123話
サトルの昇格をよく思わないタルッコは、どうにかして邪魔をしてやりたい気持ちでいっぱいだった。特に、タルッコの中では至上の存在に思えるアイリスがサトルを抱きしめたときなど、頭がどうにかなりそうな気分だったのだ。町のためだとか、損得勘定抜きに気に入らないのである。
「おのれ!サトル!アイリス様の寵愛を受けるのは断じてサトルではない!ぐぬぬぬ…あやつめの動向を見て、絶対に邪魔してやるぞ!ウヒョ!」
毎回痛い思いをしているタルッコは、よしておけば良いのに、今日もめげずに悪いことを考える。まずはサトルのスケジュールを確認して、先回りをする予定のようだ。
「今回は仲間のあてもある…前回のようにはならないですぞおお!」
タルッコは自分の役職をフル活用して、サトルたちが住む予定の別荘まで来ている。庭が広いので、体が小さいタルッコは何処にでも隠れられる。サトルたちが来るのをお昼ごはんのパンを食べながら待っていたら、ターゲットの声が聞こえてきた。
「こちらが別荘です。既にサトル様の所有物でございますので、どうぞご自由にお使い下さい…では、私はこれにて失礼いたします」
「ありがとうございます。このようなステキなプレゼントをいただき、アイリス様にも感謝いたします」
タルッコは素早く草陰に隠れ、サトルたちが家に入るのを見届ける
「ウヒョヒョ…このタルッコ、隠密のプロなり。サトルの横に何時もくっついているコワコワの剣士でさえ見つけられない。もはや影そのもの」
ただ草陰に隠れていただけだが、情けをかけられたのか、見つからなかったためか分からないが、結果的にやり過ごせた。その結果に饒舌気味なこの男。しかし、そこには第二の刺客がタルッコを襲う…!
「バフバフ!」
放し飼いにされたクリュがタルッコを見つけたのだ!
「ぐぬ!なんだこの丸い生き物は!?それ以上、近づいてみろ!やばいぞ!シュ!ッシュッシュ!」
クリュにエンカウントしたタルッコはご自慢のシャドーボクシングで威嚇するが…
「バフバフ!バフバフ!」
タルッコが放つシャドーボクシングの動きが遅すぎて、お手かなにかをしているのかと勘違いしたクリュが、タルッコの手の上に足をのせる。これは、サトルから教わったクリュ渾身の技『お手』という技術なのだ。そして、この攻防じみた双方の動きは、まるで高速で拳を放つタルッコの動きを足で受け止めているようにも見えるかもしれない。少なくともタルッコにはそう見えたようだ。
「ぐぬぬ!まさかお前は…サトルの召喚獣か!こんな、こんな強敵がいるなんて…こうなったら!」
タルッコは懐から残りのパンを取り出すと、遠くへ放り投げる
「バフバフ!」
クリュはパンめがけて走っていった
「ふぅ…命が危なかった。天才であるわたくしでなければ、足の一本も持っていかれていたところでしょう。さて」
タルッコはリビングで話し合いをしているサトルたちの作戦会議を盗み聞きする。
「よし、反対意見がなければ是非ウツセミに向かいたい。みんな、それでいいかな?」
どうやら、ダンジョン都市として有名なウツセミに向かうという話をしているようだ。そのとき、タルッコの天才的頭脳の閃きが最高潮に達する。
「ダンジョン内であれば…そうか!あとは実行できる仲間さえいれば…ウーヒョヒョヒョ!!」
まだ何の計画も立てていないタルッコだが、その顔は計画通り…といった様のやり遂げた表情であった