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122話


 ダンジョン都市、ハルバードウツセミ…通称ウツセミ。シールドウェストから遠方の東に位置するその町は、ダンジョンを産業化させ発展してきた都市だという。ダンジョンと言ってもピンキリで、一時間あれば踏破できるダンジョンから、何年かけても踏破が難しい広大なものも存在する。ウツセミに存在すると言われるダンジョンは、観測史上でも踏破困難と言われる広大なダンジョンのひとつになっている。


 現領主カイン・ハルバードが統治するその町の始まりは、ダンジョンを封鎖する目的で作られた。強力な魔物が出てくる厄介なダンジョンを囲むため、頑丈な壁を作り、ダンジョンから外に出てくる魔物を間引いていた。そのうちダンジョン専用の独自ギルドが創設され、ダンジョンアタックを生業とする冒険者が居座るようになった。やがて、素材を回収し価値ある資源にする商業施設が乱立。生活インフラが整い、今のような町にまで発展したという。


 「なるほど…ウツセミね。確かにそういう場所なら、特訓と装備の強化には事欠かないな」


 「でしョ!アタシの情報も役に立つでしょウ!」


 「とても良い情報だね!どこまで進めるか分からないけど、ダンジョンアタックにも興味があるし」


 カルミアがサリーの情報提供に補足を加えてくれた


 「…噂では、シールドウェストの連盟ギルドとは違う、独自のギルドランクを設けているらしいわ。持ち帰る素材の優劣でランクを定めて、高いランクにはそれだけの見返りがある…」


 シールドウェストでの冒険者ギルドランクは、各町のギルドでも同様の待遇が約束される。ダンジョンを管理しているウツセミのギルドでは、独自のギルドとして機能しているらしいので、登録からスタートになるだろう。俺たちのメンバーであれば、すぐにランクアップできるはずなので、そこの心配は無い。


 ダンジョンと聞いたらワクワクしてしまうのが、ゲーム好きのサガだろう。どんな宝が眠っているのか…どんな魔物がいるのか…ぜひ探索したい!


 「よし、反対意見がなければ是非ウツセミに向かいたい。みんな、それでいいかな?」


 「…サトルの判断に従うわ」


 「ウン!元々アタシが提案したことだシ!」


 「ウチも賛成!スカーレットの強化に役立ちそうだから!」


 みんな快く頷いてくれる。これで、俺たちの次の目的地が決定したな!


 * * *


 夜、ウツセミ出発前に学び舎に来た。目的はフォノスの部屋に置いてきた置き手紙に、別荘の件を加えて書き記すためだ。一度旅立ったらしばらくは戻ってこない予定なので、知らせるタイミングは今しかないからな…。


 「フォノスの部屋は…っと、ここか」


 皆が寝静まった学び舎で、フォノスの部屋をゆっくりと開ける。すると、そこには手紙を読んでいるフォノスの姿があった


 「フォノス!」


 「…お兄さん?」


 フォノスの服は黒装束のようなスタイルに二短刀流だ。きれいに伸ばした背筋から立ち振舞いも凄腕のアサシンにみえる気がする。


 「何処行ってたんだ?皆心配していたぞ?」


 「僕は…ここには居てはいけない存在になってしまったからね。もう、戻れないんだよ」


 「…何があったんだ?」


 「お兄さんは、知らなくてもいいことだよ。僕と、お兄さんが幸せになるために必要なことさ」


 そう言うとフォノスは顔を隠していた布を取って、素顔を晒す。彼の表情は至って穏やかで、微笑んではいるが、紫色の目の光はどこか寂しそうだった。


 「言いたくないのなら…別に良いけど…。フォノスには帰ってくる場所があることを忘れるなよ」


 俺はフォノスへ新しい別荘のこと、ウツセミで修行することを伝える


 「…ということで、フォノスの部屋も用意しているぞ。あんまり広くないけど、そこは我慢してほしい」


 フォノスは驚いた顔を見せる。そんな顔が見られるなら、ちょっと得した気分だな


 「お兄さん…ありがとう」


 ギュっと抱きついてくるので、俺は抱きしめ返し、優しく頭をなでてやった。言いたくないことだらけで、心配な気持ちは正直あるけど…きっと、譲れない気持ちとか、様々な思いがあるのだろう。そんな君を、黙って優しく出迎えてくれる人が一人いたって、罰は当たらないだろうから。俺はフォノスの帰る場所になれればいいか


 「…大丈夫か?」


 「うん…またひとつ、決心ができたと思う」


 「そうか…あんまり無理するなよ」


 「うん……ウツセミかぁ。僕たち孤児は、ここから遠くへ行ったことがない人ばかりだからね。色々な場所に行けるって羨ましいな」


 「何言ってるんだよ、フォノスも来たらいい」


 「僕も?良いのかい?」


 「当然だろう。もう家族みたいなもんなんだからさ」


 「あはは…嬉しいな…。そうだね、でもまだ町でやることがあるんだ。それが終わってから追いかけるよ。それでもいい?」


 「もちろんだ!フォノスの力を貸してくれ」


 「うん、最初からそのつもりだよ。今までも、これからも、お兄さんを支えるのは僕の役目さ。追跡は得意なんだ。いつでも追いつけるから、先に行っててね」


 そう言うとフォノスは手紙を大切そうにポケットへと仕舞って、顔を布で隠して窓から飛び去っていった。


 「う~ん、相変わらず不思議な子だなぁ」



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