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130話


 サリーを見つけたときには既に宝箱に手をかけるところだった。サリーの目は比喩的に言えばドルマークになっているほど、箱に釘付けである。なぜそこに存在するんだろうというほど違和感を持った宝箱の周りは、血に染まっている。…もしかして、あれは。


 「サリーさん!気をつけて、それは罠だ!」


 「ヘ?」


 サリーの手が宝箱についた途端、宝箱のフタは牙だらけの口に変化する。…間違いない、シェイプシフター系統の魔物、ミミックだ。


 シェイプシフターとは、形や様式が定まっていない不定形な魔物を指す。主に何かを取り込んで、取り込んだ者や物の形を取ることができる魔物と、既に存在している何らかに寄生する魔物が存在する。前者はスライムに派生することが多く、後者はミミックのような魔物に派生する。極稀にではあるが、寄生せずに人と同様の形を取り定着する場合がある。シェイプシフターが持つ真の姿は何なのか、何処から来て、どうやって種を保存し増やしていくのか。スターフィールドでは、ほとんどが解明されていない謎の魔物として位置している。


 ミミックは主に宝箱やツボ、木箱、扉などの物に寄生し、魔物化した存在だ。宝箱に寄生する場合、何故か高レベルであることが多い。まさに今、サリーを食べようと口を大きく開けているミミックは、最も有名な宝箱型になる。主に宝箱に擬態し、人を食べてしまうのだ。総じて攻撃力が不自然なほど高く、厄介な魔法を持つ個体もいる。


 「サリーさん!杖で防御して!」


 ミミックは激しく口を開け閉めし、怪しげな奇声をあげてドタドタとサリーへ迫る


 「ミミミミ!ミミミミミ!」


 「ギャアア~!なにこレ!キモチワル!」


 サリーは腰を抜かした体勢で、杖を振り回す。ミミックは杖の先端をバクっと囓り、歯を立て削ぎ砕こうとする。丁度、ミミックが歯を立てた部分が、杖の装飾部分だった。龍がとぐろを巻いている装飾は、ミミックの鋭い牙によってガリガリと削られていく。


 「アァァァ!やめテ!それハ~!」


 ミミックが齧りついた杖を一生懸命に引っ張ったり振り回すサリーだが、餌に食いついた魚のように離さない。杖に勢いがついて、メキメキと嫌な音が…


 「ミミミ!」


 やがて、バキっと鈍い音が響いた。杖の先端についていた龍の装飾が丸ごと折れたのだ!そして、ミミックは満足そうにバリバリと噛み砕いていく。サリーが大好きだった龍のとぐろは無情にもミミックの腹の中?に収まった。


 「ミミミミ…ヴェヴェヴェ……」


 龍の装飾を食べ終わったミミックは、何だか調子が悪そうだ。小刻みに震えている。相手の調子も狂わせる効果でもあったのだろうか…?


 「ゆゆゆ、許さなイ!アタシのソウルをよくモ!」


 わなわなと震えるサリー。あの杖…の装飾部分は、毎日大切に磨いて、寝るときも食べるときも目につく場所に置いてあったからな…。相当お怒りだろう


 「イリュージョン…ストライクゥウウウ!!」


 杖で壊れた部分は、あくまでも装飾部分なので、反対側にある収束具は無事だ。呪文発動自体は可能…なのだが、サリーにとっては重要なことだったらしい。サリーの怒りと悲しみを込めたイリュージョンストライクは、復讐に燃えさかるような炎属性と化し、ミミックを業火で焼き尽くす。威力が強すぎたのか、ちょっとした火柱が天に伸びた。


 「ミミミミ~~!」


 ミミックは力尽き、その場に倒れた。あれだけの火力をうけて、原型を留めているだけでも、お前は十分に凄いぞ…。


 「イリュージョンストライク!」


 「まさかのもう一発!?」


 サリーの追撃が命中し、今度こそ完全に姿を消し飛ばしてミミックの大部分を黒い炭に変えた。…あ~あ、これじゃあ宝箱を回収できないぞ。っと思っていると、ミミックが居た場所には、宝箱の残骸の他、幾つかのアイテムが転がっていた。宝箱に本来入っていたものは、無事だったようだな。


 「ウウ、杖のカタキは果たしタ…!うワ~!」


 サリーはイミスに泣きついている。…ちょっと可哀想だけど、サリーの身に何もなくて良かったと思おう。彼女自身、これでちょっとは反省してくれたかな?


 「これは…金貨と、ポーションかな?あとは…これは、ミミックの牙のようなものか?」


 何が使えるかは分からないから、全部回収回収っと……カバンにミミックが持っていたドロップアイテムを詰め込んだ。

 

 「サリーさん、もう行くよ~」


 「ウウ、グスン…」


 俺も罠に堂々とかかってしまった手前、サリーには強く言えないから、彼女の手を引っ張っていく。サリーは絶望の表情を浮かべて『龍ガ…龍ガ…』と、うわ言を呟き続けていた。…しばらくはダメかもしれんな。


 少し進むと他のパーティーに遭遇した。戦闘中のようだ。四人でオーク一匹と戦っている。ここは一階層なので、俺たちと同じ踏破歴があまりない人なのかもしれない。ここでは結構な数の人たちが戦っているので、良い素材と敵に会うという目的には向かないかもな。


 戦う冒険者たちの邪魔をしないように、心の中で応援しつつ、地図のスクロールを片手に進む。すると、透明なバリアのような壁に行く手を阻まれる。しばらく壁に沿って歩くが、壁は一定ラインから先、ぐるっと周囲を円で囲むように続いているようだった。…となると、今見えている空も陽光も、森の奥だって視覚ではそう見えるだけの、まやかし…の可能性がある。ダンジョンには様々な形があるが、どんなに広大でも限度はある。一階層は森型のフィールドダンジョンという訳か。


 壁沿いに歩きつづけると、遺跡跡地のような場所を見つけた。そこには地下に降りるための大きな階段と、その出入りを封鎖するように、魔物が行く手を遮っている。


 魔物はゴブリンのようだが、姿が少しだけ違う。肌は緑だが、他のゴブリンと違い身長が高く体格が良いようだ。それが数匹おり、後ろで控えている者は杖を持っている。ホブゴブリンだ。



TIPS:

ミミック

レベル:2

ヒットポイント:15

筋力:10

敏捷力:5

耐久力:10

知力:1

判断力:1

魅力:1


ミミック:一階層で初心者を食いまくってレベルを上げたミミック。通常より高い攻撃力を持ち、大変キケンな存在だったが、サリーの愛杖の大事な装飾部分を食いちぎったことで恨みを買い、炭にされてしまった。食べた物に宿る念を強く感じ取ることができる。あまりにも強い念の場合、その思いを受け止めきれずに体調を崩す場合があるらしい。



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