145話
時は少しだけ遡る…
「おい、小人。ここに我が妹とサトルが現れるというのは本当か?」
ウツセミのダンジョン、9階層の奥地。身長差のあるデコボココンビと、黒ずくめの男が階層主前の扉に立っている。小人と呼ばれた小さなノームは、悪巧み全開の顔で歯を剥き出しにしている。そう、タルッコである。…今しがた、タルッコを小人呼ばわりしていたのは、カルミアの姉であるサザンカだ。
二人は目的が合致し、今は共に行動している。今回、サトルたちがダンジョン都市であるウツセミに向かうという情報を得て、一足先にウツセミまで移動し、引率の案内人を引き連れ、ダンジョンの奥地まで潜ったのだ。タルッコはサザンカの悪口を気にする様子もなく、9階層の最深部まで引率を引き受けた案内人と話を続ける。
「ウヒョヒョ…ここまでの案内、ごくろーさまです。ここが、最高の踏破階層…ですね?」
タルッコは黒ずくめの引率兼案内人にドッサリと金が入った袋を渡す。
黒ずくめの男は袋の中身をさっと確認すると、頷いて会話を返した。
「…あぁ、そうだ。この先に階層主がいる。レッサードラゴンという強敵だ。この都市で奴にかなう冒険者は今の所いない。だから、最大踏破階層もここまでだ。主を倒さずとも、奥地の探索はできるが…キケンなうえに、最近やばい魔物が住み着いたって噂がある。お前たちが何をするつもりか分からないが…十分に気をつけることだ…」
タルッコとサザンカは、当然ながらもダンジョン都市で一階層も突破できていない。しかし、他の者の手を借りれば、未踏破階層をすっ飛ばして、目的の階層まで移動すること自体は可能だ。
サトルたちは必ず未踏破の記録を塗り替える。であれば、タルッコたちとしては、できるだけ先回りして、サトルたちを妨害したり、戦闘不能にする方法を考えないといけないのだ。目指すは、サトルが持っている本を奪うことだ!
一つ問題があるとすれば、この引率でダンジョンを踏破する手法は、ギルドが推奨していない攻略方法であり、ギルドの許可なく踏破階層をスキップすることは容認されていない。見つかると、色々とまずいだろう。
そこでタルッコは、ズルがバレないように(サトルが受け取るはずだった)金を横領しまくり、額に物を言わせて、後ろ暗い者の手を借り、こうして現在の踏破最下層までやってきたのだ。
全身を黒ずくめの引率兼案内人は、タルッコから金を受け取り、アドバイスを伝えると小さな石を砕き、姿を消した。簡易転移石で帰還したのだろう。初心者向けダンジョンアタックセットのひとつで、値段は高いが安全に階層入り口まで戻ることができる。
これで、ここに残されたのはタルッコとサザンカのみ…
「おい、小人。さっきから聞いているのか?」
サザンカは少し苛立ったように、タルッコを見下ろした
「ウヒョ?ヤレヤレですね。コワコワなのは姉妹揃ってでしょうか?短気な所まで似ているなんて…勘弁してほしいものです!今からその仕込みをするというのに―」
タルッコは、大げさ身振りでわざとらしい仕草をつくり、サザンカを挑発する
「貴様…!こんのぉ…!」
サザンカはタルッコの頭を鷲掴みにして、持ち上げた
「ウヒョ~~~~!?や、やめろ!分かった。話すから!こんちくしょう!ゴッドブロー3秒前だぞ!」
「訳の分からないことばっかり言ってないで、私にも分かるように話せ」
鷲掴みにしたタルッコを乱暴に離した。タルッコは一回転して華麗な着地を決める
「…っふ!っと。全く、せっかちさんは困りものです。良いですか?我ら二人では、サトルめのパーティーに対して力不足です。ここまでは良いですね?」
「あぁ、悔しいがその通りだ…」
「そこで、いずれ彼らが挑むであろうボス!ここの階層主をできるだけ手強くして、サトルめを倒してもらう必要があるのです!」
「ほう…貴様!頭がいいな!」
「ウッヒョッヒョ~!褒めるのはまだ、はやいですぞ!レッサードラゴン一匹だけなど、奴らはすぐに攻略してしまうでしょうね!ですが、それが数匹、そして更に強い魔物までいればどうでしょうか!?」
「おおお~!サトルと我が妹は、予想外な数に押し負けるんだな!」
「そのとーりー!」
タルッコはサザンカとハイタッチする
「ウヒョヒョ…案内人の話では、スタンピードの原因となった強力な個体が、この階層をうろついているらしい…レッサードラゴンとそいつをぶつけてやれば……」
「でも、どうやってそんな状況を作り出す?私たちでそんなことができるのか?悔しいが、私一人ではレッサードラゴン相手ではジリ貧だぞ」
タルッコは、悪に染まった笑みを浮かべる
「ウヒョヒョヒョ…これを使うんだ」
ポーチの中から、2つの道具を取り出した…