121話
別荘は大通りから数分歩いた好立地に建っていた。小さな門の先には大きな庭があり、クリュが遊ぶための十分なスペースが確保されている。二階建ての家は少し古いが、十分に使えそうだ。
「こちらが別荘です。既にサトル様の所有物でございますので、どうぞご自由にお使い下さい…では、私はこれにて失礼いたします」
「ありがとうございます。このようなステキなプレゼントをいただき、アイリス様にも感謝いたします」
「ははは…アイリス様はサトル様にご執心ですからね…色々とお気をつけ下さい」
鍵を受け取り、案内してくれた騎士は仕事が残っているので…ということで帰っていった。
間取りは至ってシンプルな作りで暮らしやすさ重視。一つひとつの部屋が広く設計されているので、急な来客にも対応できるだろう。わかってはいたが、風呂はない。いつか、風呂付きの家に改造しよう…。それと、フォノスがいつ帰ってきてもいいように、学び舎の置き手紙の内容を追記しておかなきゃいけないな…。
ひとまずパーティーメンバー全員分の部屋割りをして、宿屋から荷物を運び込んでもらった。宿屋のおばちゃんとは仲良しなので、別荘があるないに関わらず、あの宿には定期的に顔を出す予定だ。
全員分の引っ越しが完了し、今後の方針を定めるために、一度リビングルームに集まってもらう。
「よし!今から作戦会議をはじめるぞ!」
カルミアは不機嫌そうな顔で質問する
「…なんの作戦会議?」
「ゴホン…よくぞ聞いてくれました。俺たちは、領主様から強さを認められ、将軍の地位に立つことができた。とても名誉なことで、全てが順調に思える。しかし、これはあくまで蛮族王を倒せることが前提的な役職…つまり、報酬を前借りして頂いているようなものだと考えている。この家だってそうだ」
「…奴を倒せなければ、領主は何をしてくるか分からない…ということ?」
「そうだね。将軍の地位を剥奪されるくらいならまだ良いが…正直、今の状態に甘んじるのは危険だと思っている」
「ねぇねぇ、蛮族王ってそんなに強いの?ウチが知っている限りだと、チンピラみたいなものだと思っていたけど!名前も弱そうだし」
イミスは蛮族王は弱いんじゃないかと思っているようだが…カルミアは訂正する
「…イミスがそう言うのも無理はない。最初はその通りただの蛮族と言っても差し支えないものだったのよ。でも、この町から派遣された討伐隊は、皆殺しにされたと言っていいほどの被害を受けたの。奴がどうやって力をつけたのか…それは分からないけど、警戒すべき相手よ」
「ウ~ン、でも、アタシたちはこれからどうやって強くなればいいノ?」
サリー、良い質問だ!魔物をひたすら倒してレベル上げ!と言いたいところだが、それだけだと効率が悪い
「魔物を倒し続ければ強くなることはできるだろう。ただ、もう少し効率を上げたいのと…俺はこのパーティーには、ひとつの課題があることに気がついたんだ」
「…課題?」
「そうだ。一人ひとりの能力が飛び抜けて高い弊害か、装備に全く頼ってこなかったことに気がついたんだ。もちろんドワーフの村で作ってもらった装備は強いが…それ以上に強力な魔道具や魔剣は、まだまだ存在すると思う。みんな、各々のスキルと自前の身体能力でどうにかなってしまうから、装備を疎かにしていた部分だと思う」
普通のRPGしかり、TRPGでも例外ではなく、装備は各々の戦闘能力を決定付ける重要な要素だ。どんなに能力が高くても、装備を疎かにすることは縛りプレイや舐めプレイをしているようなものだろう。この世界にはやり直しは存在しない。そういった油断から発生するピンチは可能な限り潰しておきたいのだ。何よりも、ゲーム好きとして、魔物を倒して素材を剥ぎ取って武器と防具を強化する…この王道的強化方法を無視するなんてとんでもない!
「…たしかに、ウチのスカーレットも何もいじってないかも…」
「アタシの愛杖も強化したい!」
「…竜魔吸石で作った、この剣には愛着があるけど…もっと強い装備も扱ってみたいわね」
「もちろん俺自身も指示だけではなくて、強化したクロスボウなんかでサポートできればと思っている。そこで、魔物がたくさん出る場所で、近くで素材を加工できるような仕組みがある都市がないか、みんなに相談したかったんだ」
「…なるほど、だから作戦会議ね?」
「ウ~ン…ア!それならダンジョンと町がひとつになっている町があル!そこなら、魔物を倒しつつ素材を町で加工してもらえるんじゃないかナ?冒険者がいっぱいいるんだっテ!」
サリーナイスだ!どうやら心当たりがある町が存在するらしい