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124話


 タルッコは仲間を増やすため、カルミアの故郷まで出向いていた。現在はカルミアの姉であるサザンカが一族をまとめている村だ。【メイガス】と呼ばれる魔法剣士クラスを、一族で相伝してきた戦いのプロ集団であり、村の収益の大部分は傭兵家業に依存している。特にサザンカは、一族の中でも最も高いメイガスの適性があったため、幼い頃から期待され育てられてきた。村は基本的に実力主義で、戦闘能力で全ての優劣が決まる。傭兵の実入りは実力に左右されるため、仕方のない部分もあるのだが、カルミアは魔法が使えず、メイガスとしての適性が皆無であったため、価値無しとして一族から追放されてしまった過去がある。しかし、そんな状況もサトルというイレギュラーによって、立場が逆転した訳で……


 「ここがあのコワコワ女剣士の姉が居るという場所…噂では、相当な手練とか。ウヒョヒョ…」


 カルミアの姉、サザンカとしては面白くない事態になっているだろう。村から追放するほどの弱者に負けた奴というレッテルを張られるのは、期待され育った者であるほど耐え難い。タルッコはその心の隙を利用して仲間に引き入れる腹積もりのようだ。


 タルッコは到着したばかりの村全体を見渡した


 カルミアの故郷は村というより、集落といった風で、開放的な空間で剣を振る子供たちや、瞑想に励む人々の姿が見られる。テント状の建物の大部分は魔物の皮と思われる素材が使われていて、野性味あふれる空間となっている。


 そこには、銀髪の長髪なびかせ、銀色の瞳を輝かせる人物がいた。楽しそうに子供たちの稽古をつけている。そう、彼女こそカルミアの姉であり、ドワーフの村のエキシビションマッチで、カルミアに敗北したサザンカその人である。


 対外的にはサザンカは弱者に負けた弱者なのだろう。しかし、あの戦いを見た者であれば、吹聴されたその噂が間違いであることに気がつくはずだ。サザンカは決して弱くなかった


 そう、決して彼女が弱かった訳では無いのだ。カルミアの一挙手一投足は超越していた。風を置き去りにする動き、耳を劈く閃光の如き雷撃。どれをとっても規格外そのものだった。むしろ、人外レベルにまで魔改造されたカルミアに対して、サザンカは善戦したと評価できる。


 しかし、サザンカ本人は現状に満足してないだろう。


 「もし…もし… 力がほしいかい?…ウヒョヒョ」


 タルッコはサザンカの背後に回り、物陰に隠れながら悪魔の誘惑をする。普通であれば、このような奇行を無視する所だが…


 「何…?力だと?どんな力だ?というよりお前は誰だ」


 今のサザンカは、力には貪欲かつ盲目で、純粋すぎるきらいがあった。目の前に現れた怪しい誘いにも食いついていく。誰でもいい。まさに今、力が欲しい。サザンカのまっすぐな視線は物陰に隠れているタルッコに突き刺さっている。隠れた場所は最初からバレていた


 タルッコは余所行きの表情を精一杯取り繕って、表に出てきて警戒心を解こうと身振り手振りでアピールする。しかし…


 「ウヒョヒョ!こんにちは!僕の名前はタルッコ!貴方の力、より高められる方法があるんだ!」


 「御託はいい!方法を教えろ!あとその気持ちが悪い喋り方はどうにかしろ!」


 サザンカには効果がなかったようだ。ただし、力が欲しいという誘惑にはすぐに食いついた


 「ウヒョ!?…わ、わたくしめが…気持ちが悪いですと!?せっかくフレンドリーに接したのに!」


 タルッコの訴えは心底どうでも良さそうにして、本題を急かした


 「それで、どうすれば力が得られる?」


 サザンカは腕を組み、タルッコを見下ろす。終始頼んでいる側とは思えないほどの心身ともに上から目線な言動は、タルッコの出鼻をくじくには丁度良かったようだ。見た目だけはカルミア同様、美少女なのがまたひどいギャップを生んでいる。


 ちなみに、サザンカは要人警護などの依頼を幅広く請け負っており、独身の男性客などからは、もれなく求婚されていたりする。しかし、サザンカはどのアプローチにも応えていない。彼女にとって、今重要なのは強くなることそのものだったからだ。


 「ウヒョヒョ…全くブレない方ですねぇ…実は、とある筋からの情報ですがね?サトルという者の持っている本、あれが仲間を強化しているんじゃないかという話が上がったのです!」


 「なるほどな…我が妹、あれほどに強くなっていたことには何かのカラクリがあったのだろうとは、考えていたが、そういう事か」


 「えぇ!えぇ!それはもちろん。領主のアイリス様は、奴の力をいたく気に入っております…わたくしめも、あの本があればアイリス様からの評価も期待できる。そして…」


 「私はその本の恩恵を受けて強くなれるということか?…面白いじゃないか!妹にも、リベンジしたいと思っていたところだ」


 「ウヒョヒョ!話がはやくて素晴らしい!!奴らはウツセミへと向かっておりますゆえ、サザンカ殿も同行願いたい…サトルめから、本を奪うための作戦会議を始めましょう……」


 「妹がアレなのだ。フフフ…私はもっともっと、強くなれるぞおお!」


 サザンカは子供たちの稽古を放り出して、旅支度を始める。彼女は良くも悪くも、一度決めたら猪突猛進に進むのだ。村人たちは『また始まったよ』『今度は何処に行くんだ?』『族長がまた家出するぞ!』と騒ぎ出した。どうやら、急な行動は常習犯らしい


 「皆、急で済まないが私は旅にでる。強くなれるチャンスが来た!これを逃す手はない。村を少し開けることになるが、私の成長は村の成長につながると思う。留守は頼むぞ」


 サザンカはそれだけ言い残して、さっさと荷物をまとめ、タルッコの元へ


 終始、村人はポカンとしていたが、まぁ振り回されるのはいつものことかと気にしていないようだ


 こうして、タルッコは頼もしい人物を仲間に加えることが叶ったのだ!


 ひとつ問題があるとすれば…二人共、サトルの能力をあまりリサーチしていないところだろう!





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