120話
「将軍…ですか?俺が?」
「うむ。サトル君…君にはそれだけの価値があると見ている。まぁ、将軍とは言っても、規則や軍務に追われることがないよう、蛮族王を討伐するための遠征時以外は、自由にしてもらって良い。つまり、君には今まで通り、冒険者ギルドに所属し、己を磨いていてほしいのだ。給料も出すぞ」
考える限りではデメリットが無いような気がするが…この人の獲物を狩るような目が、それ以上を物語っているように見えてならない。
「話がうますぎる気がするのですが…」
「クク…そうでもないさ。君の力を頼りにしている以上、今まで以上に成長してもらわねばならない。奴は、こちらの騎士や冒険者たちを簡単に倒してしまうほどの未知の力を持つ。必要なのは少数精鋭による確実な討伐だ」
「数をぶつけるのは…?」
「数をぶつけても、部下を見捨てて、奴だけは姑息に逃げ回るだろう。それに、我が軍の騎士たちは魔物の間引きと、強力な魔物の個体との戦いで、これ以上の戦力を割くことができない。魔物の質も、日に日に強くなっている。そんなときに、サトル君たちのような規格外がいてくれたのは僥倖だった。君たちには、少なくとも冒険者ギルドでトップのランク…そして強力な魔物を難なく倒せる程には強くなってほしい。今でも君たちが十分に強いのは分かっているが、やり直しができない以上は、念には念を入れたい」
う~む…俺たちは、今までの活躍の記録が認められて将軍まで昇格。ただし、蛮族王の討伐は約束してほしいというところだろう。今なら、逃げようと思えば他国へと逃げられるしなぁ。シールドウェストの将軍という肩書があれば、首輪としては十分機能する。俺たちが他国に流れて、蛮族王も倒せずにジリ貧になることを阻止したいといった所か…?何かそれ以上のものを感じるが。
俺は転生してから、ずっとこの町を拠点にしている。この町を賊共に好きにさせるのはこちらとしても、望むところではない。
「…分かりました。シールドウェストにはお世話になっています。恩には恩を返すべきでしょう」
「ありがとう。頼りにさせてもらう…クク、ちょっと来な」
アイリスはそう言うと同時に俺を手繰り寄せ、無理やりハグした
「もが!?」
「ア、アイリス様!?グキイイイイ!」
この場にいるみんなは驚いただろう。特にタルッコは叫び血の涙を浮かべるほどにサトルを睨みつける。アイリスの胸に埋まってしまって、周りの状況が分からないが、これはまずい!
カルミアの焦った声は、地味に初めて聞いたかもしれない
「…!さ、サトルは嫌がっている!離してあげて!」
アイリスは俺の頭を撫で回しながら、開いている手でがっちりと捕まえつつ、カルミアに挑発する
「クク、そう必死になるんじゃない。ちょっとしたご褒美じゃないか?可愛い剣士さんだね」
カルミアの体からバチバチと音と閃光が走りはじめる。その辺りでアイリスは俺を開放してくれた
「っとと…可愛いだけじゃなくて、私と同じ目を持つ者のようだ…ククク」
「…ふん」
ふぅ、ご褒美…じゃなくて大変な目にあった。この領主様は何を考えているのかよく分からない人だ
「それでは、お遊びもこの辺りにして、話を進めるとしようか。略式で申し訳ないがこの場でサトル君を将軍叙任とし、パーティーメンバーをその配下とすることを認める」
アイリスは儀式用の剣を持って、俺の肩へと何度か当てて簡易的な叙任の儀式が完了した。
「ところでサトル君は、今は宿で寝泊まりしていると把握しているのだが、間違いないか?」
どこまで知っているんだろう…怖くなってきたぞ!?
「はい…まぁそうですね」
「将軍が宿暮らしなど格好がつかないだろう。空きの別荘を用意してあるから、それを使ってほしい」
「あ、ありがとうございます…!」
「話は以上だ…サトル君、期待しているよ」
少々予想外のトラブルはあったものの、領主への面会が終了した。これからは、俺を含めてパーティーの戦力強化が必要になる。新しい別荘とやらで作戦会議が必要だ
別荘の場所はお付きの騎士さんが案内してくれることになった。叙任を見届けたタルッコは、どこかへ出かけていったようだ。
部屋から出るときにアイリスはウィンクをして見送ってくれた。
領主の館を抜けて、町の大通りまで戻る
「サトル様、別荘はここから歩いてすぐそこです」
「わかりました…それにしても随分用意が良いんですね?」
「ははは…それはもう。アイリス様は、面会前からサトル様を将軍にする話を決めていたようですからね…」
俺が想定していた以上に、アイリスは俺たちのことをマークしていたようだ。部下をつかって逐一探らせたり、ギルドを通して、実力を確かめたりしていたのかもしれない。結果的には上手くいったが…万一、受けてきた依頼が芳しくない結果だったときのことを考えると、背がゾッとする。