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128話


 「…色々と大変な場所ね」


 受付嬢からの洗礼を引き剥がすように、ジャックが奮闘している様子を眺めているカルミア。途中から髪をクルクルといじりだしたので、あまり興味は無さそうである。彼女は俺以外には、わりと無頓着だった。


 「ねぇねぇ、早く行こうヨ!」「ウチも早く行きたい!」


 サリーとイミスがそれぞれ手を引っ張ってくる。二人もダンジョンアタックが楽しみだったようだ。ジャックとイーさんには悪いけど、取り込み中みたいだから、お礼は改めて今度にしよう。


 「わかったわかった!引っ張らないでくれ~…え~っと」


 イーさんが書いてくれた資料によると、新しく作ったダンジョンギルド専用のカードを受付に持っていけば良いようだ。受付は…ッゲゲ、あの二重人格お姉さんの所しか空いてないぞ。


 受付は三席あり、内一席はあのお姉さんの場所だが、誰も並んでいないので不自然に空いている。他ニ席は皆が並んでいるので時間がかかりそうだった。顔はとても美人なのに。でも、あの性格だからな…


 「仕方ない。あそこしか空いてないから並ぼう」


 「…サトル、相手があんまり言ってくるようなら、私が話をつけるわよ」


 カルミアはビシっとジャック同様のポーズを決めた。…どうやら俺を助けるジャックに対して、何らかの対抗意識が芽生えたらしい。


 「大丈夫、あの人が俺を害する気がなかったり、悪気がないってのは見てて分かるからね。カルミアさん、ありがとう」


 カルミアの頭を優しくなでる。カルミアはちょっとだけ顔を赤くしているが、悟られまいとビシっと決めているポーズはそのままだった。なでている間は黙り込んでいるので、バレバレである。


 俺は性懲りもなくお姉さんの前にやってくる。誰も並んでいないので当然待つ必要もない。


 「…え?なんで…あ、コホン。ようこそ!ダンジョンギルド、ハルバードウツセミ支部『ベアクローの寝床』へ!依頼でしょうか?納品でしょうか?ダンジョンアタックの報告でしょうか?」


 先程の記憶が無いのだろうかと思うほどの、清々しい余所行きの笑顔で出迎えてくれるので、俺もそれに習う


 「ダンジョンアタックです。今日が初めてなので頑張ってきます!」


 俺はできたてのギルドカードを提出した。お姉さんは何故か若干動揺してカードを受け取り、俯く


 「…てめぇ、命が惜しくないのか。死ぬかもしれねえぞ…ダンジョンアタックは遊びじゃねえんだ。各支部の高ランク冒険者でも、油断すれば簡単に命を落とす。それも過去何度だってあった。外で戦うとは訳が違う、罠があるからだ。魔物もずる賢い奴らばかり。それでも、本当に行くんだな?」


 俯いたまま、お姉さんは乱暴なセリフを吐くが、俺は気にせず答えた


 「はい。それでも、俺たちは強くならなければなりません。そのチャンスがここで掴めると思ったんです。なので、お姉さんが何を言っても、俺の気持ちは変わりません」


 「そう…ですか……わかりました」


 お姉さんは渋々とギルドカードの情報を何かに書き写す。記録内容は主にパーティー構成や踏破した実績とアタックを開始した日付を書いているようだ。この日付と実力の兼ね合いを見て、ダンジョンアタックが長引いている人を、ギルド側が救援するべきかどうかなどを判断しているのだろう。


 「登録完了しました…サトル様たちは初めてのアタックになりますので、当日中での帰還をお願いします。あと、出発前はギルドが提供している『アタック日帰りセット』を買っていってください。これは私が考案したアイテムセットです。今日の分の代金は私が持ちますので」


 有無を言わさず、お姉さんは俺たち全員分に大きめの巾着袋を手渡す。中身は食料と何かの石。マジックスクロールが一枚入っていた。肩から吊るすタイプで、戦闘に入ってもすぐに投げ捨てられるようになっている。


 「あの、大丈夫ですか?俺たち全員分の―」


 「構いません。そのかわり…」


 お姉さんはお行儀の良い姿勢と笑顔から一変、立ち上がってカウンターに足をドカっと乗せた。両手を組んで、俺を見下ろす!


 「死んだら承知しねぇからなぁ!!」


 「ひい!わかりました~!」


 俺は『アタック日帰りセット』を抱えてそそくさとカウンターを去る。お姉さんは、その後ろ姿を心配そうに眺めていた…。サトルはそれに気が付かない。ただ、カルミアだけが振り返り、心配するなよ!と言いたげな顔でビシっと合図を決める。


 門番の人へ、受付で貰った受領証を手渡すと、門番は流れ作業のようにカードを確認して通してくれた。


 「初めてなら深追いするなよ。迷ったら他の冒険者に聞け」


 「ありがとうございます」


 光の玉だけがポツンと置かれている小部屋に入る。光の玉は俺たちが近づいていくにつれて、輝きを増している。メンバーが全員いることを確認し、玉に触れると冷たく硬質な感触が手を通して伝わってくる。光は指の間から激しく漏れ出し、振動する。振動音が強く響き、やがて部屋いっぱいに輝きを広げると、サトルたちは部屋から消えた。


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