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146話


 タルッコがポーチから取り出したのは、黒ずくめの案内人が、先程使用した簡易転移石。そして、塗香入れのような容器だった。タルッコが容器のフタを開けると、スルメとニンニク、香辛料を合わせたような強烈な刺激臭が充満した。


 「石は分かるが…その怪しい道具は何だ?…ぐ、しかもこの強烈な臭いは…?」


 サザンカは容器を奪い取り、持ち上げて眉をしかめる。かなり疑っているようだ。


 「よ~くぞ聞いてくれました!これは、魔物が好きな匂いをブレンドした、わたくしめオリジナル魔道具でございます…ウヒョヒョ~!」


 「魔物が好きな匂いだと~!?そんなもので一体どうする?」


 取り上げた容器をタルッコに返す。タルッコはそれを恭しく受け取り、フタをきつく締めて、ポーチにしまい直す。


 「サトルめは、必ずこの先の踏破を目指す。だからこの扉の先に、この道具を置いて放置!魔物を匂いでおびき寄せ、住処として長く留まらせる。…ウヒョヒョ!するとどうなるでしょうか!?そう、時間が経つにつれ、魔物は増えていき…サトルめが扉を開ける頃には、大変なことになっているでしょうなぁ~!」


 「おお!さすがだな!ではさっそく行動を開始しよう!」


 「ウヒョ!ちょ、まっ」


 サザンカは良くも悪くも超行動的なタイプ。タルッコの静止も聞かず、後先を考えず重く頑丈な扉を力いっぱいに開ける


 もちろん、扉の先には階層主であるレッサードラゴン。眠っていたが、扉の音で起きてしまったようだ。今日の献立を見定めるように、タルッコとサザンカを睨みつける。


 「お!そうであった!強力な魔物がいるのであったな!はっはっは!」


 「クゥアアアアア!」


 レッサードラゴンは重い体を持ち上げて、今日の食事予定になる二人へ襲いかかってきた。サザンカは高い戦闘能力を持つが、レッサードラゴンと渡り合えるほどの、決め手となる攻撃がない。結果…逃げるしか無い


 「ウヒョ~~~~!?」


 「はっはっは!」


 「クァアアアアア!」


 階層主の部屋で急遽始まった、二人と一匹の命をかけた追いかけっこは、数時間続いた…


 数時間後…



 「ふう~…さすがにキツイぞ!はは!」


 「ウヒョ…ハァハァ、し、死ぬ。こんなに走ったのは生まれて初めて……」


 「ク、クアアアア…」


 しぶとく逃げ回る今日の献立…改め、タルッコとサザンカ。これにはレッサードラゴンも根負けして、これ以上追い回すかどうかを悩み始めたようだ。


 「ウヒョ…ウヒョ…追い回すのは、やめたようですね…。と、とりあえず…こ、この魔物寄せのお香をココに置いていきましょう」


 タルッコは震える手で、ポーチからお香を取り出す。汗をかいた手で取り出してしまったせいか、フタを少しだけ開けようとしたとき、手が滑ってしまった。


 「あ、まずいッヒョ~」


 手元から自由落下したお香が地面に落ちて、バリ~ンとガラス細工が割れるような甲高い音が響き渡る。


 お香から一気に刺激臭があたりに広がる。少しだけ開けてても、十分な効果を生み出すこの臭いは、一気に広がり、部屋のどこにいても…何ならダンジョン全てにニンニクのような臭いが!


 「うご…おい!小人!ぐざいぞ!どうにがじろ!」


 涙目になり、鼻をつまんだサザンカが顔の前で手を振るが、臭いが強すぎて全く消えない。


 その臭いを嗅いだレッサードラゴンの様子もおかしい。何だかソワソワして…


 「クォ!クォ!クォ~~!!」


 首を上に向けて、叫ぶレッサードラゴン。すると…遠くから地ならしが起こり、少しずつ、その音が近づいてくる


 「ウヒョ!?な、な、なんだ~!?」


 ドドドドとレッサードラゴンらしき群れが、襲いかかってきたのだ!


 「お、おい!小人!どうするんだこれ!」


 「し、知るか~~~!!ウヒョ~~~~!」


 タルッコとサザンカの逃走劇はこれからまた数十分続くことになる


 逃げ続けると、新しいレッサードラゴンが追い回す魔物たちに加わる


 そしてその様子を近くで目撃したレッサードラゴンがまた列に加わる


 負の無限ループに陥り、まるでタルッコとサザンカを主役としたフラッシュモブのように、レッサードラゴンが増え続け今日の献立予定を追い回す!まさにトレインだ。


 トレインとは、多くのゲームにおいて、大量のモンスターの敵意を集めて回り、連れまわす行為全般のことだが、狩りの名称としても使われる。トレインは本来であれば、範囲攻撃を持つ、強力なプレイヤーが、パーティーメンバーと協力しつつ、獲物を一手に引き受けることで、一匹ずつ倒すより、ずっと効率的に大量の経験値やドロップを入手するために使われるテクニックだ。魔物を引き連れている様子が、まるで列車のように見えるのも特徴だ。


だがこの行為は、様々な観点から他のプレイヤーの迷惑になる行為と見なされる。


 最も迷惑かつ代表的なのが、たくさんの魔物を引き連れて死んでしまったり、対処しきれずに、どこかに逃げてしまうケースだ。魔物の敵意は行き場を失い、近くにいる者を見境なく襲う。しかも、しばらくは群れでその場に留まってしまうから手がつけられない。


 そう、まさに今、タルッコとサザンカはそんなトレインを完成させてしまい、あまつさえ逃げの一手で状況を悪化させているのである


 「グオオオオオ!」


 「ウヒョ~~~~!?どんどん増えてやがる!」


 「逃げているんだから当たり前だろ~!!」


 「ウヒョ…はっはやく、石を!」「わかった!」


 サザンカは逃げながらも二人分の石を取り出し、タルッコに投げる。二人は石を使い、階層主の間から逃げることに成功した


 「グオオオオオ!」


 しかし…レッサードラゴンの群れは敵意を抑えきれず、扉の前で群れを形成し、次に開かれるまでその場に留まることを決めたようだ。


 そして、群れを統率するように、あのドラゴンが現れたのだ…


 タルッコとサザンカは、意図せずに最悪のモンスターハウスを作り上げた



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