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140話


 イエローアイの皆と9階層へ転移した。…というより、無視されそうになったので、転移する際に利用する部屋へ、ねじ込むように入り込んだだけだが。30人の規模を一度に転移させることはできないので、何度かに分けて転移していて、最後の組が部屋に入ったタイミングで、俺たちも一緒に入ったのだ。


 この階層は2階層とは打って変わって、ダンジョンエリアは遺跡がベースとなっているようだ。遺跡は風化が進んでいて、倒壊した建物の残骸、中途半端に折れた柱などが至る所に散乱していた。原型をギリギリに留めた石畳が足元に敷き詰められていて、足場が悪い。全体的に鬱蒼とした緑のコケに侵食されつつも、何とか遺跡らしさを残している。


ダンジョン内では数多くの戦いがあったのだろうか、錆びた武器や防具も落ちているのが分かる。


 到着時に入り口の石碑に触れておくことも忘れない。これをやっておけば、次から9階層まで一飛びだ。石碑には1階層、2階層に続き、9階層の表示が追加されている。踏破階層が一気に飛んだとしても、未踏破でスキップした3~8階層に行けるという訳ではないようだ。転移先は、あくまで自分がその地に到達したかどうかで判断されているのかもしれない。


 「よ~し、お前らぁ!いつも通りやるぞってなぁ!」


 オーパスが気合の入った声をあげると、他の面々も野太い声で返事をして、オーパスに追従する形で隊列を整えた。…まさかとは思っていたが、30人で探索するつもりのようだ。


 普通、パーティーは4~6人くらいの構成で分割し、戦ったほうが効率が良い。これは咄嗟のトラブル時もリーダーが指示を出して、体制をたて直すことが容易な人数のボーダーラインでもある。これを超える場合、一気に統制が難しくなる。そのため、大人数で動く場合も4~6人ごとにリーダーを立てて連携するのが望ましいが、イエローアイはオーパスをリーダーとした30人編成。指揮を取るのもオーパスだけだ。…これで大丈夫なのだろうか?まぁ、数は力ではあるのだが…。


 「オーパスさん、こんな編成でいつも戦っているんですか?撤退や咄嗟のトラブルで身動きが取れなくなるのでは?」


 「ッチ!勝手についてきたうえに、このオーパス様のやり方にケチつけようってのか?」


 オーパスは地面に唾を吐き捨て、俺を睨みつける


 「ちょっとやそっとの犠牲なんてなぁ!承知の上なんだよ!それはこいつら全員理解している。お前は黙って俺様たちがスタンピードの兆しとやらを解決するのを見ていればいいってなぁ…丁度良いのがおでましだ」


 オーパスの目線の先には、一匹の魔物。さすが9階層ともなると、魔物の質が高い…今回の相手はトロールだ。トロールは平均身長が2メートルを超える大型の人形魔物で、生息地方によってその姿かたちは大きく変化する。基本的には手足を使ってゴリラのように移動するが、知性が高いトロールは、ヒューマン同様に二足歩行し、武器を使い、共通語も扱える。種族の特徴として、強い膂力、恐るべき再生能力、環境適応能力がある強敵だ。ただし、弱点もあって、火を受けた場所は再生しない点と、酸に対する耐性がない。例外はあるが、概ねどの環境で育っても、これは変わらないトロールの弱点となる。


ここのトロールは至ってシンプルなゴリラ型だな。武器も使ってこない。しかし、一度掴まれたら、怪我では済まないだろう。


 「オーパスの兄貴!トロールです!」


 「あぁ、わかってるってなぁ!ここの魔物共は群れないが、一匹一匹が強敵だぁ!お前ら、気合入れろ!いつもの松明ぅ!ぶつかってこいやー!」


 オーパスが合図すると、松明だけを持った軽装のチームがトロールに向けて特攻する。


 数人はトロールが払った手にぶつかってしまい、一撃で戦闘不能に陥ってしまう。しかし、運良くトロールの攻撃を回避できた何人かが、相手へ接近することに成功。トロールめがけて油の入ったツボを投げつけ、空いた手で持っていた松明も投げる。


 みるみるうちに、トロールは火だるまになって、自身に襲いかかる火の手を払うことに必死になった。


 「よーし、よーし!いつも通りってなぁ!じゃあ弓隊、穴だらけにしてやりな!」


 追い打ちをかけるように、火矢を持った弓持ちたちが一斉にトロールへ向けて矢を放つ


 「グモオオオオ!」


 トロールは、火だるまになりながらも、逃げずに戦いを続行する。ずば抜けた体力で、なかなか力尽きないが、燃え広がる火から自身の死を悟ると、一矢報いるつもりなのか、近くにいる軽装の者をターゲットに決める。


 「カルロォ!油断するなぁ!逃げろぉおお!」


 「ん?」


 カルロと呼ばれた男は、松明を持って突撃した一人だ。トロールに火がついたことで、一仕事終えた気になっていたのかもしれない。数メートル離れて様子を見ていたカルロを、トロールがターゲットに決めた。するとトロールは人間離れした脚力で、一瞬でその距離を詰めて、鷲掴みにしてしまった。


 「ぎゃあああああ!た、たすけ―」


 「カルロオオオオ!」


 トロールの膂力で体を掴まれたカルロは叫び、そのまま意識を手放した。そしてトロールは地面に向かってカルロを叩きつけ、魔物の膂力で地面が陥没する。…これはもう、駄目だろう。


 火だるまになったまま、カルロを叩きつけたトロールは、してやったり…という表情のまま力尽き地面に倒れ伏す。


 対トロール戦、会敵から数分、戦闘不能な重症者3名、死亡者1名…魔物一匹で出た犠牲だ…。


 これがイエローアイの戦い方なのか…


 これが、クラスを持たない者の、戦い…



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