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141話


 「ッチ!カルロはもう死んだ!そこに捨てておけ!トロールからは魔石を回収しろ。回収次第、10階層に向けて移動開始だ」


 オーパスは、トロールの死体を蹴飛ばしてやり場のない怒りをぶつける。


 「オーパスの兄貴!重症者はどうされるんで!?」


 「…使えねぇなら転移させてギルドに返しておけ、まだここは入り口だからな、問題ねぇだろう」


 「承知しやした…」


 イエローアイのメンバー数名は、重症者を石碑の前まで運び、転移。しばらくして戻ってきた。重症者を運んだメンバーの表情は重いが、それでもオーパスについていくことを諦めてはいないようだ。


 まるで人が消耗品のように削れる戦い方は、お世辞にも良い戦い方とは思えないが…


 「オーパスさん、その戦い方はあんまりです。人がいくら集まっても、これでは損失が大きすぎる」


 「うるせええ!!」


 オーパスは俺に振り向き、喚き散らす。カルミアが間に出て、オーパスを睨みつけた


 カルミアの尋常ではない雰囲気を、本能で感じ取ったのか、オーパスは黙り込むが、悪態をつきながら地面の石っころに八つ当たり。


 「それでも、俺たちはこの町の英雄なんだよ。こうやって体張って、皆で食ってんだ。よそ者が口出ししてんじゃねぇ…。それに、スタンピードの兆しもある。こんなところで立ち止まっていられるかよ」


 「…」


 「…サトル、あの人たちは覚悟の上よ」


 「わかっているよ…」


 分かってはいるが、オーパスの考え方にはモヤモヤするものがあった。俺たちが前に出れば損害は抑えられるかもしれない。しかし、仮に問題を解決しても、いつまでもイエローアイのために付きっきりというのは現実的じゃない。俺たちは保護者ではないのだ。オーパス自身が無理のない階層で、しっかりと計画を立てた戦法を取れば、犠牲を生むこともないだろう。


 「オーパスさん。俺たちはこの階層に上がってきた、イレギュラーな魔物の掃討にあたります。なので、貴方は無理をせず、10階層までの案内をお願いしたいのです。そして、できることなら戦闘は支援に徹していただきたい」


 「な…なんだと!」


 オーパスは性懲りもなく、また俺に立ち向かおうとするが、カルミアの睨みに阻止される。握りこぶしをおろして、わなわな怒りで震えるに留める。


 「ッチ!そこまで言うならわかった。でもまだ、納得してねぇ。俺たち全員に、強さを示してみろ。圧倒的な強さをな。納得できたらお前の話ものんでやる。そこまで偉そうに言うなら、損害なく相手に勝てるんだろう?いいよな!それじゃあやってみろ!」


 オーパスの怒り顔は俺から離さず、後方に指を指した


 オーパスが指さす先には、トロール。先程より少し大きい個体だ。戦闘の騒ぎにつられてやってきたのかもしれない。警戒しながらこちらの様子を遠方から見つめている。


 「カルミアさん、いけるかい?」


 「ええ、私はサトルの剣だから」


 トロールは、魔石を取り出された仲間の死体を発見すると、怒りを剥き出しにして、こちらに襲いかかってくる。


 「ブモオオオオオ!!」


 「来た!」


 イエローアイのメンバーは、皆腰が引けてしまって、トロールから距離を取る者が殆どだ。先程、仲間の死を目撃したばかりなのだ。今度は自分が死ぬかもしれないと思うことに、何の不思議もない。


 自然と、カルミアがトロールに最も近い位置に立つことになる。カルミアは迎え撃つように、更に前に出る


 「はぁぁぁぁ!」


 刀を抜き、先端を相手に向けた状態で[電光石火の構え]をとった


 カルミアの体に紫電が走る。鋭い目にはトロールを捉え、決して離さない。一歩踏み込むだけで地面が陥没し、音を置き去りにする雷光の如く、刀を抜き去った


 「っはぁ!」


 瞬きの間でトロールまで距離を詰め、一撃必殺の攻撃を決める


 トロールは怒りの表情のまま、カルミアと交差し、一太刀入れられたタイミングで、襲いかかるポーズのまま動かなくなった。トロールの怒りは困惑に変化し、自分の体が既に斬られた後であった事を知ると、何もできず倒れる。その衝撃で血飛沫が辺りに飛散した。


 血飛沫があがって、トロールが死んだことを認めたオーパスとイエローアイの面々は、空いた口が塞がらない。


 今までは自分たちが戦場の最前列で戦う英雄だった


 傷つきながらも、犠牲者を出しながらも、それでも勝利をもぎ取ってみせる。それが、イエローアイにとっては何よりの自信につながっていた


 それがどうだ?今目の前では、ただのゴブリンを殺すことと何ら変わらないように、9階層のトロールを屠ってみせた…それも、たったの一人で


 「そんな…そんな!俺達は、俺様は…こんな、これはなにかの間違いだ。ははは…嘘なんだ。こんなの、人間じゃねえ。人間にできて、たまるかよ」


 オーパスには気の毒だが、これで、彼の独断専行による無駄な犠牲を出さずに済む。


 「オーパスさん、もう一度言います。俺たちはスタンピードの兆しを調査し、可能であれば未然にそれを防がねばなりません。実力は、今ので分かっていただけたかと思います。カルミアさんだけではなく、俺のパーティー全員が、それに匹敵する力を持っています。どれほどの猶予があるのかもわかりません。一緒に協力して進みましょう。そうすれば、お互いにとって、良い結果となるはずです」


 オーパスは、虚空を見つめ続け、がっくりと項垂れた



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