135話
ケンクがなが~い時間をかけて作ってきたであろう砦は、見るも無惨なガラクタ山に成り下がった。これで、ケンクの悪巧みによる新たな犠牲者は生まれないだろう。球体となったスカーレットは、何事もなかったかのようにイミスの元に戻ってくる。
「スカーレット!さすがねっ」「マスターのお力です」
二人はハイタッチを決めた。
辺りを見回してもケンクの生き残りは、いないようだった。俺たちは残骸の中からケンクの亡骸をあさり、一匹一匹魔石を取り出していく。ほとんどが砦の崩壊による影響で倒せたみたいだ。先に壊すのは正解だったな。
数が数なので、今日のダンジョンアタックはこれで終わりかな。日帰りしてこいって言われているし、あんまり遅くなると捜索隊まで出されたら迷惑かけちゃうだろうから。
大量のケンクから、一通り魔石の回収を終えた。もう帰っても良かったのだが、砦のせいで今まで塞がっていた奥の部屋まで捜索することができた
奥の部屋は、宝物庫兼ケンクの居住区として使われていたようで、結構な数の金貨とアイテムが散乱している。砦には全てのケンクが駆り出されていたようで、居住区には一匹も魔物がいない。
一箇所にまとめられた財宝はちょっとした山のようになっており、テンションが上がった。
「おたかラ~♪」
サリーがすぐに宝の山までダッシュしてガサゴソと漁り始めた。…一人で先行してまたミミック出ても知らんぞ
「アレ?これハなにかナ?」
サリーが両手で拾い上げたのは、赤色に染まった大きな球体。魔力が絶え間なく漏れ出しているところから見るに、何かの大型魔物の魔石だろう。イミスのおばあちゃんが遺していったものと同格にも思えるほどの魔力を感じる。これはかなり良い戦利品だな!
「サリーさん、よくやった!それは魔石だね。イミスにあげよう。スカーレットの強化に使えるはずだ」
「エ~!アタシが先に見つけたのニ~」
「まぁまぁ、良い杖や魔導書があればサリーさんにプレゼントするから、許してくれ」
サリーの目がキランと光った
「本当に!?仕方ないナ~」
「サリサリありがと!」
サリーは赤い魔石をイミスに手渡した。これでイミスの能力も今以上に引き上げることができるな
俺たちは財宝を物色する作業に戻った。魔力を感じる良さげな剣や盾はあったが、カルミアが使う片刃のタイプではないことと、盾はイミスがスカーレットから生成するから、必要がない。これは売りだ。あとは骨董品と、矢などの消耗品くらいか…おや?
俺は黒い杖を拾い上げた。所々焦げ焦げな杖だが、魔力を感じる。魔法でも使えるのか?
「サリー、この杖使うか?」
「どレどレ!」
サリーは杖を奪い取って、色々な方向から眺める。ファッションチェックをするデザイナーのような厳しい顔つき
「ン~、微妙。何よりデザインがありきたりで格好良くなイ。サトルにあげル!」
めでたくサリーの不合格を押された杖は俺の手元に戻ってきた。ということは、これは一般的には格好良い部類に入る杖なのではないだろうか。誰が持っていた物だろうが、ダンジョンで得たものは拾った者に権利がある。ありがたく貰っておこう。
俺は杖を軽くふってみる。剣も杖もろくに使えないから、持ってても意味はないだろうが…と思っていたが、杖の先端から[ファイアボール]が発動した!
ファイアボールは杖の先にあったケンクの居住スペースに向かって飛んでいき、ごく小規模な爆発を起こす。これは…!
異世界生活が始まって以来、初めての魔法発動に感動する。…そうか、俺はようやく魔法を使えるようになったのか…?
「ワワ!なニ!?何がおきたノ?」
サリーたちが近寄ってくる。俺は自慢げに杖を掲げて先程やったように[ファイアボール]を発動させてみせた
「ふふふ…どや?俺もついに魔法が発動できるようになったんだ」
「…それ、媒体じゃなくて魔道具ね。杖型の」
カルミアが鋭いツッコミを入れる
「…ということは」
「そう、魔道具を発動させただけよ。あなたの魔力でね」
そうか…たしかRPGには、魔法が使えない者でも、アイテムとして使うと魔法が発動する魔道具があったな。これはアイテムと使うことで、ファイアボールが再現できる魔道具なんだ。サリーが持っている魔法を収束具として使う物とは、根本的に違うようだな。
いや、でも待てよ…俺は魔法は使えないが、能力的に見て魔力は十分にあるだろう。今まで確立できなかった攻撃手段を、少しでも持てることは、今後かなりのメリットになるのではないだろうか。そう思えばこれは嬉しい。
「なるほどね、でもこれで、よりみんなのサポートが出来るようになったって訳だ」
「やったネ!」
その後も砦と、その周りを物色するがめぼしいものはこれ以上無かったので引き上げることにした。
この後はギルドに帰って魔石の提出をして、再度ダンジョンアタックだな。
初のダンジョンアタックで財宝を得た俺たちは、順調なスタートを切った