12話
「さぁ、君の可能性を魅せてくれ!」
黄金のペンがまた手元に現れる。あの時と同じだ…。ペンはこの時しか出てこない。ルールブックがサリーのキャラクターシートを映し出し、そのページで停止した。この作業でようやく対象のクラスチェンジの項目が書き込めるようになるということか。闇雲にページをめくっては好き勝手書き放題という訳にはいかないようだ。俺自身を魔改造してクラスチェンジできたらどれだけ良かっただろうか。実は何度も試しているが、成功したことがない。書いた文字が消えるのだ。そしてクラス以外の項目はモヤがかかったように見えないし、書き込めない。
この間は時間が止まったように灰の世界となることも、この本?が持つ効力のひとつだろう。おかげ様でじっくりと考えることができる。現在のサリーのクラスは【アルケミスト見習い】と記載されている。これはスターフィールドにも存在しないあやふやなクラスだ。サリーという存在を最も尊重したうえで最低限自衛できるクラスを付与してあげるべきだろう。
*対象 サリーのクラスチェンジ可能な一覧を表示します*
*
アルケミスト
バード
クレリック
ドルイド
アーティラリスト
アーマラー
キネティシスト
インクィジター
ウィッチ
ハンター
レンジャー
ウォープリースト
メイガス
ソーサラー
ウィザード
アーケイニスト
オカルティスト
スピリチュアリスト
バトルスミス
*
…どうやら【メイガス】にも適正があるようだ。これは魔力を使って戦うことに適性が一定以上あるためだろう。カルミアとは違い、クラスチェンジ可能なリストも魔法系統が多いことから魔法に強い適正があることが分かる。最も、俺も全てのクラスを把握している訳では無いから、【ソーサラー】や【ウィザード】があることと、パッと見での判断だ。
スターフィールドのゲーム内世界では多種多様なクラスと種族が多いことが最大の楽しさと強みのひとつでもあるが、今回のようにアルケミストを主軸とした場合の組み合わせは非常に難しく悩ましい。なぜなら、アルケミストは薬を扱い、薬で戦うという非常に特殊なクラスだからどのクラスとも噛み合わないケースがある。俺が知らないだけで、この状況にマッチしたすごい組み合わせがあるのだろうが、今ある判断材料だけで決めなくてはならないのだ。
ふとサリーに目をやると、灰の世界に入る瞬間まで本当に信じてくれていたのだろう。両手を合わせて俺の方を見つめた状態で停止している。
…サリーは魔法を使うことを夢みていた。かといってアルケミストの道を今の都合で捨てさせるわけにはいかない。最も理想なのは、アルケミストとして自衛できる能力を身につけること。それならば…
ペンを力強く握りしめ、本へと書き込む
「生まれ変わって! 新しい君へ!」
*対象 サリーのメインクラスを【アルケミスト】サブクラスを【ウィザード】に設定しました*
*マルチクラスにより メインクラスとサブクラスの特徴が融合されます*
*新クラスの誕生によりクラス名称は【変性錬金魔術士】に変更されました*
*魔法は変性魔術の専門として特化されます*
*アルケミストの調合能力に魔法効果が相乗されます*
*クラスチェンジの特典により 対象 サリーに呪文使用の焦点具とアルケミスト必須道具として、クォータースタッフと簡易調合ポーチを付与します*
*クラスチェンジ 完了しました*
「クラスチェンジ 完了!」
俺の声と共に灰の世界が崩れ去り、光がサリーに集束してやがて収まる。光が収まった頃にはサリーは両手に立派なクォータースタッフと腰に細長いシリンダーがいくつも刺さったポーチを着用している。うん、見事に魔法と錬金術の間の子って感じだね。一瞬の変化に驚いたサリーは少しの間自分の体のあちこちに触れて、納得したように首を縦に振った。
「力が湧いてくる。今なら…やっつけられるかもしれないよォ~!」
カルミアの時と同じだ…全く新しいクラスチェンジを行ったが本能的に自分に何ができるのか、凡そ把握しているのだろうか。
サリーがクォータースタッフをクルクル回転させて何かを唱え始める。杖の集束点から淡い光を帯びてウルフの行動を怯ませた。
「万物を変性し望む結果を映し出せ! レッサーポリモーフィズム~!」
淡い光が徐々に強くなり眩しくて見ていられないほどになったとき、サリーは力強く天へ杖を掲げる。すると辺りを眩しく照らし出し、何も見えなくなった。一瞬目が眩むがすぐに光は収まると、ウルフの姿に異変が起きた。虹色のオーラがかかったかと思ったら、姿がグニャグニャと変化し始める。おぞましいウルフの見た目は次第に小さくなっていき、しばらくすると形が定着した。
「コッコッコ…コケッ!」
なんと、ニワトリによく似た生物に変化してしまったのだ!
この魔法はいったい…。俺はすぐにルールブックを開いて魔術リストを確認した。