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134話


 付かず離れずの距離でケンクを追跡する。カルミアに頼めば、一瞬で距離を詰めて蹴散らしてくれるだろうが、奴らはゴブリン同様に群れで行動する魔物だ。お仲間の居る場所まで誘い込むつもりなのだろう。先程、全てのケンクを懲らしめると心に決めたので、その誘いに乗ってやるのだ。


 ケンクたちは休むことなくドタバタと走り、定期的に俺たちがついてきていることを確認する。そして、大きな部屋まで逃げたところで足を止めた。俺たちもそこで足を止めて周囲を見る。


 大きな部屋には、木材や石材で組み上げられた即席の砦が築造されていた。ケンクたちが作ったものだろう。砦は所々が足場だけを固めたような、脆く不完全なシロモノではあるが、侵入者を撃退するには十分に役立ちそうだ。


こんな状況になった場合、普通は通路まで即退却し、討伐を諦めて別の道を探すか、討伐する場合は相手より長距離から撃退できる方法を模索するのが望ましい。


砦の隙間からは、相当数のケンクが顔を出してこちらの様子を伺っている。クロスボウや弓など、長距離から攻撃できる武装が多い。どれもこれも人が使う武器だ…今までどれほどの数の冒険者が犠牲になったのだろうか。この魔物たちを生かしておいても良いことなど無いはずだ。であれば、ひとまずの目的は砦の破壊とケンクの討伐だな。


 逃走していたケンクたちは、俺たちが来た道を引き返さないように通路に立って、退路を断った。…まぁこれもセオリー通りだ。あとは砦上部から一斉に矢を降らせば大抵片がつく。…であれば次の手は、おそらく遠距離からの一斉掃射。だがそうはさせない


 「サリーさんは、メイジアーマーで全員を防御!イミスさんはディフェンシブフォームで砦からの攻撃に備えて!」


 「ヘイ![メイジ・アーマー]!」「みんなを守るよ![シンティクシィ・ディフェンシブフォームチェンジ]!からの、オプショナル・ディフェンスフェーズ[希望のオーラ]!」


 サリーのメイジ・アーマーで防御魔法を張りつつ、イミスのディフェンスモードで武器を盾へと変化させ[希望のオーラ]で守りを固める。俺はイミスが持つ大盾の後ろに控えつつ、相手の出方を伺った。


 砦の最上部付近から、ケンクのリーダーらしき者が顔を出した。一回り体格が大きく、ボロボロになった赤いマントを羽織っている。リーダーケンクは上を向いてクチバシを震えさせる。


 「イクゼ!オレタチがケンクをタオス!」


聞き覚えのない人の声だ。きっと、このケンクたちと戦い敗れた冒険者の一人だったのかもしれない。ケンクは一度覚えたらその声はずっと使われるらしいから、それを模倣したのだろう。でも、それだとケンクがやられることになるけど…意味が伝われば良いのかな?


 リーダーケンクの左右に、メスと思われるケンクが付き従っている。クチバシにリボンをつけているが、絶対使い方違うだろ。


 メスのケンクはリーダーケンクにすり寄った


 「ワタシ、カルミアサン、サトル、ダイスキヨ、ウフン」


 「アタシ、サリーヨ、サトル、ダイスキヨ」


 「イクゼ!オレタチがケンクをタオス!」


 どうやら、俺たちを真似してからかっているつもりのようだ。カルミアを見ると、顔を真っ赤にしてケンクを睨みつけている!こわい!目つきだけで人が死にそうだ!


 サリーも、なんだかモジモジして両手の人差し指同士をくっつけている。


 「…気が変わったわ。あの魔物、絶滅させる」


 カルミアの体が抜刀と同時に、バチバチと光りだした。


 若干ズレた開戦の合図だが、ケンクのリーダーが剣を掲げると、数えるのも億劫な数のケンクが砦から顔を出した。それぞれが弓やクロスボウを構えて俺たちを攻撃する。面で放たれる無数の矢は、回避のしようがない。不意打ちか!


 俺とサリーはイミスの後ろに隠れる。カルミアは構わずそのまま前進した。…どんだけ怒ってるんだよ。


 降り注ぐ矢はイミスが構えた大盾に阻まれ、無力化に成功。イミスへのダメージもほとんどない。


カルミアは電光石火の構えから、次々に矢を斬り落とす。刀のさばきが早すぎて目では追えない。それでも手数が間に合わなくなると、気を練り始める。


 「煩わしい…はぁぁあっ!」


 カルミア自身から、以前とは比べ物にならないレベルの雷撃が迸る。レベルアップ前は、雷がバチバチと体を覆う程度だったが、新しいスキルを覚えた今のカルミアは、ハッキリと目で分かるほどの紫電が体中を走っている。これが新たなスキル…[召雷集気]の真価か。説明では、より練気できる程度の内容だったが、実際は想定よりもっと恐ろしいものだった。


 更に一段スピードを上げたカルミアは、自身に向けられている全ての矢を斬り捨てながら、ゆっくりゆっくりと砦へ歩み寄る。


 「…雷切・十六連斬!」


 カルミアの膨大な氣は刀を通し、鍛えられた雷撃の一刀一振が必殺の一撃となる。ケンクたちは砦に隠れるが、脆い砦では身を守るには不十分だったようだ。


 「はあああ!」


 雷光、続いて劈く爆発音、そして、断罪の連撃が体現される。巨大な砦を支える一部が、斬撃によって一瞬で斬り刻まれ崩壊。大きな崩落でこの階層ダンジョン全体が揺れた。更に、そこから雷撃が砦広範囲へと広がり、火の手をあげる。まだ砦自体は機能するが、半壊といっても過言ではない。


 矢の雨はマシになったが、まだ攻撃は続いている。カルミアが作ってくれたチャンスを活かすぞ!


 「サリーさん、今だ!煙幕を砦に投げて!」


 「ここは、アタシにお任せ♪サリー特製ポーションでス!ポイポイ!」


 サリーが砦に向かって特製煙幕ポーションを投げた。これは短時間ではあるが、広範囲に広がる煙幕だ。サリーが気まぐれに作ったアイテムの一つだが、こんなところで役に立つとは。…ちなみに、オマケで辛味成分が入っている。


 ポーションは砦入り口付近で割れて、モクモクと赤黒い霧を作り出した。霧の濃度がとっても高いので、相手は狙いを定めることも、ついでに呼吸も困難になるだろう。


 カルミアは煙を吸わないように、注意を引き付けつつも、少しづつ後退。これでイミスの変形時間を稼げるな。


 「イミスさん、トドメをお願い。砦に向かって最大の一撃を!」


 イミスはオフェンシブフォームに変形し、スカーレットのパーツを全て武器に変換させ、鎖がついた大きな鉄球のような物体を作った。鎖を持って、ハンマー投げの要領で超高速回転。


 「勇打滅鎚、一球入魂……」


 轟々とした音が段階的に強くなり、突風が吹き荒れる。イミスは十分に力を貯めて、やがてその手を離した!


 「じゃあね~♪ [ヒロイック・オブ・トールハンマー 改]!」


 圧倒的な質量は、イミスの手から離れた瞬間から、自身を受け止めてくれる相棒とりでに向かって一直線に飛んでいく。


 そして、轟音と暴風を巻き起こしながら砦に着弾した。


 銃声のような耳を塞ぎたくなる甲高い音が響いて、爆発と暴風が砦をぶち壊す!





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