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129話


眩しさで思わず手をかざし、目を閉ざした。光が収まったかと思い、ゆっくりとまぶたを開くと、そこは既にギルドの転移部屋ではなかった。


雨上がりのときに感じる独特の臭いが、土の匂いと混ざり合って、この場が既にギルドではないことを強く実感させてくれる。何より、目の前に広がる景色は森としか言いようがない。遠くから、森のざわめきと魔物らしき声も聴こえる気がする。唯一、森として不自然なところは、俺のそばに石碑のようなものがある点だ。石碑に近づいてみると、魔力が流れ出し『入り口へ』という文字が浮かび上がった。もしかして、帰るときはこれで帰れるのかな。


 俺はイーさんから貰った資料に目を通す。するとやはりこの石碑の説明があった。これはダンジョンとギルドをつなぐ転移装置で間違いないようだ。使い方は、移動したい階層の文字に触れてじっとしているだけで良いと書いてある。ちなみに一度踏破した階層は自由に行き来できるようだ。


 次に受付嬢から貰ったアイテムを確認する。食料は節約すれば数日分の量がある。説明書きが入っており、読んでみるとアイテムの使い方が書かれていた。謎だった石は『簡易転移石』と言う物らしく、手に持って念じると、ダンジョンの入り口までワープできちゃう代物みたいだ。ただし、使い捨てで一個で一人しか使えない。これは緊急用だな…無くしてしまったら大変だ。


スクロールは、ある程度自動で簡易マッピングをしてくれる魔道具で、地図として使うようだ。これは量産型で、ダンジョン内のみ発動する効果のようだ。まぁ、当然だよな。…試しに数歩移動すると、上からみた俯瞰図として地図に記録されていくのが分かった。記録される情報は、ただの棒線だが、現在地が分かるだけ無いよりマシかな。


 …昔、遊んだゲームで、ダンジョンに潜ったときは、自分でマッピングするようなものもあったことを思い出す。…細かいところは自分でメモしたり、書き加えていけるのがワクワクしてたっけ。未知を自分の手で開拓していく感じが、まさに冒険しているなって感覚で楽しめたんだ。まさか、またこんな体験ができるなんて…!


 状況を確かめつつ、ちょっとした思い出に耽っている内に、時間差で仲間たちが転移装置で移動してきた。というのも、俺の近くに紫色のような歪みができて、やがて人の形をとって一人ひとり実体化したのだ。これが転移なのだろう。今はこうした魔道具に頼るしかないが、レベルが上がれば、この世界でもウィザード系は取得できるのかな。


 「…よし、全員集まったね。ここはもうダンジョンだ。気を引き締めていこう」


 カルミアとイミスが頷く。イミスは既にスカーレットと合体し、スタンダードフォームに変更している。いつでも来いって感じだ。カルミアも、すぐに抜刀できるように気を張ってくれている。サリーは、よく分からない言葉で興奮している。…どうやら転移装置に感動しているようだ。


 「うん、全員いつも通りだね。慎重に行こう」


 俺はスクロールを片手に前へと進む。森なので、何処が前なのか分かったものでもないが…。転移装置の石碑が向いている方を前方と考えることにした。


 しばらく歩くと、臭いの感じが少しだけ変わった。血が混じった臭いだ


 「…サトル。おそらくゴブリン、前方に数匹」


 カルミアが警告したと同時にゴブリンの声…エンカウントだ!


 「グギャー!」「グギッ」「グギャギャ」


 ここはカルミアに片付けてもらおうかと思ったが、受付嬢のアドバイスが脳内をよぎる―。悪知恵が働くんだったっけ…。それなら…


 「サリーさん、ゴブリンの姿を変化させて無力化してくれ。そのあとで俺たち三名で叩く」


 「ハ~イ[レッサーポリモーフィズム]!」


 サリーが呪文を唱えると、何かを企んでいたゴブリンたちが鶏のような魔物にムクムクと変化していく。ゴブリンは武器を持つこともできず、大きく動揺した。


 「今だ!叩くぞ~!…ってあれ?」


 俺はクロスボウを構えようとするが、カルミアが一瞬で二体を斬り伏せ、イミスが一体を殴り飛ばした。…あれ?俺何もしてなくない?おかしいな


 「ゴ、ゴホン…。油断せずに行こう」


 俺はクロスボウをしまって歩くと、ヒモのようなものに引っかかる。すると俺は瞬く間に足を絡め取られ、足が縛られている状態で、大木の枝に宙吊りにされてしまった。…もうゴブリンは倒したが、これがあのゴブリンたちの狙いだったんだ。大きい声でおびき寄せるつもりだったのかも。こうなってしまっては、矢で狙われたらお終いだ。もし俺が先行していたら…と考えるとヒヤっとする。


 「サトル、大丈夫?」


 カルミアは宙へと舞い刀でヒモを斬って、俺をお姫様抱っこした状態で着地。…何という運動能力!


 「め、面目ない」


 「スカウト系が居ないから仕方ないわよ。でも大丈夫…私が助けるから安心してほしい」


 ゆっくりと俺を降ろしてくれた。周りにもう罠がないか、念のために確認する。その過程で、この場にサリーが居ないことに気がついた。慌てて彼女の姿を探す。すると少し離れたところからサリーの声が聴こえてくる。


 「ワ~!宝箱があるよォ~!!開けてみよウ!アタシいちば~ン」


 俺は冷や汗が止まらなかった。



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