使ってもな！」
カルミアは額にムカつくマークが出ているんじゃないか…というくらい不機嫌になった
「…うざ」
だが、これは予想外にピンチかもしれない。タルッコの奴が言う通り、俺たちは疲弊しきっている。カルミアの武器は潰れて、サリーの魔法も連発しすぎてこれ以上は難しいだろう。イミスの武器であるスカーレットは熱ダメージを受けている。大破されると彼女が悲しむ…どうすれば
その時、オーパスが俺の肩を叩く
「…ここは、まかせてくれねぇか」
