136話
* * *
「先日帰還したパーティーが、ルーキー殺しの砦を破壊したそうです」
「そうか…あのケンク共が…ようやくだな。で、どこの大手だ?」
「それが、その」
「なんだ、ハッキリと言え。イエローアイだけは嫌だがな。あそこは借りを10倍にして返さなければ気が済まない連中ばかりだ」
「はい、イエローアイではなく、登録して初アタックをしたパーティーです」
「な…嘘だろう。実入りの少ない魔物で強い。それがケンクだ。あそこはベテランのパーティーでも避ける。都市命令でもなきゃ被害が無視できないレベルまで放置される奴らだぞ」
「…目撃者もいて、裏も取れています。事実彼らが提出した魔石も本物で、数もある程度は一致。後日調査隊を送りましたが、砦は崩壊しておりました。ケンクの死体は時間が経過していたので、ダンジョンが飲み込んだかと思われますが…」
「それが本当であれば、未踏破達成のために必要な人材だ。そいつの名前は…?」
「サトルという者がリーダーのようです」
「ほう…」
* * *
俺は、顔を向き合わせているカエル顔の亜人と、商談バトルを繰り広げていた。カエル商人は、とても偉そうな態度で椅子に座って、キセルのようなもので煙をふかしている。
「これはミミックの牙…だと思います。武器にして頂けるという話でしたが…?」
「フン…」
「つい数日前までは、この日を納期に、武器になって俺の手元に戻ってくる約束だったはずです」
「だれも打ち手が居ないんじゃ、どうしようもないだろうさケロ。一緒に出してもらった剣と盾は魔法効果がついていたから、金貨五十枚になったケロ。これは先に渡しておくケロ」
カエル商人はずっしりと金の入った袋を机に置いた。俺はそれを回収しつつ、本題に戻す
「それを含めて支度金をお支払いしたはずです」
「伸びない舌はどうしようもないケロ。その素材はレベルが高すぎて、打ち手がいないケロあきらめてケーロ。さあ、帰った帰ったケロケロってな」
カエル商人は、支度金として支払った金をキッチリと揃えて俺へと返し、店の扉前まで俺を追い出した。器用に舌で扉のドアを閉めて店じまいしてしまった。結局、ミミックの牙を武器にしてくれる店は、一つも見つからなかった。得られた骨董品や消耗品、武器なんかはすぐに売れて大金になったが。
…この都市では、働き手が足りなさすぎて、素材を武器にしてくれる鍛冶師の奪い合いが起きているんだ。制作への需要が高すぎる。コネでも無い限り、良い打ち手とは出会えないし、仮に出会えてもどれほどの順番待ちになるか検討がつかない。制作費用もバカ高いマージンを取られてしまうだろう。こうなったら…
「…ガルダインには悪いが、ウツセミまで出張してもらうか」
シールドウェストには、俺たちを専属としたガルダインという名のドワーフが一人いる。彼ならカルミアの武器を作ってくれた実績もあるし、持ち帰った素材を良い武器にしてくれそうだ。ダンジョンアタックの度に、シールドウェストに帰る訳にもいかないからな。
俺はダンジョンギルドに出向いて、ガルダイン向けの手紙を、シールドウェストギルド支部届けで提出する。数日もすれば、シールドウェストにいる伝書鳩的な役割を持つ『ルチルちゃん』が返事を届けてくれるだろう。それまではミミックの素材を武器化するのはお楽しみにしておくかな
ギルドで手紙を出して、商談も終わったことだし、外に出て広場で休日を過ごそうかな。今日はみんなリフレッシュ日にしているから、各々自由行動中だ。
ウキウキ気分で出口に手をかけたとき、後ろから声をかけられる。
「ちょっといいかな?君、サトル君だよね」
感じの良さそうなおじいさんだ。杖をついており、ゆったりとしたローブをつけている。髪は白髪だが、笑顔からは強い生気が感じられた。筋骨隆々な者が多いギルドには、ちょっとだけ似つかわしくないというか、不自然だな。強力な魔法を使う魔術師系のクラスかもしれないが。
「えぇ、どうしました?」
「実はお話がありまして…ここではなんですから、ちょっとニ階へ…よろしいですかな?」
「二階って確か、偉い方がお話し合いを行うために使っているんじゃ…許可も必要でしょうし」
「いえいえ…何も問題はありませんよ。何もね」
「はぁ、そういうことであればまぁ…」
どうせ広場でのんびり過ごすだけだから、話だけでも聞いてみるか