117話
シールドウェストまで無事帰還。皆を学び舎まで返してあげたいところだが、一仕事残っている。そう、ギルドへの報告だ。学び舎の子たちは皆初めてなので、ソワソワしている。
ギルドへ入るといつもの受付のお姉さんが出迎えてくれる。
「サトル様!いつもご苦労さまです。もしかして、その子たちが依頼を受ける子たちですか?」
そうか…受付のお姉さんは、まだ俺が変なおじさんから依頼を受けたことを知らないんだった。だから、今から依頼を受けるのかと聞いてきている訳だな。
「いえ、依頼は…完了の報告になります」
「え!か、完了ですか…!?え、でもサトル様が依頼を受けて下さった履歴が残っておりませんが…」
受付のお姉さんは手元にかかえていた資料を見返し始める。もしかして、それは全部俺の記録?俺の履歴とやらは、お姉さんがつぶさに記録しているのだろうか?…まぁ良いけど
「違うんですよ。実は―」
依頼を探しているとき、変なおじさんが話しかけてきて、依頼を譲ってくれたことを話した。
「おかしいですね…緊急性が高い案件の場合は、他要員を派遣できますし、ペナルティは無かったはずですが…」
う~んと唸るお姉さん。耳が閉じていて、いかにも困っている様子が可愛い。可愛いが口には出さないぞ
そこに、奥の階段からゆっくりとした足取りでやってくる者が現れた。例のおじさんだ!
「その依頼は、私が直接斡旋したのだよ」
受付のお姉さんが振り返り、叫ぶ
「ギルドマスター!!」
「え、ギルドマスター…ですか?」
え?あの無駄に佇まいが洗練されているおじさんは、ギルドマスターだったのか!?
「お仕事サボって何処行ってたんですか!いつも二階の窓から出入りしないでくださいって言ってるのに!滅多に帰ってこないし!」
お姉さんは手持ちの資料をダーンとその辺で呑んでいる冒険者のいるテーブルに置いて怒った。冒険者は肩をすくめる。
「おおっと、すまんすまん…。愚痴ならあとで聞こうじゃないか。今はサトル君の報告を受けるのが先だろう」
おじさんは冷や汗をかきながら話を逸した。逸し方が下手くそすぎて、すぐに戻っていきそうだが…ギルドマスター、なんだよね…?とりあえず報告だな。
「貴方が、ギルドマスターでしたか。改めまして、サトルです。依頼の斡旋、どのような意図があったかはわかりませんが、しっかりと完遂しましたよ。この子たちが多数のスタージを討伐、数は40以上あったかと思います。魔石は建物への軽微な損害が出た村へ寄付したので、ありません。家畜も人も犠牲者は出ませんでした」
「なんと…完璧に守りきったというのかね?そこの子たちだけで。サトル君のパーティーは直接手を出していないと?」
「はい。『直接』手は出していないですね(サリーがちょっと妨害魔法入れたけどセーフだよね?)」
ギルドマスターのおじさんは、グランやロマネたち一人ひとりをじっくりと目をあわせ、うん。と一言唸る。
「むぅ…スタージを40…それが本当なら、大したものだ。…うむ。彼らを、それぞれ騎士への配属と、冒険者Eランクへと推薦しよう。最年少での配属は異例になるから、少し時間はもらうかもしれないが、将来はしっかりと約束するから安心してくれ。達成内容の事実確認は、村で聞き込みを入れれば分かる話だろう。念のために調査は入れるが、今は完遂を前提として任務の達成。そして報酬を渡そうじゃないか。君たち、本当によくやった」
「残りの銀貨なら、この子たちに。俺の分は必要ないですよ」
グランやロマネたちが目を丸くしてこちらを見ている。
「うむ…報酬だが…結果論になるが、今回の襲撃は村の行先を決定付ける災害だったと思う。報告にあった数の倍は想定外だ。報酬はギルドから金貨を80枚に変更しよう。額が大きいと心配だろうから、冒険者を使い、ヘラヘクス神教戦闘学校に後ほど届ける。その他必要なことがあれば遠慮なく言ってくれ」
そう伝えると、ギルドマスターのおじさんは背を向けて歩いてく。去り際にチラッと俺をみて呟いた
「サトルくん…やはり君には、人を変える素養があるようだ」
スタスタと歩いていく姿を見送っていると、受付のお姉さんがハッとして叫ぶ
「あ!仕事!!逃げる気でしょう!」
ギルドマスターのおじさんは、ゆっくりとした足取りだった動きを10倍ほどの速度に早めて退散した。……ギルドマスターだよね?まぁいいか、帰ろう。
ギルドへの報告が完了した。不明瞭な部分が多いが、全員無事で報酬も貰えたのだから良しとする。これで、予定通りなら後日、いよいよ領主様への挨拶が控えている。
挨拶には色々と手続きがあるらしいから、ちょっとだけゆっくりする時間はできそうだ。仲間への休暇を伝える前に、この子たちともお別れしなくてはならないな。フォノスの行方が気がかりではあるが、彼が居た個室に、何時でも会いに来てね。と宿屋の場所を書いた手紙を置いてあるから、その内会えると思っているが。
学び舎では、先生のドメーヌが皆の帰りを待っていてくれてたようだ。帰ってくるなり、生徒の皆を抱きしめ、よく頑張ったねと労う。グランはドメーヌに抱きつかれたときに、やめろよーと嫌がっている声をあげるが、体は直立不動だった。分かりやすいね、君!
ドメーヌへ、依頼内容と報酬を伝えると、更に泣いて喜んでくれた。預かってもらっていたクリュが近くにいても気が付かないほどに泣き崩れるドメーヌ
「ぐすん…本当に本当に、ありがとうございます」
「いえいえ、皆の未来と、この場所を守る縁ができたことを感謝します。……寂しいところですが、依頼は完了なので、じゃあ…俺たちはこれで―」
「ちょ、ちょっと待つであります!!」
「ああ!サトル!待ってくれ!!せっかくなんだからさ、お祝いに、よ、夜ご飯食べていけよ!」
ロマネとグランの引き止めに、ドメーヌも加わる
「そうですよ!少しくらいお礼をさせて下さい」
「そうですか、それならお言葉に甘えて…みんなもそれでいいか?」
カルミア、サリー、イミスも頷いてくれた
「…みんな、サトルを待っているのよ」
「ウン!みんなでパ~!っと楽しもウ!アタシたちが選んだ子のお祝イ!」
「料理なら、酒場仕込のウチにまかせてよ!スカーレット、手伝ってよね!」
「はい、マスター」
ロマネが俺の手を引いて、グランが背を押して食堂へと強制連行される。みんな笑顔で、本当に幸せそうだ。そんな希望に溢れた子の目を見ていると、とても気持ちが晴れやかになっていく気がする。
「サトル!」「サトルさん!」
グランとロマネたちが、食堂の前で足をとめて、俺に何かを差し出す。
「…これは?」
丸められた紙…しかも上質なものだ。
「みんなで作ったのであります!時間がなかったので、あまり良いものはできませんでしたが!」
「う、うけとってくれよ…みんなで、頑張って描いたんだ」
紙を広げると、そこには皆が笑って手をつないでいる絵が書かれていた。真ん中には俺たちだろう人物が書かれている。そして俺たちも笑っている。上手い下手じゃない、心が込められたとてもすてきな絵だった。
「……う」
少し泣きそうになるが、我慢した。
「ど、どうしたのでありますか!ほら、グラン!やっぱり絵はよくなかったのでありますよ!!」
「うるせー!!お前も、『グランにしては頭がまわるでありまーす』とか言っていただろうが!!」
「な!私はそんな変な喋り方はしないであります!」
「してるでありまーす!」
喧嘩をはじめた二人を抱きしめる。言葉にすると、なんだかダメになりそうだ。
「…」「…」
しばらくそのままの時間が続く。気持ちも落ち着けたし、立ち上がるとしよう。そう、立ち上がるのだ。俺
「よし!お礼に、俺の国での最高の遊びを教えてやる!!食堂にいくぞおお!」
おおー!っと皆がついてきてくれた。
この子たちと出会えて良かった。
これから、この子たちはぶつかり合って、それぞれの道へと進んでいくだろう。
今日までのように、気軽に会うことはできなくなるかもしれない。
その前に、即席で作ったボードゲーム…俺のTRPGを皆で楽しみたいと思う。美味しいものを食べながら食堂で夜更かしして、ちょっとだけ特別な日にしよう。
みんなの声を、笑顔を、もっと一瞬でも目と耳に残しておきたいから。